Trunks side.写真

第二部 人造人間編

第一章 希望

Trunks side 写真

 一番古い記憶は暗闇だ。
 いつもあいつらが襲ってきて、その度に母さんと地下に逃げ込む。
 深い深い地下のシェルターは小さな赤い光だけが灯っていて、それが幼いころすごく怖かった。

 人造人間は夜目が効かないと言われている。
 夜に活動することはほとんどない。
 逆に言えば明るいと居場所がばれるから、暗い中を移動することになる。

 多くの人は夜にまぎれて逃げた。
 もちろん、俺もそうだった。
 人造人間が〈西の都〉を破壊しつくしたその夜は、逃げた先の町から燃えているのを見た。
 登った瓦礫がれきの向こうで昼間のように煌々と燃えさかっていた火は、三日間俺の家を焼いた。

 地下シェルターにいても安全なわけじゃない。
 地上での衝撃がそのまま地震になり、それが元で壊れることもあるし、出入り口が塞がればいずれ死ぬ。
 それでも昼間襲われたら人々はシェルターに逃げ込む。
 地上にいるよりはましだからだ。

 母さんは避難用シェルターや対抗できる武器を優先的に作った。
 そして食料に換えた。
 そんな生活をするには地上から材料を取ってこなければ続かない。
 俺たちはそれらを求めて各地を転々とした。

 だから偶然悟飯さんに出会うまで、俺の世界は暗い夜と小さいシェルター、そして小さな端末だけだった。

 小さい端末はいうなれば辞書だ。
 多量な画像とテキストのデータは俺の教科書で暇つぶし。
 その中にひっそりまぎれる父さんの画像を見つけたのはいつだったか。

 母さんが言うには写真を撮らせてくれなかったらしい。
 防犯カメラのデータだという画像はあまりに粗末なもので、見ただけで人となりは判断できない。
 だけど幼いころの俺はよくそれを見ていたようで、くっきり目に焼き付いている。

 他に覚えているものは、写真だ。

 そのころは平和だったんだろう。
 高い建物が並び、整備された道に、青く茂る街路樹。
 自分の住んでいた街が、まるっきり知らないところのように写る写真。
 祖父や祖母もいたし、母さんも若かった。
 悟空さんやクリリンさんたちは、楽しそうに笑っていた。

 現像された写真はたくさんあったけど、色あせて破けたものも少なくなかった。
 でも、どんなに状態が悪くなっても、母さんは絶対に捨てなかった。
 そして繰り返し、何度も見ていた。
 だから必然的に俺も多く目にすることになる。

