第二部 人造人間編
第二章 過去へ
66 Age766
長い長い暗闇を抜けたとき、目に映ったのは空だった。
――青い空だ。
そっと下を覗き込んでみると、広がる草原にぽつぽつと家が建っている。
のどかな風景だ。
地上は未来とずいぶん変わってるけど、空は変わらないんだな。
過去に来て初めに抱いた印象はそんなものだった。
タイムマシンが落ち着いた後、私はさっさと下ろされた。作業に邪魔だったらしい。
外で待つ間何気なくトランクスさんを見れば、なんだか不機嫌そうにタイムマシンの操作部を弄りつつ眉を顰めている。
なにかあったのだろうか。
気になりはしたが邪魔をしちゃいけない雰囲気バリバリ感じたので黙って待つ。
そうしているうちにタイムマシンをカプセルに戻したトランクスさんは、眉間に皺を寄せたまま地平線に向かって指をさした。
「……こっちです。急ぎましょう」
言われたまま飛ぶと案外近くに大きな島があった。結構栄えているようだけど、町のあちこちから煙が昇っている。
「……やっぱり、ずれてる。島がムチャクチャになってるし、誰もいない……遅く着いてしまったようです」
島で悟空さんたちと人造人間が闘っているはずだったが、いないみたいだ。
調べようか?
「調べる?」
「闘っているなら気がぶつかっているはずです。打ち合いとかしてればすぐわかるんで」
意識を集中させるとすぐに見つかった。
でかいんだもん。
「そういえばチルも気配には敏感でしたね。そのおかげで人造人間の動向もわかったくらいですから」
私は指差しながら答えた。
「他の星に瞬間移動できるんですよ? 地球上の気配ならわかります。……こっちです」
「……確かに感じます、いきましょう!」
頷き飛んでいくトランクスさんに遅れないよう自分も飛んでいく。
並んで……はやい。
速いよ! ちょっと待って!
さっきと速度が全然違うではないか!
根本的に身体能力に差があるのはわかりきってるんだけど、さっき飛んだときはついていけない速さではなかった。
合わせてくれたんだね?
茶柱くらいの大きさにしか見えないトランクスさんと、息切れをしている私。
例えて言うなら車と人間である。
一緒に走れる気がしない。無理。
それでも追いつこうと必死に飛んでいたら、トランクスさんが戻ってきてしまった。
「急がないと!」
「ごめんなさい! 先に行ってください! 止まったら瞬間移動で飛びますから!」
「抱っこしましょうか!?」
「嫌です!! 早く行ってください!!」
ぶんぶん頭を振って拒否した後見上げると、トランクスさんは事の他渋い顔をしていた。
そんな顔しないで! 抱っこなんてやだよはずかしい!
「気をつけて来てくださいね!」
「はーい」と返事をしてトランクスさんを見送ると、あっという間に姿が消えた。
やっぱり超サイヤ人になれる人は速いわ。私どう頑張っても並んで飛べないや。
気配を逃さないように探索しながらそれらしい方向に飛んでいく。
あ、待てよ。先にトイレを済ませておこうかな?
もう一度集中してみるとトランクスさんはまだ飛んでいる。
んでもって、進行方向に一般人より大きい気が4つ……5つ? ん? ブルマさんの気がある。
……皆まとまりつつあるし、集まる前に済ませよう。よし。
しているときに爆発的な気の分散を感じて焦ったけど、皆無事なようだ。
ああ良かった。用足ししている間になにかあったらさすがにトランクスさんに殺されてしまう。
手を洗い終えた私は〈かばん〉から三面鏡を取り出し、身だしなみをチェック。ちゃんと羽が隠れているかも確認しておく。
今私の首にはチョーカーのような黒い布が巻かれている。
隠すなら、とブルマさんがくれたものだ。
首にぴったり巻きついて簡単には取れない。
ストレッチ効きすぎて羽が浮いて見えるので、その部分はリボンのフェイクをつけて誤魔化している。
傍から見ればなんておしゃれさん!な代物だ。
……うん。問題なし。
気を探るとちょうど皆集まっていて、一際大きい気があるのがわかった。
それが誰なのかわからないけれど、トランクスさんに似てるかな……?
ま、いいや、すぐ会うし。殴り合ってないから敵ではないでしょ。
あーっ、緊張する。面接並みに緊張する。
胃も痛くなってくる。
でもそんなことにかまってる時間はない。
集中して、ちょうどトランクスさんの前に出るように……。
ふ、と一瞬意識が途切れるような、瞬間移動に成功した独特の感覚を味わうと目の前の景色が変った。
「――あ、こ、こんにちは」
「だれだ!?」
ばちっと目が合ったのは――クリリンさんだった!
すぐわかった! 頭はげてるから!
