第二部 人造人間編
第一章 希望
51 ヒーロー
亀ハウスに向かうことになった。
双子ではなく、なぜかトランクスさんと一緒に。
最初双子と一緒に行こうとしたのだが、双子は目の前のおやつに夢中で動こうともしやがらなかったのだ。
「とりあえず腹に入れてから!」「食べたらぱっと行くから先に行ってて!」とまで言われた。
確かに、確かに昼食べてなかったからおなかが空いていたんだろうってのはわかる。
チルの瞬間移動で、来ようと思えばすぐ追いつけるっていうのもわかる。
でもなおさらちょっと行けば済む話じゃない?
たぶんお菓子……ケーキを出さなかったらチルはついて来てくれたんだろうなあ。
ブルマさんによく思われたくて上等な菓子出しちゃったもんだから私には目もくれない。失敗したー……。
気が乗らないけど一人で行こう。
とぼとぼと外に出ようとしたらトランクスさんにつかまった。
その上逃がさないといわんばかりに立ちふさがれ、ぎろっと睨まれたのだ。
ええ、明らかに警戒されています。
震え上がったわ。
このまま瞬間移動したらあらぬ疑いをかけられそう。その場合、双子だけおいていくのに抵抗が……と思っていたら、ブルマさんに声をかけられた。
「一緒に行ってきなさいよ」
この睨んでくる人と一緒に……? 本気で言ってる?
二の句が継げないでいる私に、ブルマさんは言い聞かせるみたいに話した。
「人造人間に会ったら大変よ」とか、「迷ったらどうするの」とか、「どうせだったら宇宙船持ってきて」とか、果ては「トランクス、アンタ無事だって知らせてきなさい」とか。
最後もう私関係ない。
「うちの息子いい男でしょ? いいじゃない」とウインクがてらブルマさんはおっしゃったが、こんな目つきが鋭すぎるイケメンにすごまれて、ときめく女はマゾだ。
私は怖い。
最初に睨まれ、話しているときも睨まれ続け、ぶっちゃけると逃げ出したいくらいこわい。
ちなみにそんなやり取りをしていても双子はこちらをチラ見すらしなかった。お姉ちゃんは泣きそうだよ。
瞬間移動でぱぱっといってこようかと思っていたのに、トランクスさんがいるとなると話は別になる。瞬間移動は触っているものとしか一緒に連れて行けない。
私に触ってくださいって? もしくは触らせてください?
……痴女か。そもそもこんな睨まれてて言えるわけがない。
飛んでいくことになったのだが、……私、飛ぶ速度が遅いのではなかろうかと気がついた。
のろまと罵られそうだったので、空気を読んで筋斗雲を召喚した。
筋斗雲のほうが早し、嘘ついてないよーという証拠になるじゃない?
いざ乗ってさあ行こうというとき、無言でトランクスさんが乗り込んできた。
まさかの同乗ですよ。意味がわからない。
飛んでいけよと言いたくても、怖くて言えず。
勝手に乗り込んできた人を蹴落とすわけにもいかず。
筋斗雲でふたりきりってなんの拷問。―――とっても神経をすり減らした空の旅でした。
もう二度としたくない。
「良かったなぁ、よく生きとった」
亀ハウスにつくと、亀仙人がトランクスさんの姿を見るなり泣き出した。
「すみませんでした。……来られなくて」
困ったようにすいませんと謝るトランクスさんは、私のときと態度がぜーんぜん違う。表情からして違う。
対する亀仙人はサングラスの下から涙を流している。
――邪魔しちゃいけないな。先に行ってよう。
まっすぐ宇宙船に向かうと、その前に大きい亀さんがシロを乗っけて首を伸ばしていた。くっと首を捻って私に挨拶する。それに手を振って答えつつ宇宙船に急いだ。
中を改めるとほっと息がでた。
家に帰ってきたような感じだ。私にとってはもう宇宙船は家なんだなあ。
ちょっと苦笑しつつ〈かばん〉を探す。
――ラク。
あの時追加しとけって言われるまま買ってて本当によかった。
遠い星の友人に手を合わせて感謝し、一番小さいポシェットタイプを手に取る。
外に出ると、いつの間にかいたトランクスさんが宇宙船を見上げ、感嘆していた。
「これは……すごいな……」
声のトーンの割りに結構顔が険しい。そのうち外側触り始めた。
「あのー。〈かばん〉ありましたー」
声をかけるが夢中になっているようで聞いていない。
「あのー……おーい。おおーい」