 ――俺は、その写真を馬鹿にしていた。

 間抜けな顔をして笑っている。
 馬鹿の馬鹿面ばっかりだ。
 そんなだから死んだんじゃないのか。

 そう、けなしていた。

 母さんには言っちゃいけないような気がして口に出すことはなかったけど。

 母さんはいつも電子端末と睨み合っていた。
 飯は一人で勝手に食べて、端末いじって勉強して、母さんの手伝いもたまにやって。

 寂しいかと聞かれてもよくわからなかった。
 近くに誰もいなくてもそれが当たり前だったから。

 そもそも俺には知り合いなんていない。
 友達の意味すらよくわかっていなかった。

 だから寂しさの意味を理解できていなかったのだと思う。

 そんな俺を外に連れ出してくれたのは、悟飯さんだった。

「一緒に強くなろう。そして平和を取り戻そう」

 そういわれたとき、俺は悟飯さんに突っかかった。

 平和ってなんだ。

 意味はわかるけれど、俺は知らない。
 知らない俺が取り戻すっておかしい。

 そういうと悟飯さんは困った顔をして、手を差し出してきた。

「じゃあ、平和にしよう。強くなってみんなを助けるんだ」

 無理だろって思ったけど、頷いた。

 理由は簡単。
 強くなりたかったからだ。

 そのへんに転がってる死体みたいになるもんか。
 必ず生き残ってやる。

 そう思って掴んだ手はごつごつしていて温かかった。

 後から思い出せば、なんて生意気なガキだろうって恥ずかしくなったけれど、悟飯さんはそんな俺にたくさんのことを教えてくれた。
 まあ、強くなる方法というよりは、なにが食べられるもので、どこになにが生息しているかっていうサバイバル術が主だったけど。
 違うだろって思ったけど教科書には飽きていたから全部新鮮で、俺は夢中になった。
 正直母さんと地下にいるよりも悟飯さんと過ごすほうが何倍も楽しかった。

 気の扱いに慣れ、長い時間飛べるようになったころ、人造人間の襲撃に出くわした。
 大きな町の大きな広場。
 そこは旗や花が飾り付けられ、通りには大きく文字が書かれていた。

“我々は屈しない。希望をこめて”

 収穫祭だったのだと思う。たくさんの人や物でにぎやかだったに違いない。
 けれど俺が見たときにはすでに、並べられた野菜や花は真っ赤に染まっていた。

 大勢の人間が、たったふたりの人造人間が放った小さい気弾で死んでいく。
 一方的な蹂躙じゅうりんに建物は崩れ地面に血が流れた。

 初めて見た光景に俺は怯んだ。

 今までの自分は地べたをって逃げる方だった。
 移動する時は夜が多く、自分と母さんが生き延びることしか考えなかった。
 襲撃が終わって外を見れば死体がごろごろ転がっているのが当たり前。
 声をかけてくれた人も次の日には死んでいる。
 そんなことはごく普通のことだったから、なんの疑問も抱かなかった。

 みんな、弱いから死んだんだと。
 虫けらみたいに潰れて死ぬのは、逃げることもできなかった弱者だからだと。

 幼稚だった考えは、人々を見て吹き飛んだ。

 逃げ惑い声をあげる人、あるいは祈るように手を組んで座り込む人、老人を抱えて走る人、応戦しようと銃を構える人、逃げる人を守るための壁になる人。

 地面に転がっていた死体は、最後まで生きようとしていたのだという当たり前のことを。
 ――子供だった俺はなにもわかっていなかった。

 一緒にいた悟飯さんが逃げろと俺の身体を突き飛ばす。
 それでも地面から目は離せなくて、一人の子供が目に付いた。

 自分と同じ歳の頃の、女の子に見えた。
 その子は逃げる人波に逆らって、母親と思われる人と一緒にいた。
 足を痛めているような仕草をする母親を庇うかのように前に出る。
 懸命に母親が子供を引っ張るが振り払われる。
 子供は決死ともいえる険しい表情を貼り付け、人造人間をまっすぐ睨んでいた。

 そのふたりが、まるで母さんと自分を見ているようで――。

 気が付いたら、身体が勝手に動いていた。
 人造人間と、二人に向かって飛ぶ。

 間に入れば。助けられるかもしれない――。

 そんなおごった考えは、悟飯さんに止められた。
 悟飯さんの肩越しに見えたのは、その子の頭が潰れる光景。
 その時初めて超サイヤ人になったみたいだけど、詳しくは覚えていない。

 後でわかったのはその子が守った女の人を、悟飯さんが助けたということだけだった。

 それからだ。
 まじめに修行し始めたのは。

 厳しさよりもどちらかというと優しさが勝る悟飯さんは、師匠であり先生であり、それでいて家族に一番近かったのだと思う。

 そんな悟飯さんは小さなことでも笑う穏やかな人だった。
 大きな獲物が取れたとき、修行して初めて飛べるようになったとき、自分が怪我を負っても他人を助けることができたとき。
 俺ではなんとも思わないことを、悟飯さんは感情でもって伝えてくれた。
 俺なんかよりも余程人間らしい、心優しい人だった。

