第二部 人造人間編
第一章 希望
60 誕生日
地球に来てから半年が過ぎ、そろそろ一年というころ。
あたりはすっかり秋になり、草木は黄色く色付き始めていた。
空気が冷たさを帯びて強く吹き込む。
強風をもろに受けるカプセルコーポレーションは、揺れこそしないものの、時折大きな音を立てて天井から壁が剥がれ落ちてくることがあった。
たまにその音で目が覚めてしまうのだ。
今日はまさにその日だった。しかも夜明け前で、今日一日眠気との戦いだった。
私はあくびをかみ締めながら自分の〈かばん〉からケーキを取り出す。
双子は「わっ!」「ふたつだ!」と歓声を上げ、地球人は不思議そうに眺めている。
今日は地球にきてから初めての、双子の誕生日だ。
寝不足だなんて言ってられない。
「おめでとう」と双子に向かって言えば、チルは満面の笑みを浮かべ、トーガは照れくさそうに「ありがと」と答えた。
それに驚いたのはブルマさんだ。
「誕生日だったの!?」
「そうなのー8歳になったの!」
「おめでとう」
「ありがとー!」
「ん」
トランクスさんにも祝われ、双子が嬉しそうに返事をしている。
私はそれを尻目にケーキにナイフを入れた。
ホールケーキを一つ食べたかったらしい双子から、取り分けることにブーイングが出たが、口に入れば静かになる。
「ちょっと! なんで教えてくれないの! なにも用意してないじゃない!」
「のほむ?」
トーガ、無理して返事しなくて良いから。
飲み込んでから話しなさいとお茶をトーガの前に置き、トランクスさんにも渡す。
「いいんです。ウチはいつもケーキでおしまいですから。ブルマさんはお茶要ります?」
「いるわよ!」
ブルマさんは「もー!」とワインとつまんでいたオイル煮を寄せて、ケーキを食べると思わずといった風に口元を押さえた。
「……ずいぶんやわらかいケーキだこと。イチゴも入ってて豪華ねー……初めて食べた」
スポンジケーキにクリームと取って置いたイチゴを挟んだ定番のバースデーケーキと、チョコクリームとバナナを挟んだチョコレートケーキ。
食糧難だといっても信じてもらえないだろう代物に仕上がってる。
プレゼントなんてない分、誕生日のケーキは豪華に作ると決めているのだ。そのための果物は必ずストックしていて〈かばん〉を手に入れてから切らしたことはない。
「このケーキはね、誕生日しか食べられないの……おいしいの……」
口にクリームをつけながらチルはうっとりとしている。
……ケーキ大好きだもんね。
ホイップクリームたっぷりだし、チルだけじゃなくトランクスさんも好きなはず。
ちらりと隣を見ると、トランクスさんはケーキをじっと見たまま固まっていた。
ど、どうした?
「トランフフ、いふらお?」
「トラ兄はいつなの? 誕生日」
双子の声にトランクスさんは弾かれたように顔を上げた。
「……え? ……あ、ああ、12月の……」
「サーヤと同じだ!」
「違うよ。地球の暦とは数え方が違うから……」
「そーなの? じゃあ歳も違うんじゃない? ちょっと詳しく教えなさいよ」
ブルマさんが興味を示したので、それまで使用していた暦や時刻などを教えたら、どこからか計算機を取り出しカタカタ計算し始めた。
構わずチョコレートケーキを食べてみると、香り付けに入れたコーヒーが食べる瞬間にふわって香り……。
普通においしい。
いやーアルカトランで習っておいてよかった。
お茶を飲みつつもう片方の生クリームのケーキも口に入れると、まあ普通にいつものケーキだった。
しかしちょっとこちらはクリームが甘すぎたようだ。チルにはちょうどいいかな。
「あ、でも12月ってもうすぐじゃん。……もうすぐじゃん!」
「トラ兄のは3つくらい作ってね。もっと多くてもいいけど!」
「えっ」
フォークに乗っけていたケーキが落ちた。
双子の言葉に驚いたのは私だけではない。
トランクスさんも驚いて、私たちの声はかぶった。
