99.英雄の条件

第二部 人造人間編

第四章 越える線

99 英雄の条件

「ちょっと失礼」

 言われるままに右側に身体を寄せる。
 するとトランクスさんが身を乗り出してタイムマシンの操作部をいじり始めた。
 明らかに邪魔になっている。大きくなったのがこんなところで弊害をもたらすとは。

「すみません」

 今度は左側らしい。
 身をよじるが狭いタイムマシン内だ。どうやっても密着してしまう。
 少し、いやかなりきつい。

「もっと足寄せられますか?」
「寄せます!」

 ガラス窓に手をついて可能な限り足を曲げて身体を縮める。
 極力トランクスさんに触れないようにしたいのだ。膝の上に乗ってる時点で無駄なんだろうけど面積を減らしたいし、って考えているうちに足元をトランクスさんが覗き込む。

 下半身近くにトランクスさんの頭があるとかマジで勘弁して欲しい。
 無理な体勢を維持するために太ももがプルプルしているし。

「くっ」
「あ、もういいですよ」

 そういわれて足は下ろした。
 でも身体はよじったままだ。

 ……このままでいいのでは? 接地面積少ないし、どうせまたタイムマシンいじるでしょ?
 そんな思いで動かないでいたらトランクスさんが私の左肩を掴んだ。もう片方の手で腹も押さえられた。

 途端に悟飯さんに押さえつけられたことを思い出し、一気に恐怖心が湧き上がる。

「いっ――……?」

 だが私が抗議の言葉を吐き出す前にトランクスさんは私を膝の真ん中に座らせた。
 位置を正したというべきか。

「寒かったり暑かったりしますか?」
「は……?」

 ちらりと後ろを見るとトランクスさんはいたって普通の表情だった。

「あ、いえ。だいじょうぶです」

 平静を装って返事をした後、私は正面を向いた。

「そうですか」

 それっきり、私もトランクスさんも黙ってしまった。
 沈黙の長さに比例して、じわじわと羞恥心に襲われる。

 トランクスさんに襲われるだなんて天地がひっくり返ってもありえないことなのに、そんなことを少しでも考えてしまうとは!
 恥ずかしい!

 起こるならとっくに起こってるはずだ!
 今に限らず、ミスターサタンに会いに行ったときとか、夜に部屋に来たときとか!

 それに乙女に向かって臭うとか! 怒鳴ったり、睨んだり、馬鹿とか言うし!
 ナンパしてきた美人と私とで態度変えるし! ボールみたいに抱えるし!

 思い出せば出すほど絶対対象範囲に入ってない!!
 取り越し苦労! 自意識過剰!!

 あああ、恥ずかしい……!!

 悟飯さんが悪いんだ! あんなことするから!! あのメシア~~~!!

「……本当に大丈夫?」
「だいじょぶです!!」

 皺になるくらい自分の服をぎゅっと握り締めて羞恥に耐えていたら心配されてしまった。

 考えるのはやめよう。この人は紳士! はい終わり!

 意識をそらすためにトランクスさんに話しかけることにした。

「あの、未来に帰ったら人造人間を倒して、すぐにでもナメック星に行きますか?」

 少しだけトランクスさんのほうに首を向けた。すると思ってたよりも近くに顔があり、それはそれで心臓に悪い。そのままだとちょうど私の肩に頭乗るんじゃない?

「いや、セルの研究所も破壊しておきましょう。場所を覚えているからさっさと消してしまったほうがいい」

 消す。

 ……そういえばこの人、フリーザを切り刻んで気攻波で塵にしちゃうし、セルも……。
 それ、人造人間にされるとちょっとまずいぞ。

 話を続けながら、頭の隅にそのことをとどめておく。

「あー、じゃあ全部終わってからナメック星に?」
「そうですね。その方が色々と安心できますから」

 頷いて、その流れのまま私は留めておいたものを吐き出すことにした。

「あの。人造人間を倒す時には塵にしないで欲しいです。そして死体?を持ってきて貰いたいんですけ、ど」

 トランクスさんの表情が一瞬で強張り……眼差しが鋭く変わる。
 言い終わってから、もうちょっとオブラートに包んだほうがよかったかなと後悔した。

「……なぜ」

 さっきまでほのぼのと話していたのに一気に極寒の吹雪の中にいるような雰囲気になってしまった。氷のような冷たい視線がびしびし突き刺さる。

「いえ、あの、倒すなといっているわけではなく、人造人間を倒したという証拠をですね。手に入れたくて」
「だから、なぜ。奴らはかけらも残しておきたくない」

 声も低音で超怖い。

「み、ミスターサタンに英雄になってもらおうかなって」

 吹雪は収まったが、今度は沈黙が痛い。

「意味がよくわからない」
「あ、あのですね――」

 過去でわざわざミスターサタンの気を覚えた意味、つまり未来の魔人対策なのだが。魔人を倒すためには地球の英雄になって貰わねばならない。
 安直な作戦なのだけど、人造人間の倒した証拠である体の一部をミスターサタンに渡し、倒したということにしようかなと。
 説明していくにつれてトランクスさんが「うーん」と唸りだす。

