125.一陽来復

第三部 魔人編

第一章 Happy Spring Day

125 一陽来復

 次の日、チャオズさんはいつものポーズで鰻が入った鍋を宙に浮かせた。
 悟飯さんが獲ってきた鰻は大物だったため、食堂で解体すると水が滴る。

 鰻は太陽の下で解体された。
 滑らかにスーッと身が分かれていく様は思わず拍手してしまうほど美しかった。
 チャオズさんが操る包丁はサクサクと舞い、四角い切り身になった鰻は大きい鍋の中に積み重なっていく。
 大きい寸胴鍋二つ分に入った処理された鰻。
 これらすべてが自分のものだなんて――ちょっと多い気がする。

 鰻は好きだけど、この量を私一人で消費するとしたら何年かかることだろう。
 それに、一体いつ焼けるんだ?

 〈かばん〉があるのに、食べる都度焼くのはめんどくさい。
 今焼くとしても、それとは別に昼ご飯も準備しなければならなくなる。ちょっと不可能。
 かといって、自分が食べるための鰻を焼くので昼ご飯は作れませんなんて、面と向かってチチさんとチャオズさんには言えない。

 ……みんなの昼ご飯と称して焼き、自分が食べる分だけ寄せてしまえばいいのでは?
 それだ。

 早速相談しに行くとチャオズさんに「調理すればいいだろ」と無表情で返された。
 チチさんにも「いいんでねえか」と言われたので、さっそく準備にとりかかった。

 まずは探索だ。CCの庭には工事業者よろしく鉄筋や丸太が詰み上がってる場所がある。
 そこでちょうどいい大きさの石ブロックを探していたら、丸太を運んでいた天津飯さんがいたので聞いてみた。

「あっちに瓦礫があるぞ」と教えてもらった場所は少し遠かったが、すぐにいい感じな細長いコンクリートの瓦礫がみつかった。
 運ぼうとしたけれど……ちょっと重い。おまけに瓦礫の山の上にある。
 〈壁〉で包んで押せば下ろせるかなと考えていたら、天津飯さんが手伝ってくれた。
 そのままあれよあれよと簡易かまどが出来上がる。99%天津飯さんの手によるものだ。

 その後ブルマさんのところに行って金属の網をもらう。串打ちしたくなかったから金網があってよかった。
 炭を起こし、最初に作るのはタレである。味が決まった後は、せっせと焼くだけ。

 夢中になって焼いていると、気がつけばCC出入り口付近に人が集まっていた。
 チラチラこちらを見ている。匂いで引き付けてしまったかな。

 人々に紛れるようにやって来たクリリンさんは、私を見るなりパアッと目を輝かせ近くの調理場に入っていったし、逆に調理場から出てきた天津飯さんは、調理場の近くに石を積み上げ始めた。

 おや?と、思っている間に庭の様相が変化していく。

 天津飯さんは簡易かまどを作り、クリリンさんはCC横に集められていた丸太を切り始めた。
 チチさんは外に大きなたらいを出し、過去と同じように塊肉に味付けしている。
 チャオズさんは見てない。調理室から出てきてないかもしれない。
 ちなみにさっき双子と悟飯さんが同時期に戻ってきて、魚を取りに行くと言って出て行った。

 焼けば焼くほど人が増え、その人たちは匂いの元をたどるように周りをきょろきょろしながら歩いてこちらまでやってくる。
 しかし大抵は目を逸らしたり、ギョッとしたように私を見て離れていく。

 ――意味がわかんねーな……。

 CCに戻ればいいのに、戻らない人が増えてきた。
 気づけば椅子が増え、テーブルも増え。別方向から肉が焼けた美味しそうな匂いも漂い始め、飲み物が当たり前のようにテーブルに置かれ。
 最初こそこそと小さい声だった雑談が、次第に笑い声が響くようになる。

 ちょっと低めの簡易かまどの前、クリリンさんが切り出した丸太椅子に座りながら空を見上げた。

 天気は晴れ。やっと春の陽気が感じられる頃の昼近く。しかもほぼ無風だ。
 庭のあちこちに咲き始めている水仙の黄色い花が目を引く。
 まさに絶好のBBQ日和。もはやパーティーと言っても過言ではないだろう。

「おお? 今日って休み?」
「んなワケないでしょ。誰も戻ってこないと思ったら……」

 ちょうど鰻をタレにつけて焼いているところでヤムチャさんとブルマさんとトランクスさんがやってきた。
 ヤムチャさんは眠そうで、ブルマさんは腕を組み眉を寄せている。
 私は外の調理場とCCの間で作業していたので、よく聞こえるブルマさんの呆れた声にすみませんって心の中で謝った。