「なぜみっつ。多くないかね」
「だって5人分だろ? 今日の分にトランクスのを1つ足せばいいじゃん」
トーガは口の周りを茶色くしつつ言い放った。
……言っている意味がわからない。
「トランクスさんがワンホールなのはいいとして、なぜ君たちがひとつずつなのかね」
「え? サーヤとブルマさんも食べるから丸々ひとつってわけじゃないよ?」
双子はなぜ反対されるのかまるでわからないとでも言いたげにきょとんと目を瞬かせ、首を傾けた。
呆れた。
今日は二つ分のケーキを五人で分けている。
主役である双子が大きいサイズ、次に大きいのがトランクスさん、私とブルマさんは少量だった。
三つ作れということは、そのうちの一つ分がトランクスさんの分だとしても、残り二つはほぼ双子のものになる。
さりげなく今食べている量よりも多く要求してくるとは。
……なんと強欲な子供達だ。
「今日は誕生日だからその量なの。他の人のときは普通遠慮するものなの。よって却下」
「えー。いっぱい食べたいのに。トラ兄だってそうだよね。いっぱいあると違う種類のケーキ食べれるよ!」
チルはここぞとばかりに意見をごり押ししてくる。
「え……俺は別に、いらな――」
「馬鹿! 余計な事言うな!」
「そこはうん!って返事すればいいの!」
反撃が大きかったのか、トランクスさんはそのまま黙りこんでしまった。
そうこうしている内にブルマさんが早くも計算を終えたようだ。
計算機、普通の電卓に見えるんだけど……電卓で出せるのすごいな。
「アンタたちは10月生まれね。サーヤは3月。っていうか、歳も違うわ。えーっと地球的には双子が10歳で……だから、サーヤが15……15?」
その結果が信じられなかったのか「ちょっと待って」と言いつつまた計算し直している。
複雑な気分になりながら私は潰れたケーキを口に運んだ。
「なあ、今地球だと8月だっけ?」
「9月」
トーガの問いにトランクスさんが答えると、双子は口をぱっかり開けて私を見た。
……目がキラキラと輝きだしている。
双子の考えていることが手に取るようにわかってしまい、私は目を細めた。
「今日食べたからなし」
そんなに作ってられるかよ。
そう伝えると、双子はまあそうだよなーって顔をしながら残ったケーキを頬張った。
「……ねえ、今日から10歳ってことでいいの? それとも8歳?」
「地球に住むんだったら10歳のほうがいいんじゃないか?」
「あっ2歳も年取るんだったらケーキもその分なきゃソンじゃんか!」
「はっ」
トーガの指摘にチルは驚愕の顔をし、悲しそうに項垂れた。
いや、私的には回数減って万歳ですけど?
最初は小さいケーキ1つだけだったのに、今じゃオーブンいっぱいの大きいホールケーキ2個だからね。
そのうちウエディングケーキになりそう。
……そう思ったのがフラグだったのだろうか。
「しょうがねえから8つで我慢してやる」
トーガははき捨てるように言うと、ケーキを口いっぱいに頬張った。
「……いや、9つ」
チルは空ろな目で見つめてくる。
「……一応聞くけどなんの話?」
8つとか9つとか数がおかしいよ?
「トランクスの誕生日ケーキに決まってんだろ」
「なんで!?」
「次の誕生日まで待てないから」
バカじゃないの!?
9つもケーキ焼いて祝うってねーよ!
真面目にウエディングケーキか!
「テーブル乗せきれないし、皿もないし、バリエーションもないから無理。……無理だってば!」
そんな恨めしそうに私を見るな!
――無視しよう。
できないものはできない。
それだけでいいならやってもいいけど、そのほかに料理もだろ? 無理無理。
構わずお茶を飲んで残ったケーキを食べてしまおう。
そう思ってカップに口つけたとき、ブルマさんが深刻な表情で私に問いかけた。
「ねえ、サーヤ。……アンタ、生理来てる?」
口の中にあった茶色い液体は漏れなくリバースされることになった。