 ……あれ、もしかして。

「トランクスさん、なりたかったですか?」
「え?」
「そうなると私の知ってる未来から外れますからできればやめて欲しいんですけど…………男の人ですもんね。ちやほやされたいですよね……」
「ちっちやほや!?」

 英雄になったらなんでも思うままだもんね。
 皆から賞賛され、見た目麗しい子を侍らせて、一生左団扇で暮らす。
 そう考えるのは皆一緒か。そうだよねえ。でもさー……。

 私は体の角度を変えて後ろにいるトランクスさんに視線を合わせた。

 トランクスさんの顔より、私のほうが目線が上だ。
 もしかして座高のせいか。私のほうが背が小さいのに。

 きつい目元は驚いたようにまん丸に変り、口が半開きになるのを見ながら続ける。

「でも平和になれば顔が良くて家がお金持ちならそれだけで勝手に若い女の人が群がりますよ。それこそハイエナみたいに……過去でもそうだったでしょ? それで我慢しませんか?」
「え? えっと」
「ついでに言いますけど、平和になったら本当に気をつけないとダメですよ? 知らないうちに妊娠しましたから責任取ってくださいなんていわれたらどうします?」
「は、にっ!?」
「世の中には手が触れただけで妊娠したって言い張る女もいますから本当に警戒しないと」
「ま、待って! ストップ! ならないから!」

 肩を掴まれ制止させられた私は口を噤んだ。
 徐々に焦ったような顔になっていくのが面白くて話盛ったけど、あながち間違いでもないと思う。
 そっぽ向いたトランクスさんの横顔は困ったように眉が下がり気味だ。

「必要なことなんですよね? その、サタンを英雄にすることが」

 私はこっくり頷いた。

「もし次の敵が現れるなら地球人向けの英雄が必要になるので……ミスターサタンなら私が知っている未来のままだし、ちょうどいいかなと思ってるんですが、駄目ですか」
「サーヤの知っている通りでいいと思います。でも証拠が……手加減なんかできないから、難しいかもしれない」

 首を元に戻し考えてみることにした。
 確かに積年の恨みを晴らす時に手加減なんかできないだろう。
 でも塵にされると計画がな……。
 あっ。

「じゃあ、私が不意打ちで腕とかだけでも切り落とせば……」
「ダメだ。俺がやらなきゃいけないことだから」

 取り付く島もなかった。
 いい考えだと思ったんだが……ふうむ。
 また思考の波に入ろうとしたとき、トランクスさんがぽそりと言い出した。

「……要は人造人間だって証明できればいいんですよね」

 ええ、まあ。そうなりますね。

「あいつらほぼ人間ベースなので腕じゃただの人間ですよ。機械が出てればそれなりに見えると思うから16号の設計図を元にして作れば――それっぽく作れると思います」
「えっ設計図?」

 そんなものをいつの間に手に入れていたんだ!
 頭を斜め後ろに倒すと、かなり近い距離で灰色のように見える瞳と目が合う。

「万一のことを考えて16号から18号までの設計図は複製して持って来てあるから、顔以外だったらたぶん機械で作れます」
「ば……ばれないんですか?」
「そんな粗末なものを作る気ないけど、科学自体が20年前から進歩したわけじゃないから……わかる人は少数じゃないかな。……それじゃあ駄目?」

 ちょっと困ったような顔をしている。珍しくて思わず黙れば、ダメなのだと解釈したのか、トランクスさんは続けざまに話す。

「最悪停止コントローラー作ってミスターサタンに渡せばいいんじゃないですか? 技術提供はうちでやったってことにして、サタンにはそれと部品でも渡せば皆信じるでしょう」
「えっと、いいと思います。それで」

 こくこく頷くと、頷き返された。

「じゃあ、あいつらとセルを倒して、ドラゴンボールで皆生き返らせた後でも大丈夫そうですね」
「そうですね。ミスターサタンが死んでたら生き返らせないと。ナンパされてまで覚えた意味がなくなってしまいますからね」
「まだそれ引っ張りますか。大丈夫ですよ。……そんなに俺って頼りない?」

 口がへの字に曲がったのは拗ねたからだろうか?
 頼りないというよりも……。

 童貞っぽいから騙されやすそう。

 ―――とはさすがに地球が滅びてもいえない。

「ブルマさんにいじられるんでしょうね……」

 答えない代わりにぼそっと言えば、「それは勘弁してください」とまた肩をつかまれたので笑って留めておいた。


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