……聞こえていないようだ。しょうがないな。
あきらめよう。
あんなに熱心に見てるんだ。肩なんて叩いたら睨まれるだけじゃすまなさそうだから、私はおとなしく魚をとろう。そうしよう。
私は宇宙船に戻り、上着を脱いで髪を結い、下着姿になる。
下着と言ってもスポーツブラの上に黒いタンクトップを着ているんだけれど。
下はショートパンツをはいていたのでそのまま。透けなければいいのだよ。透けなければ。
その姿のまま宇宙船の階段を下りる。
横を通っているというのにトランクスさんは気付きもしない。
一応「魚とって来まーす」と告げてからもぐる。
〈簡易壁〉を張りながら周囲を探すと、マグロのような魚の群れ?を見つけた。
その魚たちは遠近感がおかしく――つまりとても大きかった。
なんか小さい鯨みたいな。大きいことはいいことだ。
歌うと〈簡易壁〉の外側に〈ツララ〉が二本現れる。歌い終わると〈ツララ〉は勝手に魚に向かっていった。
二匹の魚に刺さったみたいで、そのうち一匹は動きを止めた。残りの魚は驚いてお互いにぶつかりだす。
巻き込まれたくないので〈簡易壁〉を歌の〈壁〉に切り替え様子を見る。
しばらくして魚はいなくなり、一匹だけがゆったりと海を漂う。
自動追尾最高。気配が大きい動物だと特に急所を狙いやすい。
そのまま一匹の魚の下に回り込み海面まで押し上げた。
水面まで上がったら空を飛び、魚を包むように歌う。そんで、押す。
本当は歌って出た〈壁〉は自分の意志で移動することができるけど、鼻血が出そうなくらい集中しなければならないため、移動は物理で行ったほうが早い。
「しんど……」
やっとこさ陸にたどり着くと、自然と深くため息が出た。
――ん?
顔を上げるといつのまにかトランクスさんが近くに立っている。びっくりした。
「あの? どうしましたか……?」
顔が今までにないくらい険しい。
まるで親のカタキでも見るように睨まれて、背筋が凍ったように冷えた。
「それは、なんですか」
えっ?
それってどれ。魚?
「周りにあったものはなんですか。球体の」
ああ! 見せるのは初めてだ。
「〈壁〉のことですか? これは私の能力で」
「能力? ……隠していたのか」
「へ?」
隠す?
そんなつもりは毛頭ない。考えたこともない。
困惑していると、トランクスさんは剣に手をかけた。
な、なんで!?
「隠してなんかないです! 言っていなかっただけで」
「そんな言い分が信じられるとでも?」
ひい! なぜ剣を抜く!?
剣を抜き出したトランクスさんから逃れるように後ろに下がれば、ばちゃんと水音が立った。
「……怪しすぎる」
トランクスさんはまた射抜くように私を睨みつけた。
「俺が平和にするというのをわかっているなら、確認した時点でほかの星に逃げればいい。何故そうしない」
ぎらり、そう表現するのがふさわしい眼光で、私は見下される。
「ドラゴンボールがないから両親は生き返らない。いくらサイヤ人を頼ってきたといっても、こんな状態では暮らしていけるわけがない。それなのに平和になるから住みたいだと? 理解できない……なにか企んでいるのか」
身体が竦んでのろのろと数歩後ろに下がった。それを追うようにじりじりと距離が詰められる。
「な、ない! です! 企んでなんかない!」
思っていることがそのまま口からでた。
まってまって、こわい!
よらないで!
首を振って否定しても鋭い眼光は揺らぎもせず私を見下す。
日光を反射する剣は横に構えられた。
その光がちかちかと目を刺し、私は避けるように目を細めた。
足は、恐怖のせいか震えてる。
「本当です! 本当に……!」
「俺があいつらを倒せると?」
ゆったりと剣の先は太陽を刺すように天を向いた。
そしてそのまま――。
うそ
「嘘だろ」
トランクスさんの言葉を消すように声が出る。
それは音程を伴っていて、振り下ろされた剣をとめた。
目の前で止まる剣先の向こう、彼の目は驚きに見開かれていた。
でもそれは一瞬のことで、私が一度瞬いたあとすぐに殺気を伴った眼光で目を合わせてきた。
そして〈壁〉に触れていた剣がぎぎぎ、と音が出ているかのように小刻みに揺れる。
弁明しようにも伝える方法がない!
息も続かない!
逃げることもできない!
