第一部 旅編
第四章 懐古
36 アルカトラン
Q.目の前でアジア人のような顔をした男性が、10mくらいの4つ目の熊みたいな動物と対峙していました。
どうしますか?
A.見てしまったので助ける。
Q.どうやって?
「危ない!」
A.とりあえずチルが気弾を放って熊を昏倒させる。その後トーガが蹴り上げ頭が打ち上がった後、頭と胴を分離し絶命させる。
どっすーんと地震でも起きたかのような地響きをさせながら熊は倒れた。
ちなみに血が飛び散らないように〈壁〉で対処済み。伊達に動物狩ってないのよ。眼鏡で目も見えることだし。
「ひっ、あ、あの、か、かか神様ですか? て、天に連れて行かれるんですか??」
ガタガタと震えながら男性が言った言葉に、トーガとチルが首を傾げる。
「かかかみさまってなんだ?」
「さあ?」
「神様ではないですよーどこにも連れて行きませんよー」
混乱している男性に水を飲ませ落ち着つかせると、ぽつぽつと話始めた。
「2人で見回りをしていたのですが、帰り方このクズロに会って襲われてしまったのです。一人は出会いがしらに殺され……死、死を覚悟していたところだった……」
ぼろぼろと涙を流す男性は若く、よほど恐怖だったのかまだ身体が小刻みに震えている。
そうだよね。普通死を覚悟して助かったならこんな反応だよね、と遠い記憶になりつつある黄色いトカゲを思い出した。やっぱあの人大物だったな。
私は落ち着かせるために背中をさすってあげた。
「通りすがってよかった。私たちはさっきこの星に着いたばかりなんです」
「えっ外星からやってきたのですか!? ……あ、でもそうか。それしか考えられないもんな……!」
男性は一転驚いた顔になり、「もしかして」と座ったまま後ずさった。
「フ、フリーザの仲間だったり……しますか?」
「違います。仲間ではありません。ただの旅人です」
「いや、でも、普通の子どもはクズロを倒せない……サ、サイヤ人とか、ですか?」
ものすごく怯えたような顔をしながら見つめてくる男性を見て、私たちは沈黙した。
もしかして、ここもなんだろうか。
そう思ったのは私だけではなかったらしい。
「サイヤ人はどれだけ嫌われているの」
「なにやってんだよって殴りたくなるな」
全くだよ。どこの星も出入り禁止っぽいじゃないか。父さんには悪いけど、滅びて当然なんじゃないの。
「確かに私たちは半分サイヤ人の血が流れてます。けど危害を加えるつもりはありません。私たちは食べ物とかを補給するつもりでこの星に下りたんです。人がいるとは知らなかったし、出て行けというならすぐに出て行きますけど」
「い、いえっ。助けてもらったのにお礼もせずに帰すなんてできません! そ、それに……」
男性は口を一文字に引き結んだ後、意を決したように口を開いた。
「戦闘民族と呼ばれるほど強いのなら、我々を助けていただきたい! クズロはこれだけじゃない、まだたくさんいるんです!」
へっ?
私たちは顔を見合わせた。
「クズロは人を襲って食べるのです。一応武器も持っていたのですが、狙いが定まらず……毛皮も厚すぎて当てても効きやしない……」
男性が出したのは銃だった。白っぽい猟銃のようなそれは熊――いや、クズロだっけ。を倒すには確かに貧弱すぎる。
「お願いします! 我々には戦士がいないんです。助けていただけるのなら、できる限り望むものを用意します! 食料であればたくさん、クズロをすべて駆逐できれば用意できますから!」
ほう。食料をいただけるのならいいかもしれない。
しかしこの人必死だな。
反応からしてフリーザ軍やサイヤ人になにかされたのかもしれないけど、それでも私たちのような子どもに頼るってことはよっぽど切羽詰ってるんだろう。
頭を下げている男性に近づいて、私は背中をぽんぽんと叩いた。
「倒す位なら喜んでお手伝いします。二人ともいいで……」
ふと双子を見ると目の色が変わっている。顔つきはすっかりハンターになっていた。や、殺る気だ……!
