38.果実の森

第一部 旅編

第四章 懐古

38 果実の森

 この星に来てから1週間と3日。
 私たちは狩りに狩りまくった。狩人も真っ青になるくらい狩った。
 狩猟用の〈かばん〉を開ければずらりと並ぶ猪とワニの死体。

 クズロ美味しくないらしいので、猪とワニだけ〈かばん〉に入れているが、狩ったものはこれよりもはるかに多かった。
 クズロはほぼいなくなったんじゃないかな?

 いまやそれっぽいのがいれば、村人がいたぞーって知らせに来る。
 その声で飛んでいくのは双子だ。
 もはや二人は完全に血抜きをマスターし、いっぱしのハンターである。

 最初こそ私も手伝っていたが、今はもっぱら双子とサジェスさんが一緒になって狩りに行っている。
 チルの察知能力とトーガの力があれば私は不要。
 つまりお払い箱になったのだ。

 そんな私は今、大きな宇宙船の隣に運んできた自分達の宇宙船の中の片づけをしている。
 保存庫の中や棚の中をきれいにしているのだ。

 床をいていたら外から声が聞こえてきた。

「サーヤ、外に行きたいの。付いてきてくれる?」

 返事をしつつ外をのぞけば、髪を二つに結いピンク色のチュニックを纏っている美少女がこてんと首を傾げていた。

「ミヨさん、ちょっと待っててください。片付けたら行きますので……今日も果物のところですか?」

 手早く掃除道具を片付け、〈かばん〉を取ると私は宇宙船から飛び降りた。
 大きい籠を背負ったミヨさんは笑う。

「ええ、収穫できるのが増えたようだから」

 近くで見れば顔が小さく、まつげはバサバサ。肌にいたっては染み一つないすっぴんの美少女である。
 私も染みはないけど、まつげはそんなに生えてない。

「確かバナナ……黄色い房の果物もありましたよね? あれはとってもいいんですか?」
「いいんじゃないかな。私だと怒られちゃうけど、サーヤなら怒られないわ」

 くすくすとミヨさんは笑う。
 美少女の微笑みはまぶしすぎるぜ。母よりは普通の顔だけど、自分よりははるかに可愛い。

 そんなミヨさんは最初に出会ったとき、泣いていた。
 泣きながら感謝されたのだ。
「夫を助けてくれてありがとう」と。

 誰だおっとって。

 素直に聞いたらまさかのあの人だった。
 先日20歳になったと自称していたサジェスである。

 てめえふざけんなよまじかよって口から出そうになったのを手で押さえたのは記憶に新しい。

 だってミヨさん中学生くらいなんだもの。犯罪だよ。
 だから思わずサジェスさんに聞いたもんね。

 そういう趣味の人だったんですか?って。

 引き気味にチルを背後に守りながら言ったら、「誤解だ! まだなにも! 手は出してない!」って弁明された。
 当たり前だろ……。焦りながら言うもんだからもうロリコンにしか見えなくなってしまった。

 そんな残念そうな旦那さんにもったいないこの美少女は、旦那の帰りを健気に待ってるもんだから、毎日必ず顔を合わせる事になる。
 そうなったら自然と話もするわけで、仲良くなるのも当然である。

「サーヤたちが来てくれて本当に良かった。ねえ、地球へ行くのをやめて、ここに住めばいいじゃない。そしたらずっと平和だし、私もうれしい」
「気持ちは嬉しいですよ。でもどうしても行きたいから」
「そう……」

 ミヨさんは私たちがサイヤ人だと知らない。
 知ってるのはあの時あつまったえらい人だけだ。
 そうじゃないと暴動が起きるかもしれないというので、大人しく私たちはほかの星から来た商人の子どもだということにしている。
 地球に行った親戚を追っているという設定だ。超適当。

 皆が集まっているところに行くと、ココユさんもいた。一緒に行くようだ。
 行く人の人数を数えれば……20人弱。昨日より増えてる。

 周囲のクズロを殺し終えると、宇宙船の中にいた住人たちが外へ出ることが多くなった。
 外に住居を作り、食料を探しに行きつつ、木を植える。
 壊れてなければ宇宙船ですべてできたのだけれど、直る見込みもないので自分たちでやるしかない。
 私はそんな人たちのボディガードとしてついて行きつつ、自分の分を〈かばん〉へと詰めるのだ。