クリリンさんは目が取れそうなくらいまん丸に見開いて驚いていた。
私だってきっと似たような顔をしているに違いない。
とっさにお辞儀して、あたりを見回すとまさに壮観だった。
「子供!?」
「な!?」
「いきなり現れたぞ!?」
クリリンさん、悟飯さん、天津飯さん、ブルマさん、ベジータさん、ピッコロさん。
皆個性あふれる姿をしているので一目で誰が誰かわかる。
きゃあああああああああ!
――と、叫びたかったができないので心の中で叫んだ。
ピッコロさん肌が緑だ! 目つき悪い!
ベジータさん超サイヤ人になってる! 思ってたより背が高い!
ブルマさん若い! 美人!
天津飯さん目が三つある!!
胃が痛いのか心臓が痛いのか。
それともどちらも痛いのかわからないぐらい上半身の奥がドキドキズキズキいってる。
「遅いですよ」
「す、すみません」
トランクスさんの声で我に返った。
まずい。過呼吸なりそうなくらい興奮していた。
抑えないとただの変態に成り下がる。
私は両手を握り締めて耐えた。
「この子がさっき話した子です」
「まさか女の子だったとは」
「地球人じゃないのよね?」
「は、はい、サーヤといいます。ナウネという星からきました」
「サーヤちゃんかー」とクリリンさんにちゃん付けされるとこそばゆい!
笑って返事をするけれど、私の握り拳は緊張で真っ白になっていることだろう。
「おい! そんなことはどうでもいい! ドクターゲロの研究所の場所はどこだ! やつは必ずそこに戻るはずだ!」
「え? 場所?」
後ろからの怒号に振り向けば、ブルマさんが思案するように手をあごに当て、近くには馬鹿でかい気を纏っているベジータさんが眉を吊り上げて睨んでいるではないか。
ベジータさんに怒鳴られても平気なブルマさんはすごいな……。私いま、自分が怒鳴られたわけじゃないのに縮み上がっちゃった……。
ブルマさんが〈北の都〉の近くの山に研究所があると言うと、流石ベジータさん。殺る気まんまん自信たっぷりに自分が片付けると言い放った。
トランクスさんがすかさず反対する――親子の言い合いだ。
この状況おいしいな……私的にはとてもおいしい……手を合わせて拝みたい……。
様子を見ていたら早速ベジータさんが飛んでいってしまった。
ばっとトランクスさんが私を見たので肯定の合図を送る。
タイムマシンで決めた合図だ。
するとそれを見るなり父親を追ってさっさと飛んでいってしまった。
アウェーに取り残された気分だ。いいけど。
でも他の人はよくなかったようだ。
「ええ!? 置いていっちゃいましたけど!」
「うっそだろ! ほっとくのかよ!」
悟飯さんとクリリンさんがそろって抗議の声を上げてくれた。
やだ! 心配されてる!
にやけそうになる顔を微笑みに矯正し、私は言った。
「戦いに行ったんですよね? なら私行く意味ないです」
「それにしたってひどいわよ、あなた異星人なんでしょ? 知ってる人いないじゃない! ……なによ」
いますけど。むしろあなたですけど。
「いえ、ブルマさんは際立ってお綺麗ですね」
「そんなの当たり前じゃない……って、私を知ってるの?」
「もちろん! 恩人のお母様ですから」
「恩人?」と首を傾げられた。
「私は地球にドラゴンボールがあると聞いて旅してきたんです。それで着陸したところが運悪く人造人間が破壊しているところで……トランクスさんに助けて貰ったんです。死ぬかと思いました」
「ドラゴンボール!?」
「え? トランクス?」
「ど、どういうこと?」
「意味がわからん。最初から話せ」
旅の途中で両親が死んでしまって、生き返らせるために地球を目指してやってきたこと。
転々と星を回っていた時ヤードラット星人と出会って運よく瞬間移動という技を教えて貰った事。
地球についたら人造人間に襲われて助けて貰った事。
宇宙船も壊れ、小さい弟妹もいたのでかくまってもらっていること。
過去の悟空さんにナメック星に連れて行ってもらえば、未来でも生き返らせれるのではないかとブルマさんが言うので、助けて貰ったお礼にそれだけでも力になりたい……いやあわよくば両親生き返らせたいと思ってきた事を話した。
ぜーんぶ設定ですけども!
ピッコロさんは腕を組んで、ない眉を寄せた。
「ふむ……」
「それで一緒に未来からきたってのか? すげーなー」
「はい。トランクスさんとブルマさんは恩人なんです。私闘えませんけど、逃げるために習得した瞬間移動が役に立てるならがんばろうと思って」
「逃げるためなんですか」
そうだよ。
後は知ってる人に会うためですよ悟飯さん。
失礼にならない程度によく見ると悟飯さんはすこし小さい。目線が下だ。
この人が世界最強か……わからないもんだなあ……普通にかわいい顔してる子供なのに。
頷いていると「ねえ」とブルマさんが話しかけてきた。
私に小さいトランクスさんを見せるように掲げて。
「トランクスって私の息子……この子なんだけど……まさか」
私は口元を押さえた。
あ、あれ? さも当然のようにトランクスさんの名前を出してしまったけれど、もしかしてまだ言っちゃいけなかった?
