13.イマイチな芋もち

第一部 旅編

第二章 旅立ち

13 イマイチな芋もち

 最初の星から旅立ったのは、二日後のことだった。

「そういえば名前なんだっけ? チロ?」

 ジャガイモの皮を剥きながら問いかけると、散らかし放題で遊んでいた弟が毛玉を持ち上げて言う。

「シロ! トーガがじゃんけんで勝ったからシロ!」
「ちいちゃんがよかったのに……」

 毛玉改め、シロをじっと見た。
 シロは大人しくトーガに撫でられている。身じろぎひとつしないところがぬいぐるみっぽい。
 ……情操教育にもなるだろうか。

「力を込めたら死んじゃうからね? 特にトーガ」
「わかってるよ! そうっとでしょ!」
「あ!」

 撫でられるのに飽きたのか、シロはトーガの腕の中からポーンと飛び出し、ころころとボールのように転がりだした。
 さして広くない宇宙船の中を円を描くように転がり、それを双子が追いかける。
 双子がシロで遊んでいるというよりは、シロが双子を面倒見ているように見える。

「蹴ったらシロ死ぬよ」
「もー! わかってる!」

 他の毛玉もいたのだけど、双子は『最初に見つけた毛玉がいい』とシロを宇宙船に乗せた。

 ころころ転がるシロを抱えるように捕まえると双子は笑いだす。
「もう一回やってー」とチルが言うとシロはまた転がり始めた。

 なにが面白いのか、さっきから同じことを繰り返してる。よほど気に入ったらしい。

 いやー、いい拾い物をしたもんだ。
 先日大量に手に入れた芋を滞りなく調理できそう。

 しみじみと思いながら作業に戻る。
 皮を剥いた芋を鍋いっぱい茹で、父に作ってもらった麺棒でゴスゴス潰す。
 いつもなら邪魔をされるのに、今日は一切入らないからさーくさく作業が進む。
 が、量が量で途中でめげたので双子にやってもらうことにした。
 程よく潰れた芋に小麦粉代わりの黄色い粉を加え、丸めて焼けば芋もちのできあがり。
 それに塩をかけて食べる。

「おいしい!」
「……うーん……」
「食べないの? ならちょーだい」

 皿に手を延ばしたトーガに、チルはふるふると首を左右に振って拒否をする。
「美味しくなかった?」と聞けば、チルは俯いてぼそっと呟いた。

「チルね、あんまり好きじゃない。なんか、ヘン……」
「ほー? んむ、わかんない」

 あー。
 焼く時に使った油は猪から取ったラードで、確かにちょっと……いや、かなり獣臭い。
 でも仕方ないんだ。試行錯誤してそのクオリティだからあきらめて食べてくれ。

「ムリして食べなくてもいーんじゃない? ……もらい!」
「あー!」

 トーガがチルの皿から芋もちを取っていった。

「それチルのー! ……ううう」

 取られたチルは今にも泣きそうだ。
 妹はおとなしいほうで、すぐさま取り返すということはしない。
 逆にトーガは男の子らしく活発で、はつらつとしている。

 双子って性格似るイメージがあったんだけど、結構違うんだよな。

「なんだよー、食べてやったのにー」

 こういう光景を見ると自分の前世を思い出す。
 弟妹がいるとどこもこうなのだろうか。自分はトーガの立場だったが。

「なんでまだあるのにわざわざチルの皿から取っていくかな。チルもまだあるんだからそれぐらいでいちいち泣かないの」

 チルの皿にいくつか芋もちを置きながら、自分で言ったことにはっとする。

 これ、前世で母親に言われたことそのまま……だ!

 手からぼとっと芋もちが落ちた。

「だって、チルのが……チルの……」

 口をへの字に曲げてチルがトーガを見つめる。
 元凶であるトーガは知らん振りして水を飲み、また芋もちを食べ始めた。

「……睨んでたって戻ってこないんだから、食べちゃいなさい。食べられる前に」

 そう諭すとチルはむぐむぐと口に入れて食べ始めた。

 そうそう、食べないと取るぞ。
 たぶん今トーガが食べてるのがなくなったら、チルの皿から取って食べる。絶対やる。私がそうだったからな。

 光景はまるで幼いころの自分と妹のようだと今更ながら気がついた。

 いや、気のせいだ。気のせいということにしておこう。男の子だし。まさか私のような育ち方なぞすまい。
 ……そんなことになったら……いや、なる前に矯正しなければならない……。

