54.速攻強化?

第二部 人造人間編

第一章 希望

54 速攻強化?

 瞬間移動すると荒野に出た。
 岩がたくさんあり草木はまばらな人が住んでいなさそうなところ。
 昨日も見た光景だ。
 いや、昨日どころか最近ずっとこの光景を見てる。
 双子が地面に突っ伏しているポーズも大体同じ。

「あ、もうお昼ですか」
「メ、メシっ!」
「ごはん!」

 近くに立っていたトランクスさんが声を上げた途端、弾かれるように双子は起き上がった。
 まだ体力が余っているように見える。

「今日のメシなにー?」

 あれから数日たち、双子は稽古をつけてもらっていた。
 私はトーガの間延びした呼びかけを無視してトランクスさんに詰め寄る。

「あの、もっと立てなくなるぐらいまでやってくれてかまいませんよ?」
「え……いや……なんかいじめているみたいじゃないですか」
「いいんですよいじめて。そうしないと強くならないんですから」

 いや、でも、とトランクスさんは困ったように視線が下を彷徨う。

 死ぬ寸前まで追い込んで欲しいとお願いしているのに、彼はそんなことをしない。

 ブルマさんと一緒に暮らし、悟飯さんに戦い方を学んだからだろうか。
 このひと、小さい子供である双子にひどいことができないようなのだ。

 ひどい話だ。人には剣使って脅したくせに。
 まあそんな話を蒸し返しても、意味がないので言わないけど。

 トランクスさんも反省しているのか、なにかと手伝ってくれるようになり、睨まれはしなくなった。
 だから特に怖くもなければ悪い人でもないなと思うようになってきたが、それはそれ。これはこれだ。
 もっとガツガツやってもらわないと、上達しないじゃないか。
 サイヤ人は追い詰められないと強くなれないんだからさ。

「ソタ豆という名の仙豆もあるんですから本当に、腕の一本二本折っちゃってもいいんですよ?」
「こら! 余計なこと言うな!」
「やだよ……折られるのなんて……」

 起き上がったのはいいものの、いっこうに動こうとしない双子を無視して私は続ける。

「サイヤ人は瀕死になってから回復すると強くなれるんです。トランクスさんがやってくれなければ、私がやるしかありません……そうですね。尖ったもので刺せば流石に瀕死になるでしょう」
「そ、それはいくらなんでも」
「まさか、〈ツララ〉……?」
「ジョーダンだろ!」

 トーガは叫ぶ体力すら残っているらしい。余裕じゃないか。

「ソタ豆で治せます。経験を培うことはできませんが、体力と強靭具合は強化されるはず。我々には時間も無いことですし、さくっとやってしまったほうがいいです」
「そんな注射みたいにいうな!」

 タイムマシンで飛んでしまうまでに、トランクスさんには原作どおり強くなってもらわなければならない。
 そのために双子は邪魔だろうから、さっさと双子を強化しないと。

 私は話しながら〈かばん〉を開き、敷物を取り出す。

「大丈夫です。ちょっとやそっとでは双子は死にません」
「う、うーん」
「そんな無理矢理底上げみたいなのやだよう」
「双子を鍛えることによってトランクスさんがいないとき、ブルマさんを守ることもできますし」
「おまえが守れよ! 〈壁〉でぇ!!」

 おかずが詰められた重箱で敷いた敷物を押さえる。

「人造人間は絶え間なく攻撃することができるから、息継ぎで〈壁〉が薄くなったところを殴られたら壊れる」

 時間があれば長く〈壁〉を出し続けられる技法も教科書で学べるんだろうけどやってる暇ない。
 それに、どれだけ長く声を出せたとしても必ず息継ぎをしなきゃならない。
 ってことで、無理。

「君たちは殴られても死なないけど私は死ぬ」

 〈かばん〉からスープが入っている鍋を取り出し置こうとする。
 しかし重い。
 〈壁〉の使えない私なんぞ非力な未成年なのである。
 四苦八苦していると、見かねたのかトランクスさんが手伝ってくれた。

「わっかんねーじゃん! 鍛えてやらあ!」
「やめなよ、頭に落ちてくる!」

 ほーう。ずいぶん体力が有り余っているようだ。

 私はトランクスさんに座るよう促した。
 彼は困ったように私と双子を交互に見て、私のところへやってくる。
 お手拭きを手渡して拭いている間に、重箱を開けて卵焼きと鳥肉の照り焼き、おにぎりをとって渡す。

「どうぞ、お先に」
「は、はあ」

 皿を受け取ったトランクスさんは双子をチラッと見てから、おずおずと卵焼きに手をつけた。

 数日過ごしてわかったが、この人は卵焼きしか進んで取らない。
 取分けてやらないといけないのだが、それって大人として駄目じゃない?
 金持ちのボンボンだからなの? 取り分けて貰うのが当たり前なの?
 双子もだから別にいいけど、疑問は日々感じている。