「……たまにはいいんじゃないですか」

 トランクスさんがこちらに向かって歩き出す。
 その後ろではブルマさんが口をパカンと開けてトランクスさんを見ていた。

「なにか手伝いましょうか」

 過去でも同じように声をかけてきたんだっけ。
 表情だけは楽しそうなものに変わっている。

「……じゃあ、炭入れてもらえます? 今鰻寄せるので」

 量が量だけにいつ終わるかわからなかったから今日は関西風だ。
 後で食べる鰻はすでに〈かばん〉行き。
 残りを焼いているのだが、如何せん量が多い。
 大皿に鰻を積みあげ、トランクスさんに新しい炭を入れてもらい、また新しい鰻を乗せた。

「これって、ご飯の上に乗せる? 確か前食べた……」
「よく覚えてますね」

 一回しか食べさせてなかったはずだ。
 トランクスさんが精神と時の部屋から帰ってきたときに食べたきりじゃないかな。

「ずいぶん美味しかったから」

 トランクスさんは目を細めて笑った。私もつられて笑った。
 うな丼、美味しいもんねえ。
 わかるわ~と頷いていると、悟飯さんたちが帰ってきた。

「ヤムチャさん、ブルマさん! みてみて!」
「たいりょお!」
「キミたち、朝から元気だねえ~」
「悟飯くんも一緒に釣りに行ってたの?」
「はい、この子らに誘われて」
「あれは釣りじゃないよな」
「うん、釣りじゃない」
「え? そ、そうかな」

 エラから口に紐を通した20匹くらい連なっている魚を掲げて、こちらにも見せつけてくるチルとトーガに手を振る。
 ヤムチャさんは疲れたように笑っていた。
 ブルマさんはやれやれといった感じで笑みを浮かべ、悟飯さんは後頭部を押さえている。
 そのうち調理場の近くからクリリンさんの「おーい、饅頭焼けたぞ~」という声と、チチさんの「串肉もだ。早いモン勝ちだぞ~」という声が立て続けに聞こえてきた。
 私も鰻の大皿を持って「こっちも焼けましたー!」と声をあげた。

 ご飯はもう炊けていて、後ろ側に置いてある。でかい鍋2個分だ。
 鰻がなくなったらおにぎりにでもしようと思っている。

「サーヤちゃん、ひとつちょーだい」

 真っ先に来てくれたヤムチャさんにうな丼を渡す。

「昨日はありがとうございました。双子がまさかケーキ作ってくれるとは思ってなくて」
「ああ、よくできてただろ。二人ともめげずに頑張ってたから……まあ、ちょーっとクセが強かったけど」

『ちょーっと』ってことは結構ってことだな。クセが強いってなんだろ。思い当たることが多すぎる。
 うな丼を持ったまま遠い目をしているヤムチャさんに私は頭を下げた。

「お手数をおかけしまして……!」
「いいよいいよ、そんなの。喜んでもらえたならよかった」

 ヤムチャさんはニッと笑うと天津飯さんのほうに歩いて行った。

 ……いい人ではあるんだよなあ。

 しみじみと背中を見つめていると、CC従業員に「一つ欲しい」と声をかけられた。
 一人にうな丼を渡せば人が集まってきた。
 中には半分がいいという人もいてそれに対応していたら、ひとりではとてもじゃないが手が足りない。
 ちょうどいいので暇そうに座ってたトランクスさんに鰻を焼かせることにした。
 そしたら離れたところにいたブルマさんに微妙な顔をされてしまった。
 自分の息子にやらせるなってことだろうか。本人が手伝いを申し出たんですよ。

 CCの従業員はうな丼1杯を食べ終わると肉が焼かれているクリリンさんやチチさんの焼き場に群がった。双子もそちらで焼いてもらうらしい。
 こっちは鰻で埋まってるからだろう。
 求める人が少なくなればその分丁寧に作業できる。
 つまり余裕を持って自分の分を用意してゆっくり焼きたてを食べられるということだ!

 焼き目がついた鰻をタレを少しかけた白いご飯の上に乗せる、これだけでビジュアルは完璧。
 これはまずトランクスさんに食べさせよう。手伝ってもらってることだし。

「トランクスさん、何杯食べます~?」
「……うん」
「うん? 沢山あるけど取っておかないと――」

 自分の分もご飯をよそいつつ聞けば「うん」としか返ってこなかった。
 生返事が過ぎる。
 眉間に皺ができているのを自覚しながら私は横を見た。
 すると、トランクスさんが左手で目を覆い隠すように押さえているではないか。