毛穴から汗が噴出しそうになったとき、ピッコロさんの声が聞こえた。
「構わん。黙っている意味はもうない」
ピッコロさんはブルマさんの腕の中できょとんとしている小さい赤ちゃんを指差した。
「飛んで行ったやつの名前はトランクス。父はベジータ、母はお前だ。つまりあいつはその赤ん坊の成長した姿だ」
ピッコロさんが言うなり、ブルマさんは大きな声をあげた。
「えーっ!? そ、そうだったの!?」
「ひええ……そ、そういや似てるかな……」
ブルマさんは大きな目をさらに大きく見開き、それに続いてクリリンさんも引き気味に驚いている。
その後、ドクターゲロの研究所を探しに行くという原作と同じような流れになり、私はほっと胸をなでおろした。
……それぐらいで未来変るとは思えないけど、心臓には悪い。
真剣そのものな雰囲気でピッコロさんたちが打ち合わせをしているのをよそに、ブルマさんは声を弾ませて小さいトランクスさんを抱えあげた。
「アンタ結構いい男になるんじゃない!! 目つきが悪いから心配しちゃったわよおかあさん!!」
場にそぐわず大変喜んでいる。
……赤ちゃんにしては目つきは鋭いけどまだかわいいよ。大人になったらその比じゃないよ。睨まれたら逃げ出したくなるくらい怖いから、睨まないように教育したほうがいい。
じっと二人を見ていたら、悟飯さんが「あの」とブルマさんに声をかけた。
「ブルマさん、もし早く治ったら来て欲しいってお父さんに知らせてくれませんか?」
「いいけど、壊れちゃったわよ飛行機。どうやって知らせるのよ」
「この子に瞬間移動で連れてって貰えばいいんじゃないか? なあ頼むよ」
ぼーっとしてたら、クリリンさんにムチャ振りされた。
「で、できません! し、知っている人のところにしか行けないんです……すみません」
頭を下げると、クリリンさんが気にしていなさそうに声を掛けてくる。
「そうだったっけ? あ、じゃあみんなの名前教えとくよ。そうすればここにいるやつのところには、いけるようになるんだろ?」
私が頷いたのを確認して、クリリンさんは毛のない頭を撫で、そのあと指をさし始めた。
「俺の名前はクリリン。あの三つ目が天津飯で、緑の触角はピッコロだろ。見た目より恐くないから気にすんな。で、このちっちゃいのが」
「悟飯、お前が連れて行ってやれ。人造人間のほうは俺たちだけで十分だ」
「は、はい」
「そう悟飯。変わった名前だろ? 悟空の息子なんだ」
「よ、よろしくお願いします」
お辞儀をすると悟飯さんも同じように返してくれた。
クリリンさんは面倒見がよさそうだし、天津飯さんは真面目そうに後ろでじっとしている。
ピッコロさんは仕切っていて悟飯さんは礼儀正しい。
―――どうやら漫画で見たとおりの人たちのようだ。テンション上がるー!!
「……時間を食ったな。ベジータよりも先に見つけるぞ!」
ピッコロさんと天津飯さん、クリリンさんは威勢よく飛んで行った。
「じゃあ、急いでいきますけど……サーヤ、さん?は、飛べるんですか?」
悟飯さんは首を傾げて視線を向けてくる。
な、名前呼ばれた! ……あの悟飯さんに、名前呼ばれた!
第二の主人公に名前を覚えて貰うなんて――感無量である。
おっと、そんな表情させてたらただの変態ですから、出さないようにするんですけど。
心臓は……高鳴る……!
「と、飛べます。遅いですけど」
「気をつけてよー。赤ちゃんいるんだから」
ブルマさんを抱えた悟飯さんとともに飛んで行こうとしたら、「おい!」とどこからか声をかけられた。
「オレもだ! 忘れるな!」
「え!?」
見れば刀を持った大柄な男が「早くしろ!」と急かしてくる。
――誰?
記憶を探るが出てこない。
しかしどうやら知り合いらしく、ブルマさんと悟飯さんは親しげに話をし始めた。
どうしよう、ぜんぜん思い出せないんだけど。
やり取りを見ていると、ブルマさんが親指でその人を指し、紹介してくれた。
「このおっさんはヤジロベーっていうの」
「おっさん……」
ヤジロベーさんは「俺がおっさんならお前もおばさん」とごにょごにょ言っている。
どうやら直接は言えないらしい。
ヤジロベーって……あー、いたなあ、そういえば。そんなやる気のなさそうな人。
セル編に出ていたのか……えー? 覚えがない。
まずいな、私細かいところまで覚えきれてないんじゃないか?
