Other side.それぞれの終わり

第一部 旅編

第一章 始まり

Other side それぞれの終わり

 空へ向かって一直線に打ち上がる宇宙船。
 真下ましたでは幾人もの武装した人間が槍を持ち、離れたところで長いローブをまとった者が歌っていた。
 まるで戦場さながらの様相だが、対するのは二人だけ。
 そのうちの一人である女は赤い髪をたなびかせながら歌った。

かわいい・・・・私の子たち。どうか死にませんように)

 なめらかに美しくのびる音。そのつらなりは日の落ちる合間に響いていく。
 歌声は瞬く間に薄い膜を張り、自らの子を乗せた宇宙船を包む。
 この女はこの星で一番だと言われた名手だ。
 『歌うもの』という意味の言葉を名に持つ女は、子どもを産んだことでずいぶんとおとろえた自分の力を呪った。

 昔はいくつも〈壁〉を出せた。
 最盛期の力があれば、家族全員で出て行くことは容易よういだったに違いない。
 そんな力を持った女はこの星でただ一人だけ。
 歴史に残る稀有けうな力であった。

 しかし、今は2つほどしか出すことができない。
 宇宙船と夫を守ることしかできないのだ。
 女は無念に胸を焦がしつつも、歌を紡ぐ。

 わが子が乗った宇宙船を見上げれば、慈愛に満ちた微笑を浮かべた。

(しょうがない子)

 女の子どもは女よりも賢かった。
 まるでずいぶん年を重ねたような物言いをし、世界というものを知っていた。

 違うのだと。おかしいと。
 理不尽だと憤っていたこの世界に、己の子どもは明確に否を突きつけた。
 それが喜ばしくもあったが、なにより可笑おかしくて仕方がなかった。
 似ていなくてもやっぱり我が子なのだと再認識し、女は視線を地上へ下ろす。

 神様はなんて素敵な贈り物をしてくれたのだろう。

 女は最初に与えられた者を見て、高らかに歌った。

「ちっ」

 青く長い髪をはためかせながら男は剣を振るう。

 どこから湧いて出たのか、周りは色とりどりの敵で溢れていた。
 ぎょすることなど容易たやすいとでも思ったのだろうか。
 敵は女には一切手を出さず、宇宙船と男だけを狙う。
 しかも生け捕りにしようと手加減しているようにも見える。

(舐められたもんだな)

 戦闘民族であるサイヤ人にとっては屈辱くつじょくとしか言いようがない。

 だから男はなぎ倒した。
 ――全力で。

「なにをしている! 片手片足しかない〈モルドス〉だぞ!! さっさと捕らえろ!!」

 地面に転がる同胞に焦ったのか、上官と思われる蜂蜜色の男が周囲に怒鳴る。
 それによって男に向かって一斉いっせいに鋭い刃が降り注いだ。
 明らかに残った手足を狙った攻撃だった。

 それを余裕でかわしながら男は考える。

(……多い)

 敵は倒しても倒しても湧いてくるようだ。
 男はうんざりだとでも言いたげに無駄にえる蜂蜜色の頭をいだ。

 闘うのはいい。
 それが種族としての本能であり、血が踊るのは紛れもない事実。
 片手と片足しかなくても闘えることは喜びとしか表現できない。

 だが、かつての男であればこのような消耗戦――無謀な状況からは逃げていただろう。

 フリーザを殺すためにおこなってきた方法やり方
 状況が悪くなったら逃げ、力をつけたらやり返す。
 それが男の戦い方だったはずだ。

 今とてそうだ。女を抱えて逃げればいい。追いかけてくる奴を一人ずつ殺すのがもっとも簡単な方法だ。
 しかし、男は生き残れる方法を選ばなかった。

(ここから離れればあれ・・が落とされる)

 目の端に見える宇宙船を認識しただけで男の頭はぐらぐらと煮立にだつ。

「落とせ! 捕らえろ!」

 片腕でくびり殺せそうな奴らが叫ぶ。

(煩わしい)

 襲い掛かってくるやつらの纏っている〈壁〉は、女の〈壁〉ですべて相殺されて消える。
 そうなれば目の前の人間は犬以下。殴るだけで首は飛ぶ。
 襲いかかってきた赤髪の男の首に刃を刺せば、そのまま地面に突き刺さる。
 男はつかを掴んだまま体を横に回転させ、片足で周囲の敵をなぎ倒す。そしてそのまま飛び上がり空に浮いていた別の男を切った。

「――落とす前に殺す」

 血で滑りやすくなった剣の柄を強く握り締めながら男が睨んだ先では、髪を振り乱した少年がガシガシと頭をかいていた。

「なにをしている! 早く落とせ!」

 小さくなっていく宇宙船を見ながら小さな襲撃者は叫んだ。

「だ、駄目です! 歌えるものから殺されて!」

 幾人もいた歌い手はもはや二人になり、後は使い捨てのものばかり。
 男は〈壁〉を張れる者を狙い、相殺させてから殺すという方法を取っていた。

「女だ! 女を狙え! そうすれば落ちる!」

 少年は誰も見たことがないくらいに取り乱しながら叫ぶ。
 紫色の瞳をぎらつかせ、顔をゆがめた様は美しいとは言えなかった。

「あ、あの方は先代の!」
「構うな! 〈ルベルの頂〉にも許可を得ている! サーヤを逃がす方が問題だ!」
「し、しかしっ!」
「うるさい! 〈ネリ・・〉にされたいかっ!」

 周りに当り散らすように怒声を上げると、怯えたかたわらの男たちは命令どおりに女を狙い始める。
 あるものは〈氷片〉を、あるものは〈壁〉を作るために呼吸を整えた。
 それはこれまで狙っていた男から標的を移した最初の行動だった。

「!?」

 それまで女は尊重されていた。
 鳥かごの中で自由を許されていた理由はただ一つ。
 選ばれた者・・・・・であったからだ。
 この星から出ようとしなければ土に返るまで続いていただろう。

 しかし今となっては過去の栄光そのもの。

 有利だったものが変る時はいつも一瞬だ。

 気づいた男はすかさず飛んだが、天地構わず四方八方取り囲む〈氷片〉が男を襲う。
 防げるのは女しかいない。

 女はこれまでと同じように歌を紡いで男を守った。宇宙船を守りながら。

 それが、最後の歌になった。

「カリア!」

 刹那せつな、男は初めて女の名前を呼んだ。
 呼ばれた女は耳を疑ったが、それを聞き返すことはなかった。

 女が地面に落ちるとき、男もまた等しく地に落ちる。

 そんな二人を蹴りつけて、薄紅色の髪を振り乱した少年はもはや見えない宇宙船に向かって手を伸ばした。

「どうして! どうして僕のものにならない!」

 彼は小さいながらも選んだ者・・・・だった。

 首に生える羽を揺らし、手を宇宙船に伸ばしながら叫ぶ。

「置いていかないで! サーヤ! 僕の――――!!!!」

 悲痛な声の先に現れたのは、鈍い色をした〈壁〉だった。


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