「――どっ、だっ、大丈夫ですか!?」

 ぱっと見、泣いているように見えて心臓が嫌な感じにはねた。

「うん」

 唇はなにかを堪えるように歪んでいる。

 その「うん」は意味がこもってる「うん」なんだろうか。
 ……本当に泣いてたらどうしよう。

 どう声をかけたらいいのか、わからなくて。

「もっ、もしかして、煙が目に染みました? ちょっ、ちょっと待っててくださいね!」

 オロオロしながらとりあえずタオル濡らして渡す。

 そしたら「フッ」と笑われた。
 明らかに笑いの息の出方だった。
 なんで笑うんだ。意味がわからない。

 笑えるなら大したことないのかな。取り越し苦労だった? ……まあいいか。
 自分の分さっさと作っちゃおう、と鰻を乗せたところで双子が飛んで来た。

「うなぎちょうだい。できてるのある?」

 肉の刺さった串を両手に持ったチルが私が持ってるうな丼で視線を止めた。

「二つならあるよ。もっと?」
「えーと、クリリンさんと天津飯さんと」
「6だってろ……どうしたトランクス!?」

 口の周りをケチャップでべたべたにしながらソーセージ串を頬張ってたトーガが、目をまん丸にして驚いている。チルは数を数えながら二度見していた。
 トランクスさんの様子気がつくとは……目ざといやつだ。

「煙が」

 目にタオルを当てているトランクスさんは言葉少なに声は少し掠れていた。
 トーガとチルが責めるように眉を寄せて私を見る。
 そのビリビリとした視線を受けた私は抗議するように首を横に振った。
 私はなにもしていない!

 双子はお互い顔を見合わせたかと思ったら、手に持ってた串を全部トランクスさんの前に差し出した。

「食え!」
「……え?」
「魚がよかった? 取ってくる!」
「サーヤ、うな丼6つだからな!」

 トーガとチルはそう言うなり、串を鰻が焼いてある端っこに置いて飛んでいった。
 行動が早い。慌ててチルを呼び戻し、うな丼二つ持って行ってもらった。
 さて、双子が戻ってくる前にさっさと残りを作ってしまおう。

 トランクスさんを見れば、トーガとチルが置いていった串焼きに顔を向けていた。
 明らかに食べかけのケチャップがついたソーセージが一番上に乗っかっていたので掴んで口に入れた。
 流石に1/4ほどの食べ残りをトランクスさんには食べさせられない。
 しかしトーガが食べかけを残していくとは。よほどびっくりしたみたいだ。

 私はソーセージを齧りながらご飯をよそい始めることにした。
 4つと言わずに台に乗せられるギリギリまでご飯をよそう。数的には今焼いてある鰻と同数だ。
 ちょうどソーセージを食べ終えたころに私はトランクスさんに声をかけた。

「トランクスさん。焼くの代わるので食べてくださいな」
「……いや、まだ」

 私は表情を確認することなくトランクスさんの右手からトングを奪い取り、ご飯の上によく焼けている鰻を乗せた。

「出来立てをふーふーして食べるのが一番おいしいんですよ。それを逃すだなんてもったいない。――はい」

 空いた右手に丼を押し付けて持たせると、そこでいったん双子の姿を探す。
 調理場の奥でせっせと焼いているクリリンさんの前に赤い色が並んでいるのが見えた。
 まだ来なさそうだ。――なら食べて待っていよう。

 つやつやとしたうな丼が並ぶ中、一番鰻が大きいものを両手で持つ。
 昨日誕生日だからこれくらいの私欲は許されるはずだ。

 選んだうな丼は思わずじっくり見てしまったし、なんなら笑いが漏れた。
 好物ってどうして目の前にあると笑っちゃうんだろう。
 ニコニコしながらスプーンをザクッと鰻に刺した。

「んむう!」

 口に運べば声が出た。

 やっぱりうまい。
 炭火で間違いないね!
 巨大だったから身が硬いかなと心配していたけどそんなことはなかった。
 ふわふわしている身と薄い皮! とても美味!

 そして私は今日、空腹である!
 チャオズさんが捌いて、天津飯さんがかまどを作ってくれたおかげで疲労はほぼなし。ソタ豆を食べるに至ってない。
 毎食味見でお腹がいっぱいになってしまう料理の数々もない。うな丼オンリー。
 つまり、お腹を鰻で満たせる! 最高ー!

