68.ファンファーレ

第二部 人造人間編

第二章 過去へ

68 ファンファーレ

 ぐーっと鳴ったのは誰のおなかだったのか。
 時計を見れば2時を過ぎていて、私たちは少し遅い昼食を取る事になった。

「悟空ちょっと寄せるからなー」
「ごめんなさいお父さん」

 クリリンさんと悟飯さんの手によって、悟空さんはマットごと端に寄せられた。
 少しだけ広くなった操縦席側に円を描くように座り、中心でチチさんが風呂敷をほどく。

 ――お弁当だ。
 わくわくしながら覗き込むと、おいしそうな中華のお弁当が……!
 ちまきにエビチリに焼豚、春巻き!
 私今、地球に来たことを実感してる……!

「持ってきてよかっただ」
「俺たちもいいんですか?」
「あったりめーだべ。食べさせねえなんてできねえだ。でもトランクスさは悟空さと一緒でたくさん食べるんだろ? ……少ないかもしんねえな」

 そういいながら三つあるお弁当箱を開けていくチチさんに声をかけた。

「大丈夫ですよ。お弁当なら私も作ってきましたから」

「はあ?」とクリリンさんが声を上げた。悟飯さんも首をかしげている。
 論より証拠を出さねば。〈かばん〉の中から大きいタッパーを取り出す。

「いっ!?」
「え!?」

 蓋には詰め合わせおかず、と書かれている。何入れたっけ。
 目を見開いているクリリンさんたちにトランクスさんが苦笑する。

「驚きますよね、そりゃあ」
「え?! なに? なに? 見てなかった!」

 操縦席で声をあげるヤムチャさんを無視し、タッパーを開ける。
 卵焼きと鳥の照焼き、ポテトサラダとコロッケが入ってた。
 ソースとマヨネーズが必要だな。出して置こう。

 調味料瓶を開けてスプーンを刺した。

「えええ! 普通にうまそう! 食料難っていってなかったか!?」
「瞬間移動使って他の星から取ってきました」

「なるほどー!」とクリリンさんたちの声が重なる。
 揃ってる仕草に思わず笑ってしまいながら、もう一度〈かばん〉に手を突っ込んだ。

「そ、それ大丈夫なのか?」
「大丈夫です。このなかのもの時間止まりますんで。痛みませんし、菌も虫も死滅してます」

 解説しながらお皿や箸も出していくと、現場は一気に騒がしくなった。

「これ、サーヤさんが作ったんですか? 全部?」
「マヨネーズもください」
「おらも欲しい! その〈かばん〉!」
「ひぇーぺったんこなのになあ……不思議だなー」
「見えない! みえ、ない!!」
「ヤムチャさん! ちゃんと前見て運転してください!」

 ――う、うーん…………。

 悟空さんが身じろぎした。
 話していた声が一斉に止まり、静かになる。

「……静かにな。しずかに」

 クリリンさんが皿を皆に渡している。

「は、はい……できるかな」

 悟飯さんはそれを受け取りながら父親を見る。

「俺も見たい……」
「ヤムチャさんは悟空の家で食べてきたんでしょ? ならいいじゃないっすか」
「気になるものは気になる。食べてみたいから寄せといて」

 ヤムチャさんの声は不満そうだ。

 そんなやり取りをよそに〈かばん〉から茶葉とポットを取り出す。
 お茶をいれて、みんなに渡していくと持った瞬間に大体驚く。

「不思議だな。〈かばん〉から出てきたのに温けえ」
「どういう仕組みなんですか?」
「俺も母も調べましたけど結局わかりませんでした」
「ええー、ブルマさんでもわかんないなら魔法か?」
「あはは」

 間違ってない。ナウネ星では魔術っていってたからな。

 自分の分のお茶を注いだら、お皿におかずを乗せていく。
 おにぎりと、野菜と……。
 トランクスさんが食べなさそうなものを適当に盛り付け、本人の目の前に置く。
 瓶入りマヨネーズ……もう出してたっけ。
 ――よし、チチさんのお弁当食べよ!

 前世で見たことがあるものから知らない料理まで、ちょっとずつお皿に取っていく。
 はあ、眺めているだけで幸せ。

 前世では好物だったエビチリも、今世ではレア度が高いエビチリ。
 ぱくりと食べて、ぎゅっと目を瞑った。

「辛かったか?」

 ぶんぶんと首を振って否定し、飲み込んだ後に口を開いた。

「……ものすごく、おいしいです」

 悟飯さん向けの味付けなのか、そんなに辛くない。
 エビはぷりぷりでねぎとしょうがが効いている。焼豚もあるし、チャーハンや炒め物も入ってるが……――涙が出るくらいどれもおいしい。
 生まれ変わってから自分が作る料理以外で、こんなに複雑な味わいで美味なものは初めてかもしれない。

「宇宙一おいしいと思います」

 まさに前世で食べた中華屋さんの味。
 口内は歓喜に溢れ、脳内でファンファーレが鳴ってる。
 私が地球で食べたかったのは、こういうやつだったんだよ!