 でもそんな悟飯さんも、俺を置いて逝ってしまった。

 ――タイムマシンに乗るしか方法がないと悟ったとき。

 本当は悔しかった。

 薬の匂いがするベッドの上で、闇にまぎれて涙を流した。

 俺は弱い・・

 頭をつぶされて死んだあの子より、ずっとずっと弱い。

 『暇つぶし』だと、手加減するあいつらにもてあそばれ、たわむれに生かされ続けている。

 どれだけ修行しても、どれだけ挑んでも。

 ―――倒すことができない。

 勇敢なあの子のように誰かのために死ぬことも敵わない。
 どうすることもできない自分に絶望して、タイムマシンに乗った。

 なのに。

「知ってるからです。絶対倒します。倒せます。むしろあなたしか倒せる人がいません」

 死んだあの子と同じくらい小さい子供が、俺の目をまっすぐ見て断言した。
 俺はそのとき、確かに動揺した。

 そのあとで湧き上がった感情は悲しみでも喜びでもなく、怒りだった。

 地球にいた戦士は皆ころされた。
 クリリンさんもヤムチャさんも天津飯さんもチャオズさんもピッコロさんも父さんも、悟飯さんも。
 なのに、俺が倒せるだと?
 夢で見ただけのくせに。
 なにも知らないくせに、ふざけたことをいうな。

 怒りで目の前が赤くなりそうになるのを抑えているとき、母さんが俺の肩を叩いた。

「アンタ一緒に行って宇宙船見てきなさいよ」

 驚いて母さんの顔を見ると、面白そうなものでもみつけたような顔をしていた。
 俺は眉をひそめて首を横に振った。

「……ふたりはここに残るみたいだし、母さんになにかあったら」

「一緒に行こうよ!! ねえ!!」と大きな子供が話しかけるが他の二人は見向きもしない。
 大きな子供の能力は未知数だが――あの二人の子供は危険だ。戦い慣れている動きをしている。
 母さんひとり置いてはいけない。

「だから行けって言ってるのよ。あのふたり、アンタよりは強くなさそうだし、中身は子供だわ。それよりあのサーヤって子のほうが厄介だと思うのよ」

 母さんは口元に笑みを浮かべながら三人に視線を送った。
「シロを迎えに行かなくてもいいのか! 薄情者ども~~~!」と、子供が服を掴んで引っ張っているのに二人は動かない。

「でも……」
「見立てが違ったなら私一人が死ねば済むし。タイムマシンはカプセルにしておくから、なにかあったら一人でやりなさいよ」

 淡々とかけられた言葉がまるですべてを放り出したように聞こえて、俺は思わず母さんの肩を掴んだ。
 その拍子にタバコの灰が落ちていく。

「アンタが勝てない相手が増えたら終わりなんだから――敵なのか味方なのか、アンタが見極めてきなさい」

 終わり、という言葉がずっしりと圧し掛かり、俺は唇を噛んだ。

「まっ大丈夫だと思うけどね」

 タバコに口をつけながらも母さんは視線を三人からそらさなかった。

「――あの子ら、おいしそうなもの食べてるのよ。ここじゃ手に入れられないものを大量に。そんなことができる人間が、ここの現状を知った後で帰らないってある? ……なにか他に理由があるのよ」

 聞かれないようにささやかれた意味がわからないほど、馬鹿じゃない。

 母さんに言われたとおり、サーヤと呼ばれた子供と亀ハウスに向かうことになった。

 子供は飛んですぐに筋斗雲を呼び寄せた。
 俺はそれを見て、片眉を上げた。

 筋斗雲は心の清らかな者しか乗ることができないとされている雲だ。
 乗れるということは嘘をついていないという事なのだろう。
 ……本当に?