 自分の数々の黒歴史を思い出し、真剣にそう思った。

「あー! またとったー!」
「らって、食べないからー」
「食べるもん! とらないでよ!! トーガのばか!」

 思ったとおりの展開になって心境は複雑だ。
 なんで子どもも産んだことないのにこんな気分にならなきゃいけないんだ。
 私まだ……。
 そこで自分の年について考えると、確かに今は子どもだが、前世から換算すれば三十路を超えていることに気づいてしまった。
 連鎖で考え付くのはオタクならではの考えである。

 今の私、いわゆるロリババアってやつだ……。

 見た目幼女の年増。

 自分がそんなマニアックな存在になってしまったという事実に、すっごく泣きそうになりながらひっそりと口元を覆った。

「……どうしたの。おねえちゃん」
「だいじょうぶ? どっかいたくなったの?」

 本当に涙が出てきて、それを心配したらしい双子が覗き込んでくる。
 私はそれに「仲良く食べなさい」としかいえなかった。

 気づきたくなかったことに気づいてしまったこのやるせなさ。
 両親が生きていたらそもそも気づかなかったのかなと思いながら、私は晩御飯の支度を始めた。
 残った芋もちはシチューの具になり、それならば美味しいとチルに言われ安堵したのだが、心の闇は晴れなかった。
 晴れるわけない。

 鬱蒼とした気分だったが、翌朝になると晴れた。
 久しぶりにゆっくりと眠ることができたからだ。簡単なものである。

 それというのも双子が眠る時に泣かなくなったことが大きい。

 シロのおかげだと思う。虫テラピーか?
 双子は必ずシロを挟んで眠り、眠った後シロは宇宙船の隅に避難している。

 なんて賢い虫なんだ。

 それを見たとき感嘆した。
 双子の、特にトーガは寝相が悪い。蹴ってくるから巻き込まれるとものすごく痛い。

 この虫、葉っぱを与えれば食料を生み出し、排泄物は口から吐き出すがちゃんと決められたところにするし、うるさくもなければわずらわしくもない。
 いやシロ様と呼ぼう。シロ様はまるで自分に与えられた役目をわかっているかのように双子とともに過ごし、双子の相手をしてくれる。
 足向けて寝られない。
 特にもてあましがちな宇宙船での星間移動の時間、シロ様は私たちの癒しになり――マジで助かった。

 + + + + + + + + + + + 

 それから、三ヶ月が過ぎた。
 その間いろいろな星をめぐったが、人がいる星にはいまだ辿りつけてない。
 知的な生命体すらもいない星で、食料を補充しながら細々と旅を続けている。
 最初こそ毎食後食糧庫を見て、減っていく勢いにビクビクしていたが、最近じゃそんなこともなくなった。
 星間の移動はほぼ1週間。それ以上間隔が空くことはなかったからだ。

 宇宙船の画面にはトルシ星という名前が表示されている。
 次は人が住んでいる星のようだ。
 周囲と違う名前がついている星には住民がいる可能性があると父が言ってた。
 父の言うとおりならいるはずだが、他の情報欄には《白い》としか書かれていない。

「もうちょっと書けなかったか? フリーザ軍適当だな」

 つい悪態をついてしまった。
 ……空気に問題はないし、星自体の構成物は無害そう。だけど景観の写真はない。
 気になるのは星の評価に《無価値≫のマークがついてるところだ。
 今まで訪れた星は評価が低いところばかりだったけど、《無価値≫の星はなかった。
 無価値だから書いてないのかな?
 双子をある程度育ててから地球に向かおうと思っている私にとって、宇宙船の情報が頼みの綱なんだけどな……。

 まあともかく、降りてみよう。
 ちょっとでも食料があればよし。
 敵対生物がいたら逃げよう。

 私は布を取り出し、双子の首元に布を巻きつけた。

「動かないでよ。ずれちゃう」

 笑うトーガを押さえてきつくないように巻いていく。

「くすぐったいんだもんー! うごいちゃうよー! ふふっ、あははっ!」

 身を捩るものだからうまくできない。

「くすぐったいのやだなー。どうしてもやらなきゃだめ?」

 側で見ていたチルが覗き込んでくる。

「だめ。悪い人に見つかったら攫われちゃうかもしれないんだからちゃんとしないと。母さんだって言ってたでしょ? 隠しなさいって」

 そういうと、トーガはぴたっと動かなくなった。
 この隙に!
 手早くトーガの首に布を巻きつけて留めて、次はチルの番だ。

「……おかあさん、いってた?」
「うん、言ってた言ってた。次チルの番――」

 さっと布をもってチルに向き直ると、チルは少しだけ涙目になっていた。

「……おぼえてない」

 チルのへの字になった口からこぼれた言葉にギクリと体が強張った。
 ――まずった。
 瞬間的にそう思った。

「そんなの、おぼえてな……」

 そのまま泣き出しそうになったチルの横をすーっと進んでくるボールがあった。
 シロだった。
 シロはそのままチルの横にくっついたように止まると、ころころと転がりだした。