――つ、詰んだ。
そう思って目をつむったとき、〈壁〉は霧散する。
終わった……。
ぎゅ、と身を縮込ませながら堪えるが一向になにも起きない。
そろっと目を開くと、白い毛玉がトランクスさんの顔を覆っていた。
「シ、シロ……」
シロはトランクスさんの頭をがっちりと捕らえ、「ギチギチギチ」と威嚇音を出している。
か、かばってくれたのか? ……かつて食べようとした、私を!!
ぶわっと涙が溢れた。
なんって凛々しい毛玉なんだろうか! いや、シロ様!
私はいつの間にか座り込んでいたらしく、唾を飲み込んでどうにか立ち上がると、息を整えた。
ふらついた足で砂まみれのままトランクスさんの近くまで行くと、そばに落ちていた剣を手に取る。
こんな物騒なもの!
砲丸投げのようにエイヤと海に放り投げ、大きく息を吸い。
そして、勢いよく振り返った。
「私が、私たちが地球に来た目的は、確かにドラゴンボールで両親を生き返らせることでした。でも、旅をするうちに変ったんです」
シロを捕らえようとしていたトランクスさんの動きが緩む。
「双子が大きくなるにつれて、サイヤ人らしくなってしまって、力を持て余すようになったんです。特にトーガはいつ暴走するかわからないところまできてしまった。私には教えることができないんです……! 見たでしょう? さっきの〈壁〉を! 力の使い方が全く違うんです! だから、地球にきたら教えてくれるかと思って……!」
喉が渇いて引き攣ったけど構わなかった。
勢いがついた私は思いつくままにしゃべりだす。
なにかトランクスさんが言うがシロが覆っているせいか音が篭ってよく聞こえない。
「確かに誰もいなかったらさっさと逃げるつもりでしたけど! いなかったらナメック星探そうと思ってましたけど! トランクスさんいるなら話は別です! むしろ平和になるまでほかの星に逃げて、安全になったら住まわせてくださいなんてどの面下げて言えと!? 言えるわけないじゃないですか! こっちはできることなら恩を売っときたいんですよ! 平和になったら衣食住世話になりたいんですよ! 些細な下心でしょ!? それもダメですか!!」
自分でなにを言いたいのかよくわからない。しかし言わなければ伝わらないだろうと思いの分だけ言葉を連ねた。
「別に悪いことするつもりできたわけじゃないのに! ていうかこんな地球でなにかしようとして意味ある!? 人造人間いるし、なんにもないし、廃墟だし!! 逆になにを企めって言うんですか!!」
恐かったからか理解してもらえないもどかしさからか、涙が湧き上がってくる。
「別に信用してくれなくてもいいですよ! でも筋斗雲に乗れたから嘘じゃないですからね!! 話すタイミングがなかっただけなのに! 斬りかかってくるなんてあんまりだ!」
眼鏡が曇って姿が見えない。
ぼろぼろと涙がこぼれて嗚咽が混じる。
「う、うぐ、生きててくれて、うう、嬉しかったのに! 怖いし、酷、ん!?」
いつの間にかもふもふしたものが顔を覆った。
肩をつかまれ、くぐもった声で告げられた。
「これはずしてください」と。
それについて私はしゃくりあげながら答えた。
「こわいからやだ」と。
「襲われるのも、睨まれるのも! もういやだー!!」
そう泣き叫んだ。
+ + + + + + + + + + +
私は今に至るまでで、大変精神をすり減らしていた。
亀仙人に聞いていたこともあって、死んでるかもしれないってドッキドッキしてたのだ。
それで会えてヒャッフーしてたのに襲われるってね。
そういう起伏が激しすぎる感情のジェットコースターにさらされて、まともでいられると?
ええ、いっぱいいっぱいになっていた私は泣きながらダダをこねました。
子どもらしくギャンギャン泣いた。
唯一頼りたかったひとに剣で斬りかかられるってね。
怖すぎるでしょ。下手すれば精神崩壊するよ。
まったくひどい話である。
その後すこーし落ち着いてから話し合いをした。
シロが顔に乗っているトランクスさんはこもった声で謝った。
本気じゃなかった、ちょっとだけ脅かすつもりだったと。
寸止めしようとしたらしい。
嘘つけ――――――!!!!