「ありがとう、ありがとう!」と手を握られ、まだ倒していないのに感謝されてしまった。
村に案内すると言うので、トーガが男性を背負って連れて行くことになったのだが……。
クズロいすぎ。集中して気配を探るとかなりの範囲に分布している。
……これ全部は骨が折れるぞー……。
ちょっと遠い目をしつつ移動してたが、とりあえず目に付くやつは駆除していこうという話になり、結局村に行く道中だけで10匹の頭を落とした。
「あれが村です。一番大きくて丸い建物に行ってください」
言われて赴いた場所は、なんだか想像していた村と違った。
山の中腹に一番大きくて丸い建物があるが、どう見ても宇宙船にしか見えない。その周りを木の家が囲っている。
「……もしかして他の星から移住してきたんですか?」
男性にそう問えば、神妙そうに頷いて目を細めた。
「この星――アルカトランは私たちにとっての楽園になる……はずだった星なのです」
宇宙船の中に入るとたくさんの人が忙しそうに働いていた。
たくさんの人の声が飛び交う中、奥に案内されていざ中に入ると上座に一人、両サイドにずらっと人が座っている。
まるで武士の会合のようだ。
なんだこの子どもは?みたいな視線がびしびし刺さって、ものすごく場違いな気がするのに、男性は私たちを伴って正面に座った。
「サジェス、ただいま戻りました。こちらの方々は――」
男性の名前はサジェスさんと言うのだろうか。そういえば名乗ってないな。
「待て。なんのつもりだサジェス。何故子どもをつれてきた」
「シーカはどうした。一緒に外に行ったのではないのか」
「……クズロにやられました。私だけ、助かったのです。この方々に助けていただきました」
苦々しく顔をゆがめつつサジェスさんが俯く。「は?」という気の抜けた声がどこかで聞こえた。
「サイヤ人です。たまたまこの星にたどり着いたそうです。見た目は子どもですが既に10体以上のクズロを倒してここに来ました。幸いながらクズロを駆除してくれると確約してくれましたので、先にご報告を……」
「一体なにを言い出す、サジェス!」
「こんな子どもがクズロを倒せるというのか!?」
「いや待て、今サイヤ人だと……!」
紛糾してしまった。
両サイドからやんややんや言われて正直耳を塞ぎたくなったが、そこは少しだけ我慢する。
「クズロの死体ならもって来ました。……あの、出して貰えますか」
え、こんなところで出すと血で汚れるぞ。
それでも構わないというので扉近くまで下がってから、言われたとおりに首の無いクズロを一体出す。
出した瞬間にしん、と静まり返ったが、そのままずるずると全部出すと「ひい」と怯えたような声が聞こえた。
血はやっぱり出て、床を汚してしまった。
「なんと恐ろしい……」
「これは……」
「確かにクズロだな」
怯える人、驚く人、中には声をあげて笑う人など、死体を目にした武士達の反応はさまざまだ。
「このようにクズロを駆除してくれますので、礼として望むものを差し上げたい」
「ば、馬鹿者! この星を売るつもりか!」
上座に近い左側に座っていた男の人がサジェスさんに向かって怒鳴る。対してサジェスさんは淡々と答えた。
「この方々は食料が欲しいそうです。フリーザとは関係がなく、たまたま……」
「そんなわけなかろう! サイヤ人は皆フリーザの犬だ! クソヤロウ共め!!」
「でもまだ子どもだぞ」
「だから馬鹿だといっとるんだ! サイヤ人は子どもを他星に送り込み滅ぼす! こいつらもそうに違いない!!」
「せっかく逃げ切れたと思ったのに! なんということだ……!」
男の人だけではない。上座側の人たちがおのおの恨みがましく吐き捨てる。
これはとっても雲行きが怪しくなってきたな。
「……サイヤ人って本当どこでも嫌われてるんだね……」
ぽそりとチルがつぶやいた言葉が耳に入る。
私はサジェスさんの服を引っ張り、こそっと聞いてみた。
「あの、フリーザから逃げてきたんですか? それともサイヤ人に滅ぼされたとかですか?」
「フリーザの糞が我々の星を攻めてきたのだ! だからこの星に逃げてきたというのに……! おい! 捕らえろ!」
聞かれていたらしい。
蛙のような顔をしたいかにも偉そうな人が顔を真っ赤にして怒声を上げた。
しかし、捕らえろといわれても動く人などいない。
大体の人が強張ったように身を固くして俯くだけだ。
「聞こえんのか!! 捕らえろ!! このままだと全滅してしまう!」
「ま、待ってください! この方々は本当に私を助けてくださった! 旅をしている、ただのサイヤ人です! フリーザ軍の配下ではありません!!」
サジェスさんは立ち上がって止めようとしているが効果は差ほどない。
若いもんな。上座に行くほど年寄りが座っているから年功序列っぽいし、蛙ほど力はないんだろう。
でもさ、フリーザもう死んでるんだよ。
そういいたいのに誰も聞きそうにない。
面倒だな。
お邪魔しましたーって帰ってもいいかな。
「なー。オレらクズロ?倒しに来ただけなんだけど、捕まるなんて聞いてないぜ? 帰る?」
トーガはのほほんとしながら立ち上がり、私の顔を見た。
私がなにか言う前に、蛙さんが立ち上がり怒鳴り散らす。
「逃がすか! フリーザに知らせる前になんとしてでも捕らえねば!」
「なんで逃げなきゃなんないんだよ。そのフリーザってやつ、もう死んでるだろ。なんで死んだ奴そんなに怖がってんの? 馬鹿なんじゃね?」
なんて口の利き方!
私は思わずばしっと頭をはたいた。
「いてっ」
「すいません! 礼儀知らずで! よく言って聞かせますので許してください! それであの、フリーザは10年以上前に死んでますし、私たち特になにかしようとしてここにきたわけじゃないので、見逃していただけないでしょうか! もう来ませんから!」
深々と頭を下げて謝ると、立ち上がった。
食料は魅力的だが、もうめんどくさいので出ていこう。
双子とともに逃げようとしたらサジェスさんにすがりつかれた。
「そんな! 駆除してくれるって言ったじゃないですか!」
「だって捕まるなんて想定外ですよ! 倒す代わりに食料くれるっていうから来たのに、肝心なことなにも言わなかったのはそっちでしょ! 無理です!」
「そんなことを言わずに!!」
しつこい男だな! そのしつこさは蛙にでも発揮させとけばよかったんじゃない!?
私はサジェスさんの絡み付いてくる手を引き剥がしていると、落ち着いた低音の声があたりに響いた。
「客人殿。なにやら食い違いがあるようだ。よろしければフリーザについて知っていることをお教え願いたい」
終始沈黙を保っていた上座、一番偉い人であろうその人がゆったりと話しかけてきた。