「トランクスだけずるい!」
「食べるー!!」

 トーガはぴょんと勢いをつけて立ち上がった。
 ふうん、そんなに動けるんだ。

「双子がどうしても嫌で、トランクスさんも無理だっていうなら、やっぱり私がやることになるけど……不意打ちでもいいかな?」
「……どういうことですか?」
「寝てるときを狙って、死にそうになったらソタ豆食べさせようかなと」

 三人は驚愕のまなざしで私を見た。

「それでも無理だったら日常的に狙って行こうかなーなんて。その場合は〈壁〉使うけど」

 私は淡々と麦茶が入ったポットを置いた。
 透明なコップに茶色いお茶を注げば、いかにも涼しげだ。
 まあ、それっぽく味が似てるだけの穀物であって麦じゃないんだけども。

「し、死んじゃうよ、おねえちゃん……」
「バッカじゃねーの!? 寝てるときってヒキョーだろ!」
「だってそうじゃないと避けるじゃん。寝てるときでもないとずれちゃうかもしれないし……それとも手とか切り離す? 切った直後にくっつけて、ソタ豆食べさせれば元通り」

 〈壁〉使って切り離すのは寝床が大変なことになりそうだから、できれば鋭利な〈ツララ〉で穴をあけたいんだけどなあ。

「鬼! アクマ!」
「やだなー全部は切らないよ。一本だけ」

 指を一本立てながら言ったのだけど、「一本もやだよっ!」「死ぬわ! バカーッ!!」と叫ばれてしまった。えー。

「大丈夫だよー。両腕両脚なくてもなかなか死なないもんだし。二、三回繰り返せば吹っ飛ばされないようになるはず」

 私は麦茶に口をつけた。うん、冷たくておいしい。

「サーヤだって半分サイヤ人なんだから死にかければ同じようになるだろ! お前が強くなれよお!」
「鍛えてないこの脂肪がすぐに筋肉に変わるわけないでしょ。それに私に必要なのは肺活量であって筋肉じゃない」

 私は自分の二の腕をつまんで見せる。
 憎き脂肪め。私でも筋肉ついたら強くなれるかなーと思って、腕立て伏せした事あったけど変わることは無かったな。

「言ったじゃん。母親似なんだからサイヤ人みたいには強くなれないって。君たちだけなんだよ? 手っ取り早く強くなれるのは」

 一回や二回死にそうになったからと言って死ぬわけじゃなくて、強くなるんだからいいじゃん。
 そう言ったら、チルは「わあん穴空くのやだー」と、トーガも「手足なくなるのやだー」と泣き叫んだ。

「わ、わかりました! 俺が、やりますから!」

 トランクスさんは私の肩を掴み、訴える。
 口の端に卵焼きついてるぞ。

「よかったー! お願いしますね! 二人ともー、食べにおいでー」

 私は微笑みながら双子を呼んだ。
 トランクスさんはしてやられたような顔をしながら照り焼きを口に入れた。その途端、眉が寄る。
 まずかったのか? ……でも食べ続けている。いまいちな味付けだったのかしら?

「……マヨネーズ、つけてみます?」
「……なにに?」

 照りマヨにすれば味が変るのでどうかなと提案したら、口に入れた後また顔顰められた。
 なんなんだ。まずいのか?

 這うようにしてやってきた双子を横目に、私は皿におかずをよそった。

 + + + + + + + + + + + 

 その日からトランクスさんは容赦しなくなったようで、双子はボロボロになりながら帰宅するようになった。
 ちょっと脅したのが効いたらしい。

 そんな日が数日続いた後、双子はソタ豆を食べて帰って来るようになった。
 双子がへばるとご飯支度を私一人でやることになり、簡単な料理ばかりになってしまうのがいやになったようだ。……食い意地が張った双子だ。

 しかし、それが大層効率がよかった。
 殴り合いという修行をしてへろへろになったらソタ豆を食べて、食べたい獲物を狩って帰ってくる。
 帰ってきたらおやつ食べてご飯作って食べて寝る。
 ……どこの体育系合宿だよ。
 そんな毎日を続けていたらハードだったのかすぐにトーガは加減というものを覚えたようだ。
 鍛え始めて三日もしないうちに気を扱えるようになり、チルのように放てるようになった。

 そうなってしまえば後はもう、楽しいらしい。

 毎日進んでチルとトランクスさんを引っ張って修行に行き、毎日いい顔をして帰ってくる。
 トーガほどではないがチルもすっきりした顔をしていることも多い。

 なんというか……君たち本当にサイヤ人だね……。
 しみじみと思った。

 双子が修行に熱中するとシロは家で留守番する時間が長くなり、いつもころころ転がってはたまにブルマさんに遊んで貰っている。
 トーガは前のように夜起きだす事もなくなり、毎日死んだように眠る。
 安らかな寝顔を見ると私は安心した。

 地球にきてよかったと、これだけでも価値があったと、トランクスさんに感謝したのだ。
 つまりちょっと私の中で株が上がった。ちょっとだけ。


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