 少しの疑惑は警戒心に煽られてすぐに大きくなる。
 その結果が同乗だ。

 ちらりと見ると、子供は肩を落として縮むように筋斗雲にしがみついている。
 怯えているのか顔はずっとうつむいたままだ。

 ――そういえば出会ったときは泣いていたな。
 怖い顔だから泣いた、という子供の軽口を信じるわけではないけれど……悟飯さんなら泣かなかったんだろうか。

 筋斗雲は悟飯さんのものだった。
 悟飯さんが生きていた頃は乗せてもらったこともある。
 いなくなってからは筋斗雲も消えてしまったが。

 ……きっと悟飯さんなら無条件で子供たちを信じるのだろう。
 だまされようが蹴られようが子供にはいつも優しい人だったから。
 あの人は陽だまりのようなひとだった。

 ――悟飯さんは、手が白くなるくらい筋斗雲を握りしめている子供に、なんて声をかけるだろう。

 俺には、じっとその手を見つめることしかできなかった。

 その後無言で空を飛び続け、武天老師さまの家につくと、熱烈に迎え入れられた。
 泣きながら喜ばれると、顔を見せに来なかった自分が恥ずかしくなる。
 二言三言ばかりの挨拶だったが、また来ようと心に決めた。

 子供はというと武天老師さまと話すなり跳ねるように駆けだす。
 その仕草は至って普通の子供で肩の力が幾分抜けた。

「あの子はお前さんを頼ってはるばる地球まで来たんだと。聞いたか? そりゃあもう、エライ必死じゃったぞい。お前さんが生きてるか教えろとな。死んでるか確認できるまで帰れんと言い切りおった」
「……そう、ですか」

 白い髭を撫でる武天老師さまは楽しげに宇宙船を見ていた。
 つられて視線を向ければ、子供が亀にもあいさつをしながら走っている。

 ――なぜ、そこまで俺を。

『トランクスさんが人造人間を倒して平和になるので、できることならこのまま地球にいたいです』

 脳裏に焼きついていた言葉が、ぼやけることもなく再生される。

 ――本当に、真面目に、そう思っているのか。

 信じたいような、しかし理解できない複雑な気持ちが混ざり合う。

「気負うな。生き延びることを第一に考えとればいいんじゃ」

 俺の葛藤を見抜くように武天老師さまは笑顔を見せる。

 気負っていたのだろうか。
 ――もう一度過去へ行くまでは、なにがなんでも生き延びなければならない。
 そう考えて今まで生きてきた。

 だからこんなにも信じることができないのだろうか。

 武天老師さまも、口では疑っているように言っていた母さんも、子供の言うことは信じているようだった。
 自分の知っていることを共有できたから?
 ……残念ながら俺は、二人のようには信じることができない。

 母さんのいうとおり、『敵』で『勝てない』のであれば、すべてが終わる。

 しかし、知ろうとしなければなにもわからない。
 わからないまま切って捨てるには、なんとなく悟飯さんに怒られるような気がした。

 ――話を、しなければならない。

 俺は砂の上を歩いた。
 目指す先には未知の種族が作った英知の結晶、宇宙船が、太陽の光を反射して鎮座していた。

 触れると滑らかな外観は、知らない素材が使われている。
 宇宙から来た、その事実さえ疑っていた俺は、どこもかしこも地球上では見たことがないもので構成されたこの乗り物に触れて感嘆の声を上げた。

 しかし、その弾んだ気持ちは次の瞬間消え失せる。

 子供は海を泳いでいた。
 見たこともない不思議な球体で。

 ――なんだ、それ・・は。

 冷静になったかと思った頭の中はいとも容易く再燃した。

 相手は地球人じゃない。異星人・・・だ。
 同じ尺度で測ってはいけなかった。

 証拠と信用は違う。
 話している事が真実だとして、そのほかに企んでいることがあるのではないか?
 それが害を与えないだなんて、どうして判断できる?

 もう地球には、俺しかいない。

 その俺を頼ってきた? あいつらを倒せない俺を?