 幼児だからだろうか。
 チルはシロに目を取られたようにじっと見ている。

「……母さんはそのうち会えるだろうから、そのときまた覚えよ」

 そういうと、「うん」という返事の後しゃくりあげるような音が続いた。
 チルに断って首に布を巻きつけていると、トーガが「ねえ」と声をかけてきた。

「悪い人やっつけようよ。たくさんやっつけて、いなくなれば隠さなくてもよくなるじゃん!」

 ものすごくきらきらした目でいわれた。

「それはだめ」
「えーなんでー?」

 いなくなることなんてないからだよ。
 むしろそんなことをしたら宇宙に名前が轟くことになるんじゃないか?
 もっと面倒じゃん。
 布を留め、私はトーガに向き直った。

「たくさんやっつけたらその分たくさんの人に狙われるようになるよ。とっても強ーい悪い人が来たらどうするの。捕まったりしたら地球に行けなくなるよ」
「だいじょうぶだよ。トーガつよいもん」

 なぜか勝ち誇ったような顔で言い張られた。
 その絶対的な自信は幼児らしくて微笑ましいとも思うのだけれど……説得に骨が折れるなあ。
 はあ、と口からため息が漏れた。

「チルはおかあさんの言うこときく。チキューにいったらおかあさんにほめてもらうから」

 ずずずっと鼻水をすする音とともにそんな言葉が聞こえてきたものだから呆気に取られていると、トーガも負けじと言い返し始めた。

「トーガはたくさんやっつけておとうさんにほめてもらう!」
「トーガはおかあさんの言うこときかないんでしょ? じゃあおかあさんはほめないもん!」
「そんなことない! やっつければ……!」

 その後に続く言葉がうまく出せないらしく、トーガは「ウーッ!!」と悔しそうに唸った後、チルに掴みかかっていった。そうなるともう兄妹喧嘩である。

 最近口が回るようになったチルは、トーガになにかされてもはっきり言い返すようになっていた。
 子どもの成長って早いなあ。

 ……なんて悠長に考えている場合じゃない。
 私は思いっきり息を吸った。

「やめなさい! 宇宙船壊れるでしょ!!!!」

 怒鳴ると、耳をふさいで転がる双子ができあがった。

 ……虐待したみたいだけれど、力もすでに敵わない私が無傷で双子を止めるにはこれしか方法がないのだ。
 〈壁〉はよほどうまくやらないと腕とか足とか切ってしまうし、〈氷片〉は双子がよけたら宇宙船が壊れる。どちらにせよ船内であまり使いたくない方法だ。

「声おっきいよ! 耳おかしくなる!」

 転がったままトーガが怒った風に声を上げた。

「おかしくならないよ。セーリヤ人は耳強いから」

 私は学校で大きな音に対する訓練を受けていた。訓練といっても耐性をつけるだけのものだったけど。
 でもそのおかげで逆に双子が大声を出したとしても耳が痛くなることはない。

 双子は学校に通っていないので耐性がついていないのだ。でも私が怒鳴り続ければ効かなくなっていくんだろう。
 今だけできる方法なんだろうなあ。

 気を取り直して私は転がる双子に言い聞かせることにした。

「……人がいる星では悪い人がいてもいなくてもおとなしくしていること。やっつけたりしないこと。後、セーリヤ人だって誰にも言っちゃだめ。わかった?」

 返事はなかった。

「〈壁〉とかも言わないでよ。あとひとりでどっか行かないこと。羽が隠れているかたまに見ること」
「そんなにいっぱい、わかんないよ!」

 トーガがガバッと立ち上がり、頬を膨らませた。

 覚えることがいっぱいだもんね。

「大丈夫。覚えるまで言うから」

 私はにっこり笑って言った。

「……チルはちゃんとおとなしくしてるもん……」

 床を転がったまま小さく主張するチルの周りを、シロが我関せずというふうにころころと転がっていたところでその話は終わった。


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