 向かうところはそんなに遠くない。
 だから皆歩いていくのだが、私は一番後ろを歩く。
 警戒するためだ。

 バラけられるととっさの反応ができないから、離れるなら5人ぐらいで固まってね、とお願いし近くにクズロとか猪とか居ないか確認しながら進む。
 なので、私に話しかける人はいない。集中が乱れると死亡フラグ立つからか、皆言葉も少ない。

「左に猪がいますね。このまま行けば出会うかも」

 クズロや熊や猪など大きいものはすぐにわかる。比例して気が大きいからだ。
 でも狼とかも居るんだよね……。凶暴なペンギンみたいな奴とか、子どもくらいの大きさのサソリとか。
 自分たちがどうにもならない動物がクズロなだけで、他にも危険な動物はわんさかいたのだ。
 おかげで索敵の修行してるような感じになって、広範囲の気配がわかるようになってしまった。
 やっぱり人の命預かってるって考えると、嫌でもうまくなっていくのよね……。

「なら少し離れよう。誰かサジェスに連絡しな」

 私はここにいる人たちを守らなければならないので、どうにもならないとき以外は双子が倒しに来る。
 そのほうがいいと言ったのはココユさんだ。確かに言われた方法のほうが楽で、安全だと思う。

 二匹の猪とやり過ごし、無事に着いたところは果樹の森だ。
 ここは食べ物が密集しているからか倒しても倒してもクズロが寄ってきて、その都度殺してたら地面が真っ赤に染まってしまって……川ができていたと思う。今は改善されたけど。

「よし、手分けして収穫するよ! なるべく固まって行動するんだ、わかってるね!」

 ココユさんの声がした後、皆はまとまって木から実を取っていく。
 手早く収穫されていく様子を見つつ、私だけは周囲を警戒しつづける。
 油断したらみんな死ぬからね。

「ココユ様ー。こっちも取れそうです」
「わかった。サーヤ! 移動するよ!」

 私は返事をしながら皆に付いて行く。

 歩いて見上げればほとんどの木に実がなっている。季節なんて関係なく、いっせいに実をつけているこの森は異常だ。
 普通では考えられないことだが、そもそもこの人たちは星を作り変えてしまうほどの技術力を持った種族だ。
 考えればすぐにわかる。
 そういう風に品種改良された植物が植えられているのだ。
 実を採るのだって道具を使って実だけ浮かせて取ってしまうし、背負い籠だって見た目でかいのに超軽量。
 物を入れてもそれは変らない。
 まさにドラえもん並みのチート道具である。……うらやましい。

 その技術でクズロ駆除できなかったの?って聞いたら、全部試して全部だめだったらしい。
 全滅させるには大陸ごと消してしまう威力のものしかないという、飛びぬけた答えを頂いた。
 そりゃダメだ。宇宙船も飛べないし、巻き込まれたら自分たちが死ぬがな。

「サーヤ! マイトが飲めるようになってるわ。飲んでみない?」

 ミヨさんが青っぽい実を手に走ってくる。
 私は意味がわからず、首を傾げた。

「やっぱり知らないわよね。この実をね、こうして……」

 ミヨさんは螺旋状のかさぶたがある卵型の実のお尻を、持っていたはさみの柄で割り、先端でくりぬいた。

「飲んでみて。おいしいのよ」

 飲む? ……実を?
 差し出された実の中を覗き込むと……白い。白くて水っぽい、液体のような物が入っていた。

 ミヨさんを見るとニコニコしている。
 恐る恐る口をつけると、口に含んだ瞬間目を見開いた。

 ぎゅうにゅう!

 豆乳ではない。牛乳っぽいのだ。しかし……うっす。薄すぎる。低脂肪の牛乳より味が薄い。

「ん? ミヨ、中かき混ぜたかい」
「あっ! 忘れてた!」
「全く。貸しな」

 近くに居たココユさんが木の枝を私から取り上げた実に刺し、あろうことかかき回して戻してきた。

「ほら飲みな」

 ええっ。そんなどこから取ったかわからない枝でかき混ぜたものを飲めっていうのか。
 躊躇ちゅうちょしていたら「飲め」って言いながら押し付けられ、無理やり口に流し込まれる。
 飲み下すと、私は呆然とその実をみつめた。

「牛乳……ミルクだ……」


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