……。
来てしまったのだからもう後には引けない。覚えているところだけでなんとかしなければ!
とりあえず三人抱えて飛んでいる悟飯さんが重そうなので微力ながら手伝う事にした。
「あ、ありがとうございます」
「いえ、あんまり役に立ってないです。すみません」
想像よりもずいぶんと重たくて、結局私は持てていない。……支えてるだけのような感じだ。
悟飯さんすごいな。やっぱりサイヤ人なんだなー。トーガみたいだ。
「ねえ、未来ってどんなところ? どういう風になってるの?」
移動していたらブルマさんが唐突に話しかけてきた。
見上げる顔は上目遣いでかわいい。
今でこれだけかわいかったら十代なんてもっとかわいいんだろうな……。
「詳しく聞かせてよ。とりあえずCC目指してさ。この分だと時間かかるだろうし」
「す、すいません」
思わず謝ったら悟飯さんとかぶった。
4人でふよふよ浮きながら移動する中、未来について話すことになった。
地上は荒らされていて皆地下に住んでいるということや、地下の奥深くに街があってそこで食料とか売ってるけど足りない事。1年近く暮らしてきて思った事も交えながら話した。
「俺は? 俺は生きてないのか!?」
「今が初対面ですね」
「がーん」
ヤジロベーさんはとてもしょげてた。
生きてるかもしれないけど、存在を忘れてたからなあ……。
というか、よくみればヤジロベーさんの顔、もろに日本人だ。
なんだかものすごく親近感湧く。
日常的に美形と美人に囲まれてるとしょうゆ顔が恋しくなるというか……そういう顔の人見ると安心する。
自分の顔もそうだからだろうか……。
あれ、なんだろ。なんだかしょっぱいや……。
「ショックだったんじゃない? ドラゴンボールもないし、宇宙船も壊れちゃったんでしょ?」
「そうですね。でもト、……ブルマさんがいましたから」
「私?」
あっぶねえ。未来と声が一緒だからつられて普通に話しちゃうところだった。ばれるがな!
心臓をばくばくさせながら、にっこり笑って答えた。
「双子の弟と妹の三人で旅してきたんですけど、双子がブルマさんになついて。たぶん母親代わりになってるんだと思います。逃げようと思えば逃げれますから、できることならお手伝いしたいと思いまして」
「しっかりしてるわねー」
そうでもないです、と返しながら苦笑すると、悟飯さんが声を上げた。
「弟妹さんは連れてこなかったんですか?」
「ええ、ブルマさんと一緒にいたほうが万が一の時も安心ですし、それにタイムマシンには入らなくて」
「未来かー。私だけ生きてるってのは流石だと思わない? タイムマシンも作っちゃうしさー。やっぱり、ブルマさんはついてる女だったのよ」
「お前、考え方ポジティブすぎんだろ」
「なによ。うらやましい? アンタ死ぬもんねー」
「……! ま、まだ決まってないし!」
ヤジロベーさんの言い分が負け惜しみに聞こえるのは気のせいだろうか。
ブルマさんは勝ち誇るような笑顔を浮かべ、それがまた絵になるほど美人だ。
この人、頭も顔もスタイルもよくて金持ちだもんなあ。高スペックでリア充か。人生謳歌してるなあ。
この世界の未来をしみじみと思い出しているとき、ふと、その手に抱かれている小さいランクスさんと目が合った。
じーっと見られている。
……そらせない。
赤ちゃんだからすぐに視線が移ると思ったのだけど、予想外に見つめられどうしたらいいのかわからなくなる。
そんなとき、ブルマさんに声を掛けられた。
「ウチの息子気になるの? 確かに、育ったらいい男になるし。見る目あるじゃない」
「え?」
いい男?
反射で私はブルマさんを見つめて首を傾げた。
「え?ってなによ。アンタ、ウチの息子に助けて貰ったくせにときめいたりしなかったの~?」
「は?」
ときめく。
そう聞いた時に思い出したのは結構前の微笑みの爆弾事件だったが、なんか違う気がする。
なのでさっさと頭から追い出した。
「『は?』ってなによ、『は?』って。なにそのあり得ないみたいな反応!」
あ、そっか。普通助けられたらときめくものだっけか。
素で「は?」って言っちゃった。
だって無理だわー。助けられたんじゃないもの。脅されたんだもの。
私は押し黙った。
「えーちょっと信じられない。アンタ位の歳なら初恋位……そもそも何歳よ?」
「……15ですけど」
そう言うと、そこにいたトランクスさん以外が驚いた声を上げた。
