第一部 旅編
第四章 懐古
37 クズロ
フリーザが死んだこと、地球という星に向かって旅をしていること。この星には補給のために下りただけで終えたらすぐに出て行くつもりだったこと。
大まかに説明を終えた後、静まりかえっていた広間は途端に騒がしくなる。
「フリーザが死んだだと!? 本当か!? 嘘じゃないだろうな!」
「し、信じられぬ! あの軍隊が壊滅することなど!」
「周りの星ではサイヤ人に滅ぼされた星はいくつもあったのだぞ。サイヤ人が略奪もせずに出て行くのも信じがたい」
物証なんてない。だから信じる信じないの話しになったとき、不利なのはこっちなのだ。
だから無理だといったのに。
「少し黙れ」
上座に座っている人は、周りに対して短く言い放った。
眼鏡こそ掛けていないが某世界的アニメ監督のような顔をしている。
つまり言うことを聞いてしまう。
……好きだったんだ、天空の城と空飛ぶ豚。
「息子、サジェスを救ってくれた事に礼を言いたい。その上でお聞きする。食べ物さえ用意できれば、クズロを駆除してもらえるのだろうか」
「くれるならや」
私は再度ばしっとトーガの頭を叩いた。
安易に返事をするな!
「あの、その話はお断りさせていただいてもいいでしょうか……」
「な、何故です!」
「さ、先ほども言ったように、私たちは旅の途中です。食料は魅力的ですが次の星に行けばそれも解決するだろうし、いきなり捕まえようとするところでは頂いても信じられません」
この状況だよ? 極端な話、全部駆除した後もらった食料に毒入れられたらって可能性を無にできないんですよ。
そうやって私たちが死に、この人たちが敵討ったぜやったーってなったら私たち死んでも死に切れない。
信用もできない。だからさっさと帰らせていただきたい。
そう伝えたら蛙の人とサジェスさんが声を揃えて大声を上げた。
「我々が毒を仕込むとでも言いたいのか!!」
「そんなことはしません!」
いや、しないといわれてもね?
信用ができないのですよ。
「……申し訳ないですけど、あなた方が私たちを信用できないのと同じように私たちもできません。クズロはかなりの数がいるようですし、全部倒すとなると何日もかかるでしょう。でもそこまで労力をかけて倒す義理はないですし、こうなった以上疑いながらこの星にとどまるということも私たちにはできかねます」
一息ついて続けて口を開く。
「あと、もし捕まえようとするなら全力で逃げますが、そのときに怪我をされてもどうにもできません。なのでそういったことはしないで頂きたいです。すみません」
そこまで言い切ると、右側の一番端の人がぴゅうと口笛を吹いた。
「ポザゲス、お前は頭に血が上りすぎだ。黙って座んな。……たいした子どもだ。サイヤ人ってのはこんなに立派な口してる種族だったかねえ」
その人は髪を一つに結い上げたおばあさんだった。
おばあさんはキセルのようなものを吸って煙を吐く。
「――あんた、クズロがどこにいるかわかるの」
私が「わかります」と答えると、煙をはいた口は大きく開き笑い出した。
「……クズロの居場所がわかるということは、他の動物のこともわかるのか?」
今度は左の一番端の人が話しかけてきた。
こちらは目の上に傷があり、ワイルドな感じの壮年の男性だ。
「比較的大きいものであれば」と質問に答えると、ゆっくりと目蓋を閉じてしまった。
なんなんだ。
聞くだけ聞いて放置か。
首を傾げつつ、帰ろうと扉に向かうと呼び止められた。
振り返れば上座の監督が立ち上がってじっとこちらを見つめてくる。
「無礼を許していただきたい。我々はあなた方に危害を加ることは誓ってしない。もしそういったことを行った者がいれば殺してくれても構わない」
「はっ?」
私とトーガの台詞がかぶった。
なに言ってるのこの人。
「なにを言っているのです、船長!」
「ポザゲス、黙れっていっただろ。裂くぞ」
おばあさんがキセルをカーンとなにかに叩きつけ、ポザゲスと呼ばれた蛙はぐっと口をつぐんだ。
監督さんは手になにやら持っていたらしい。操作し始めると天井から薄い光が差し込み始め、その光は映像に変った。
緑色の星からいくつもの宇宙船が飛び立って、その中の一つが青い星に降り、宇宙船でその星を作り変えている映像を見させられた。
すごいな。近未来的。
「フリーザに追われこの地に降り、陸を増やし、木々を植え、やっと住めるようになったとき、宇宙船が故障してしまった。その過程で副産物なのか手に負えない動物が出現し、植えた果実を食い荒らし、とうとう人を食べるように変化して我々を襲うようになった。帰る星もなく、飛びたつこともできない我々はこのままでは生き残ることが難しい」
なんか壮大なSF映画のあらすじ聞かされてる気分。でも中身はホラー系だと思うんだけど……。
「客人が怒るのも無理はない。しかしできることならどうか力を貸してほしい。どうせこのままではクズロに食い殺されるか宇宙船で飢えて死ぬかの二択しか残されてはいない」
監督さんはすっと頭を下げた。それに周りがどよめく。
「武器を扱えるものが先に死んでいく今、この状況を変える事ができるのならば、サイヤ人でもなんでも構わない。だからお願いできないだろうか」
……わーお。言い切ったな。
しかしそんなことを言われても、ぶっちゃけると私ら関係ない。
そりゃそちらはクズロいなくなってやったーになるかもしれないけどさ。
私たち、食料全部その場で食べるわけじゃないんだよ?