私は泣き叫んだ。
そしたらトランクスさんは焦ったような困ったような――宥めようとしているやわらかい声色に変り、必死そうに何度も謝り続けた。
そして、
睨まない、
襲わない(怪しい行動時除く)、
わからなかったら聞く、
ということを約束してくれた。
たぶん困ったんだろう。
なんというか、まさに子供に泣かれて対処しきれない大人のようだった。
おろおろとしている様子は次第に私を落ち着かせ、頭を冷静にさせていく。
そうなってくると次に襲い掛かってくるのは羞恥心である。
……こんなに泣き叫んだ記憶なんてない。ハンマさんに連れ去られたときだって、ここまで泣かなかった。
顔なんてきっとすごいことになっている。
涙で目ははれて、鼻水は垂れ、顔は真っ赤になっているはずだ。
私はしゃくりあげつつ〈かばん〉から水筒を出し、同じく取り出したタオルを水で濡らすと顔を拭いた。
そうしてようやく一息ついたときに渋々、本当に不本意だったがトランクスさんからシロをはずすことにした。
「シロ、もう大丈夫だから離そうねー」
私は逆毛たてているシロに安心させるように言い聞かせながら取り外そうとする。
しかし離そうとしない。
なんて愛しいやつなんだ!
もう本当、神棚に飾って拝みたい!
ニコニコしながら撫でまくると、その動作でゆれるのかトランクスさんがうめく。
シロってさ、無理に引き剥がそうとすると、枝みたいに硬い足が食い込んで地味に痛いんだよね。
ざまあみろ。脅すからそうなるのだ。
「ちょっと失礼しますね」
私はそういってトランクスさんの髪をかき上げ、がっちりはさんでる足をカニのように折りたたみながらはずす。
おおーぎっちり。
「なんですか、これ」
そういう顔には放射状に足跡がくっきりついている。
猫のひげみたいだな。
その顔なら怖くないかもしれない。
そう思いながら再度シロを抱きしめると、胸に足を這わせてきた。
「一緒に旅をしてきた仲間です。シロって言って卵を産んでくれるんですよ」
「たまご……」
胡散臭そうにシロを眺めていたトランクスさんは、ハッと表情を変えた。「俺の剣!」とあたりを見回すが、そんなもんはない。
こわいから海に投げたわ。
眉間にしわを寄せてはいたものの、すがるような声をだして「もうしませんから」とお願いされたので、またもや渋々とりに行くことにする。
私は近くで隠れていた亀の甲羅にシロを乗せると、また海にもぐった。
浅瀬にあった剣を持って帰ると、トランクスさんは顔を蒼白にして「普通海に投げますか?」とつぶやいた。
知らないよ。恐かったんだもん。
剣を渡すと振り払って水滴を取っていた。
まだ残る恐怖心でびくびくしながらそれを目の端に映しつつ、私は宇宙船に行くことにする。
ついてきたトランクスさんに適当に布を渡し、剣を拭いているうちに、トイレで着替えることにした。
濡れた衣服を取っ払い、ひっつかんできたローブを着る。
その上に丈が足首までの長い上着を着て、濡れた髪のためにタオルを肩にかけた。
濡れた衣類は洗濯機に突っ込みトランクスさんを見れば、きょろきょろと部屋を見ているようだった。
……また人の話を聞かなくなるのだろうか。
「トランクスさん、帰りませんか。あまり待たせるとブルマさんが待ちくたびれるのでは」
「ああ、そうですね」
トランクスさんは「連絡します」と通信機を取り出す。
よかった。今度は伝わった……あっ! 魚!
私は走って宇宙船を飛び降りると、スカートのように舞う上着の端を押さえながら魚の元へ飛ぶ。
思い出してよかったー。危うく食料を放置していくところだった。
振り向くと、トランクスさんが身を乗り出してこちらを見ていた。
「いきなり走り出すのでなにかと思いました」
そういってトランクスさんは宇宙船の出入り口から私を見る。
「いくなら声、かけてください。さっきだって、気付いたらいなくなってるし」
え、納得いかない。
今は忘れたけどさ。さっきはかけたぞ?
なぜそんな半目の顔をされなければならないの。どっちかっていうと私がする側やぞ。
「魚を獲る前に、声をかけたつもりでした。……確認すればよかったですね、すいません」
……私はチキンです。
理不尽だと思うのに強く出れない日本人です。頭に浮かんでいた言葉は飲み込みました。
ほら、怖い人には下手にでちゃうよね。それはスネオか。
「……いや、俺のほうこそすみません。そんなに夢中になってたとは思わなかったから、早とちりしてしまったみたいだ。――ところで、この宇宙船は小さくできるんですか?」
トランクスさんは宇宙船を見ながら言った。
「で、できません」
「なら研究所には入らないな……」
「地下じゃなくてカプセルコーポレーションの建物の中ならちょうどいいんじゃないですか?」
大きいからなあ、この宇宙船。
でも調べたいならもっていくしかないし、あったほうが私的に楽できるし、廃墟にだったら入りそうではある。
「上になら置けると思うけど……運ぶとなると目立ってしまう」
昔の宇宙船とは違って今の宇宙船は飛行船のように使うこともできるんだけど、ちょっと光るから目立つ。
「……瞬間移動でもって行けますよ」
「そうなんですか? 話は聞いたことがありますが、技自体よく知らないので」
「術者に触れていれば一緒に移動できるので、一度に済ませられますよ」
へえ、と感心したようにトランクスさんは言う。
……あれ? これ、痴女フラグ?