 馬鹿にするな、といいたかった。

 苛立った衝動に任せ、俺は剣を振り下ろした。

「――――!!」

 ガキンと音がしたのと、声が聞こえたのは、ほぼ同時だったような気がする。

 目の前の子供は何か言っている? ――歌っているように見えた。
 それに眉を顰め、剣で球体を切ろうとするがびくともしない。
 人造人間と戦っても折れない俺の剣を、この子供はなんなく防いでいる。

『アンタが勝てない相手が増えたらもう終わりなんだから』

 母さんが言ったことが頭を過ぎった。

 睨めば子供は顔をくしゃっと歪め、耐えられないと言わんばかりに目を瞑った。
 そして両腕で頭を守るように抱え、小さくなる。

 それは見たことがある姿だった。

 人造人間に襲われた人々の姿。

 そこまで考えて身体が強張る。

 幼い子供に剣を向けている今の俺は。
 ――あいつら・・・・と一緒じゃないか。

「!」

 気づいてしまえば剣を握る手から力が抜けた。
 それでも目の前の球体は消えたりしない。
 まるでシェルターのようにも見えるそれは、拒絶するように中の子供を守っている。

 声をかけようとした瞬間、目の前が真っ暗に変わった。

 その後泣き喚く子供の痛々しい訴えに、俺は罪悪感を覚えた。

『トランクス。用心はするに越したことはないけれど、最初から疑えば相手もこちらを疑う。石を投げたら投げ返されるだろう? だから俺は信じる。信じたいんだ』

 幼い頃、悟飯さんが騙されるたびに注意したことを思い出す。
 でもどれだけ俺が他人を信用するなと言っても、悟飯さんは聞かなかった。

 信じてもらうには自分がまず信じるしかないのだと、悟飯さんは言った。

「別に悪いことするつもりできたわけじゃないのに! ていうかこんな地球でなにかしようとして意味ある!? 人造人間いるし、なんにもないし、廃墟だし!! 逆になにを企めって言うんですか!」

 悲痛な叫びが耳を貫く。

 ――この子供は、俺に信用してもらいたいのだ。
 過去へ行った俺の言葉を悟空さんが信じてくれた、あのときと同じように。

 俺はもう、なにかしようとは思わなかった。

 それから、当たり前のように三人は俺の家で過ごすようになった。
 サーヤと呼ばれた子供は未知の料理で食卓を埋める。
 実際多くの品数が並ぶのを目にすると、まるで自分の家だったところがそうじゃなくなっていくような気がして、踏み込むのに躊躇するほどだった。
 しかし俺の戸惑いをよそに母さんは喜んだ。

 双子は成り行きで稽古をつけてやることになった。
 頷いたのは特に意味があったわけじゃない。
 次に過去に飛ぶまでに人造人間と戦うことを避けていたから、面倒を見ても問題なさそうだなと思っただけだ。
 食料と称して獲物を取ってくるようになると、それはそれで今度は悟飯さんと過ごした昔を思い出した。

 毎朝起きれば挨拶をされ、毎食当たり前のように温かい食べ物を食べ、毎夜寝る前に気配を感じ、毎日誰かと言葉を交わす。
 そんな日々を送っていると自然に警戒心は薄れ、そばに誰かいるのが当たり前になる。
 子供たちは当然のようにゆっくりと俺の日常に溶け込んだ。

 ふと、どんな旅をして来たんだろうと気になり、汗をぬぐう合間に聞いたことがある。

「そんなにいいもんじゃなかったよな。飢えたこともあるし」

 少年は淡々とそう言った。

「トーガは死にそうになったもんね。……騙された時もあったし、奴隷にされそうな時もあった」

 少女は口元に笑みを浮かべているが目は伏せていた。

「やめろよ、思い出したくねえ」
「いい人もたくさんいたけど、悪い人だっていた。でも楽しかったよね」
「のんきだなあ、チルは。……まあ運がよかったんだよ。オレら」

 頷き合う双子は動作もよく似ている。
 ある程度の予想はできるが、厳しい旅だったのだろう。

「……つらくなかったのか?」

 聞けば双子はきょとんとした顔になる。
 そして顔を見合わせた後、俺を見上げて言った。

「知ってる? サイヤ人ってたくさんの人に嫌われてるんだよ。どこに行っても怖がられるし、追い出されるか捕まえようとしてくる」
「当たり前だよな。殺しまくって物取って行ったんだ。――父さんもそうだった。だからさ、オレらがやってなくてもオレらのせいにされるんだよ。それがなあ」