毒もそうだけど、爆弾でもまぎれてて〈かばん〉から取り出した瞬間爆発ってなれば死ぬわけよね。
銃あるんだもん。
それっぽい武器とかはあるわけでしょ? 効かないだけで。
意味ないじゃん。
考える振りをして目を伏せていたら、おばあちゃんが「かー!」と高い声をあげた。
「駄目だ駄目だ。わかっちゃいないね。そんなやり方じゃあいつまでたってもこの子は首を縦に振らないよ」
上座に向かって声を張ったおばあさんはついっと私の方に向き直った。
「要は食料が欲しいんだろ? 持って行けばいい。食える動物ならわんさかいる。あたしらが植えた木も今頃たくさん実をつけているだろうさ。好きなだけ自分で選んで持っていきな。その代わりクズロだけでも殺してっておくれ」
おばあさんがそう言ってキセルを口にくわえた。
ふむ。
それだったらいいな。
自分で取れるなら爆弾とか関係ないもんね。
私はおばあさんに向き直って顎を引いた。
「なんでも獲っていいんですね?」
おばあさんはにやりと笑う。
「おお、なんでもくれてやる。できることなら猪とワニもぶっ殺してくれるとありがたいね」
トーガはやる気満々に首を回し、チルは「ワニってなんだろう」と首をかしげている。
それに水を差すかのように隣に座っていたおじ様がおばあさんに身を乗り出した。
「コ、ココユ様! なんでもというのは……」
「うるさい餓鬼共だね。文句ばかり言ってないで表に出てクズロの一匹でも倒してきたらいいだろ! 全く」
ココユ様というのか。
なかなか話のわかる御仁のようだ。
「私の名前はサーヤ、後ろの双子はトーガとチルです。できる限り駆除しますので、よろしくお願いします」
私は深々と頭を下げた。
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駆除するために詳しく話を聞くと、クズロと猪とワニが人を襲うようだ。
猪は木に登れば逃げれるし、ワニは比較的鈍いので自分たちでもなんとかできる。が、熊のようなクズロだけはどうにもならないらしい。
私はサジェスさんに気になったことを聞いてみた。
サジェスさんは案内&お目付け役として一緒に行動することになったのだ。
「殺したクズロはどうすれば? もって帰ってくればいいんですか」
「できることならそうして貰えると助かります。集めて燃やしたいので……でも、できないのであればそのままで構いません。後の処理はこちらで行いますから、駆除してくれればそれで」
よーし。ちょうどいいから血抜きの練習にしよう。
クズロも倒せて双子も血抜きができるようになり、そのうち解体させる、と。
普通の地球人ならそうは行かないけど、サイヤ人だからな。余裕だろ。
「とりあえず、宇宙船を持って来がてら何匹か倒してこよう。サジェスさんは空飛べないのでお留守番しててください」
「だ、大丈夫ですよ! エアバイクで付いて行きます!」
言った通り、サジェスさんは空飛ぶ乗り物で付いてきた。最初もこれにもう一人と乗っていて、見回っていたらしい。運転手であるもう一人の人が死んで、サジェスさんは運よくかすり傷で済んだということだ。
「サジェスさー、年上なんだからデスーとかマスーとかやめたらー?」
「なん歳なのー?」
「20歳だよ!」
「わーおっさんだー!」
「おっ……こないだ20歳になったばかりだよ! どう考えてもお兄さんでしょ!」
双子とサジャスさんがわいわい話すのを横で聞きながら宇宙船に向かうと、周りになにかいる。
熊――クズロだ。
「げえ!」
クズロが五匹くらい宇宙船に爪たてていた。
新しいのに! ガッデム!
でも、傷なんて些細なことだった。
それよりも――。
「シっ!」
宇宙船の窓から白い毛玉がぽんぽん跳ねているのが見える。
まるで助けを求めているようだ。
「シロ――!!」
私たちは三人声を揃えて叫んだ。
そして双子は弾のように飛び出し、私は歌った。
「……す、すごいね……」
サジェスさんは引きつった顔をしてちょっとだけ離れたところでそう言った。
たぶん、血みどろになった地面とか死体の山を見て気持ち悪くなったんじゃないかな。
三人で助け出したシロを「良かった無事でー」「怖かったなーごめんごめん」と撫でてた時に、サジェスさんがぼそりと「怒らせないようにしよう」とつぶやいたのが耳に入った。