へえで済んだからよしとすればいいのか?
考えすぎたことを恥じればいいのか? ……後半かな。
「双子のうちどちらかでも移動先の空洞にいればそこまで飛べますから、そうするように連絡してもらえますか? 私、シロを連れてきますから」
連絡をしているうちに再度宇宙船を降りる。
亀の甲羅で虫干しされているシロに「おいで」といえば飛び込んできた。
「ありがとうございました。シロをみていてくれて」
「かまいません。途中ひやひやしましたが、会えてよかったですねえ」
にこにこと笑う亀を見て私は大層癒された。
亀は好きだ。
亀仙人は好きじゃないけれども。
シロを抱きかかえ、お礼という名の文句を言おうと亀ハウスに行ったら、亀仙人は誤魔化すように白いひげを撫でた。
「いやー……無事でよかったのー」
か弱い女の子が襲われているというのにこの仙人、なにもしてくれなかったよね。
「助けてくれてもよかったのではないでしょうか」
「いやー、無理でしょ。トランクス超強いもん。お前さんの能力だって強力そうだし、トランクスとぶつかってるところに行ったら巻き添え食って死んじゃうよ、わし」
くいくいっと足を動かし、非力ですアピールしやがった。
「それにしたって声くらいかけてくれても。止めてくれてもよかったと思うんですけど!」
「済んだことをグダグダ言っても! ねっ! ほら筋斗雲は貸したままにしてやろう! 弟妹も喜ぶじゃろ? な?」
じとっと睨めば亀仙人は誤魔化すように笑った。
「大きくなったらまた来いよー」と言われ、二度とくるか!と捨て台詞を吐きたい気持ちを堪えながら宇宙船に向かおうとすると、トランクスさんと視線がかち合った。
連絡し終わったらしい。
急がなければ。
私はあえて飛ばず、駆け出した。
飛んでしまうと、潮風に吹かれる恐れがあった。
裾が巻き上げられてしまうとブルマさんの黒歴史を図らずも辿ることになってしまう。
そう。
着替えの時、パンツをはき忘れた。
いや、そもそもトランクスさんもいる部屋で下着を出すことがためらわれた。
タンス代わりに使っている保存庫は、入ってすぐにあるんだもの。絶対見える。
だから立てかけてあったローブと上着のセットだけつかんでトイレに行ったのだ。
〈かばん〉の中に入れておけばよかった、なんて後悔しても遅い。
私は走ったのだ。砂の上を。
シロを抱えながらだと、前と後ろ同時には押さえられない。
そのことはわかっていたはずなのに、待たせるのも申し訳なくて。
それがいけなかった。
走り慣れていない砂浜は、容赦なく足を絡めとろうと形状を変える。
案の定勢い良く蹴った足はもつれた。
あ、転ぶ。
そう思った私はとっさに抱えていたものを放った。
「あぶない!」
べしゃ、と音がして私は砂にまみれた。転んだ。
砂まみれの眼鏡を整え、前を見ると。
―――うん。またか。
放り投げたシロはバウンドしたのかトランクスさんの顔にくっついてしまったらしい。
再度毛玉人間になっていた。
頭が白い毛玉で首から下が人間。
その人間は私を助けようとしたんだろう。
両手を広げて腰を落とす様がシュール。
そのまま固まってる。
私も固まって見てしまった。
そこへ呼び出し音がなった。
毛玉人間は立ち上がり、通信機を取り出すと耳らへんにあててこもった声で「はい。いまから……え? 聞こえない?」等といってる。
片手でシロをとろうと引っ張りながら。
まあ、あれだ。
極度の緊張の中で最初は気にならなかったけど、じっくり見たらだめだったんだな。
「ふ、ふふっ……!」
南国の青空の下で毛玉人間が電話してる。
もしもし言ってる。
そう考えたらもうだめだった。
どうしても笑いがこらえきれず、そのうちお腹を抱えて笑った。