 二人は俯いた。
 表情はやるせないような、そんな感じのものだった。

「旅をやめようとは思わなかったのか? 誰もいない星だってあったんだろ? そこで暮らそうとは思わなかったのか?」

 双子はまたきょとんと表情を変えると、今度は笑った。

「旅は嫌じゃなかったよ。面白かったし。それに父さん生き返らせてブン殴ろうと思ったから、どっかで暮らそうだなんて考えたこともなかったな。なあ?」
「うん。サイヤ人だって知られなきゃ皆優しかったもん。……地球に来たのはドラゴンボールもそうなんだけど、サーヤがね、地球のサイヤ人は戦うことが大好きなだけの優しい人たちだっていうから」

 その言葉に悟飯さんや悟空さんが真っ先に思い浮かぶ。
 少なくても俺は、当てはまらないと思った。

「そんな人たちが暮らす星なら、わたしたちも普通に暮らせるんじゃないかって思ったの」

 その子はまっすぐ俺の目を見ながら微笑んだ。
 見ていられなくて逸らしたのは、未だ残っている罪悪感からなのか。
 脳裏に浮かんだのは剣の先で小さく丸まっている子供の姿だった。

「まあトランクス以外死んでたし、ひどい有様だったけどな。サーヤ嘘ついたのかって思ったぜ」
「でも間違ってはいなかったよ。トーガだって気出せるようになったし、強くなったでしょ」

 口をへの字に曲げた子供と、くすくす笑う子供。
 その様子は微笑ましく、最初の過酷な旅の話をした時の暗い空気は感じられない。

「もうこの話は終わり! ソタ豆食ったら肉探しに行こうぜ!」
「そういえばさっきあっちに鳥いたよ」

 二人は「おっ照り焼きにしてもらおーぜ!!」「チーズで巻いたやつ食べたいなー」と言いながら豆を口に入れる。

 少年と少女は至極楽しそうに、生き生きと笑っていた。

 その表情を見たとたん、既視感に囚われる。

 料理を作りテーブルに並べる子供。
 ぼろぼろにされながら楽しいとはしゃぐ双子。
 よく笑うようになった母親。

 その姿を思い浮かべた時、パーツがカチッとはまるような感覚が沸き起こる。
 俺は、思わず顔を抑えた。

 小さなころに見た、皆が馬鹿みたいに笑っている写真。
 何度も見たそれは手元になくても目に焼き付いている。

 平和そうに笑顔を浮かべる祖父母。
 口を開けて笑うヤムチャさんやクリリンさん。
 大きい器で飯をかき込んでいる悟空さん。
 ピッコロさんの隣で笑っている悟飯さん。
 皆の後ろでそっぽを向いている父さん。
 そして父さんに手を置いて笑う母さん。

 当然ながら俺の姿はそこにはない。

 ――そうか。
 俺は、うらやましかったのか。

 胸が痛いぐらいに締め付けられた。

 平和になったらあの写真のように、子供達も、母さんも、たくさんの人たちが笑えるのだろうか。

 俺もあんなふうに、誰かのそばで笑うのだろうか。
 いつかそんなときが、本当に来るのだろうか。

『この人はこの世界で一番強いの!』

 言われた言葉はまるで呪文のように頭の中で再生される。
 何気ない一言だったかもしれない。
 けれど、それは時に胸を掻き毟るほど自分を苦しめる言葉になることを、このときの俺はまだ知らない。


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