 もう少し食べたらスプーンでざっくり鰻を小さくして~、過去の武天老師様からもらった海苔と今朝取った出汁をかければ~……出汁! 温めてない!
 私はあたりを見回した。
 やかんに入れて置いておいたはずだ。右、左、後ろときょろきょろと視線を巡らせると、米が入った鍋の後ろに隠れていた。

 あーよかった。なかったらアンハッピーバースデーの思い出になるところだった。
 私はやかんを網の上に乗せると、元の位置に座り直し、改めてうな丼を口に運んだ。
 そしてうな丼が半分になるまで食べ進め、〈かばん〉から海苔を取りだし炭の上で炙った。

 過去で身体を張って手に入れた海苔。たくさん入れよう。
 バリバリバリと音を立てて小さくちぎり、うな丼の上に乗せ、出汁をかける。
 春真っ盛りとは言えないこの絶妙な時期に、太陽の下でみるひつまぶしの美しいことよ。
 えへっ! いっただっきまー、

「なに食べてるの?」

 ちょうど口に入れた瞬間に双子が戻ってきた。
 出汁が熱くて思わず「あひゅっ!」って言い放った私に構わず双子は覗き込む。

「なんでお茶漬けにしてんの?」
「ノリいっぱいだー」

 魚や肉に野菜が刺さったデカい串焼きをそれぞれ両手に持った双子は私のひつまぶしを見つめている。

「……うな丼ならそこにあるよ。持って行って」
「オレ、それが食いたい」
「わたしも食べたい」

 双子が手に持ってる串でひつまぶしを指した。

「いや、そこまで美味しいもんでもないよ。普通にうな丼食べたら?」

 君らはきっと、うな丼のほうが好きだよ。
 お茶漬けだってそんな好きじゃないし、甘辛い鰻にだし汁かけて食べるっていうのは慣れてないでしょ。

「サーヤがおいしくないって言いながら食べてるのはうまいんだ。オレは知ってる」
「本当においしくなかったら食べないでしょ」

 口に合わないだろうから忠告したのに、双子に半眼で睨まれてしまった。
 ほー、じゃあ食べればあ?と言い返す前に、隣から笑い声が聞こえた。

「くっ、ハハハッ!」

 ……なんかいきなりトランクスさん笑いだしたんだけど。

 トランクスさんはもうタオルで顔を押さえてなかった。目元はちょっと赤かったけど。
 爆笑している姿は今まで見たことがない。
 そんなに笑えること言っただろうか。
 双子と顔を見合わせたが実に困惑気な顔をしている。

 我々がそんな表情で見ているというのに、なにがツボだったのかトランクスさんの笑いは止まらない。
 双子の口はどんどんへの字に変わっていって、とうとう我慢できなくなったようで開いた。

「なんで笑うのー!」
「意味わかんねー!」
「だ、だって……ふっ、クククッ!」

 あまりの変わりように酒でも飲んだかなと酒乱の気を疑う。周りを見てそれらしきものがないか確認してしまった。

「どうしたんだ、トランクス!」

 悟飯さんがめちゃくちゃ心配そうな顔をしながら走ってきた。あまりにトランクスさんが笑うからだと思う。

「大丈夫か? なにか変なものでも……」
「違っ、さんにんが、ふふ、食い意地張っててっ……ハハッ!」

 手の甲で口元を押さえながら目元を赤く染めているトランクスさんに、悟飯さんが呆けた顔をして「え?」と返事をしている。

 食い意地張ってる三人って明らかに私らじゃん。
 それだけで笑ってんの!?

「失礼な。妥協してないだけです! そのおかげで美味しいご飯が食べられるんですからね!」

 私と同様、双子も呆れたようにトランクスさんを見ていた。

「……えーと、よくわからないけど、楽しそうでよかった」

 楽しそうってトランクスさん爆笑してるからですか?
 結構雑に流すんだな。
 悟飯さんは眉を下げながら笑っていた。

「串転がっても笑うんじゃね?」
「見てほら、猫!」
「どうせ作るなら眉毛だろ。こう!」

 双子は食べ終わった串で遊び始め、串遊びを見せられたトランクスさんは「いや、もう、さすがにっ」といいつつ胸を押さえながらヒイヒイ言っている。

「……あんまり笑うならトランクスさんの分残しておきませんからね」
「ハハハハッ!」
「なーんでさらに笑うかな!」

 もう知らん! ひつまぶし食べる!
 怒りながらスプーンを口に運んだらせっかくのひつまぶしがぬるくなってしまっていた。
 春とはいえまだ肌寒いんだ。そりゃすぐ冷めるさ。
 どうしてくれる。

「……トランクスさんのせいで私のひつまぶしが冷めたじゃないですか」

 恨みを込めて喋ったら、また笑われた。そして「もうやめてくれ……っ!」と懇願された。
 知らんがな!
 無視して冷めたひつまぶしに口を付ける。

 その後、双子が海苔をあぶり鰻をひつまぶしにして食べ、肉はおろかご飯さえもなくなったころ、ようやくBBQはお開きになった。
 トランクスさんは珍しくぐったりしていて、双子がここぞとばかりにつついて遊んでいた。
 私は心の中でもっとやれって思いつつ三人を眺めた。


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