「そっそんなに褒めても悟飯ちゃんはやらねえだよ。うれしいけどよ」
「お母さん……もうやめてよ……」
「なあこれ赤いけど辛いのか?」
「おいしいですよ、卵焼き」
「卵なの!?」

 クリリンさんは卵焼きを渋い顔でみつめ、一度は口に入れようとしたものの躊躇っている。

 そんな辛く見えるかなあ。真っ赤ではあるけど……。

 意を決したように口にしてぱっと表情が変わった。

「……あれ? 甘い」
「赤いから辛いと思いますよね。俺も最初そう思いました」

 トランクスさんとクリリンさんのやり取りは穏やかだ。

 変な味とか言われなくてよかった……。

 ホッとしつつ、シュウマイに噛り付く。
 これもおいしい。お世辞なしでおいしい。幸せだ……。

「どうやって作ってんだ?」

 チチさんは卵焼きを箸で持ち上げてまじまじと見ている。

「薄焼き卵を巻くだけでできますよ」
「巻く!?」
「はい、箸でくるくるって。半熟状態で巻かないとくっつかないですけど」
「……くずれちまわねぇか?」
「崩れたらまとめて濡れ布巾に包んどけばなんとかなりますよ。半熟だったら」
「これ、これなんですか!? すごくおいしいです!」
「そうですか? コロッケですけど」

 チチさんと卵焼きについて話していたら、悟飯さんが勢いよく身を乗り出してコロッケを指差した。
 そっかそっか、コロッケはおいしかったか~。
 チチさんのおいしい料理で育った悟飯さんに言われるとすっごいにやけてしまう。

 けど卵焼きもコロッケも知らないってのはちょっとショックだ。
 やっぱり日本食、ないのかなあ……。

「悟飯さん、ソースかけて食べたほうがおいしいですよ」

 さも当たり前のようにトランクスさんが瓶を悟飯さんの前に寄せる。
「へえー」と悟飯さんはソースつけて食べて目を丸くしていた。
 ぱちぱちと目を瞬く様子はとてもかわいい。トーガみたいだ。
 ニヤニヤを抑えきれないままお弁当に箸を伸ばすと、トランクスさんの皿が目に入る。
 結構減ってるや。ちょちょっとよそっておこう。

「ポテトサラダは普通だな。でもこれ肉?」
「マヨネーズつけるとおいしいですよ」

 私が言う前にトランクスさんが答える。
 なんかうれしそうに話してるけど、あれかな。
 自分が美味しいと思ってるもの勧めたいんだろうか。
 確かにあなたの好物を多く詰めましたけどね。

 気になっていたちまきを食べてみることにした。
 ……卵入ってる! この茶色いのなんだろう。
 食べた事ないのも入ってるような……でもうまい……。
 これ、双子も好きかもしれん。

「このちまき、すっごくおいしいです。どうやって作るんですか?」
「ん? ちまきはな……」

 教えてもらった具材には聞き慣れない単語もあった。
 ナツメは前世でも食べた事ない。
 そして材料が多い。
 もち米も持ってない。平和になったら手に入るようになるんだろうか……道のりが遠そう。

 ――その後和やかに食事は進んだ。
 でも何度目だったかな。
 盛りつけられた皿を置こうとした時、クリリンさんが言った。

「なあトランクス……いくら助けたからってな? そうやって給仕させてるのもどうかと思うぞ。自分でとったらどうだ?」

 言われてはたと気がつく。

 私の手にある、おかずが山盛りになった皿。
 それはトランクスさんために取り分けたものである。
 ほぼ無意識。
 いつも通り、当たり前の動作。
 癖になっていたようだ。

 ――恥ずかしい。
 なんかめちゃくちゃ恥ずかしい。

 ぎぎぎと首を左に動かすと、隣にいるトランクスさんは少しの間だまり、いきなり顔を赤く染めた。

「す、すいません……自分で、できますから」

 箸を持った手で口元を隠しながら、トランクスさんは受け取った皿のものを食べだした。

 ……本当……? 自分でできる……?
 心配というよりも疑いの気持ちを抱きつつ、自分の食事を再開すると。

「トランクスさ、焼豚ばっかり食べねえでくれ」
「え? あっすいません」

 視線を正面に戻すとクリリンさんと目が合った。

「あの、卵焼きひとつ貰えますか……?」
「は、はい……」

 チチさんに注意され、悟飯さんにまで……。

 やっぱ無理じゃない?

 またクリリンさんと目が合った。
 クリリンさんは渋い顔をしている。
 私は首を左右にゆっくり振った。

「好きなのしか取って食べないんです」
「え? なんですか?」

 いきなり話し始めたので隣のトランクスさんが反応してしまった。
 お前の事だよ。

 皿の上には焼豚と照焼きと卵焼きとポテトサラダが乗っている。
 クリリンさんに注意されてからそれらは固定化された。
 そうだろうなと思ってたけどさ。

 クリリンさんの口が開いた。

「子供か!!」

 言われた本人は頭に疑問詞が浮かんでいるような有様で、きょろきょろしてた。
 わかってないんだよね。

 トランクスさんは基本的に自分の領土にあるものしか食べない。
 目の前に出されたものはきっちり食べるので、嫌いなものはないんだろうけど、取って食べるっていう事ができない。
 選択肢があればあるほど迷う。
 少しずつ食べたらいいと助言したこともあったけど、全種類少しずつ食べた上で好きなものを延々と食べる。
 好きな物以外に二回目はない。
 全種類少しずつ食べた頃に満腹になるのが理想だが、もう省エネじゃなくなったから双子より食べる。

 そして双子も好きなものしか食べない。
 三人のサイヤ人ハーフは肉を好み、次いで炭水化物を多く食べる。
 果物と生野菜は食べない。切って出せば即食えるのに。
 強制的に盛り付けることによって栄養のバランスをとっています。私が!

 もう慣れたからわずらわしさを感じる事はないけど、この人大丈夫かなとは思っている。
 ただ、直してやる義理もないし、居候にそんな事いわれても嫌がられるだろうからそのまま放置だ。
 将来お嫁さんにでも矯正してもらえばいいんじゃないかな。

「お前……」
「これ美味しいですよ! 炒め物。食べてみてください!」
「は、はい」

 悟飯さんが私とトランクスさんに向かって、青菜の炒め物を勧めてくる。
 それを頂いて咀嚼する。確かにこれもおいしい。

 それっきりクリリンさんは黙ってしまった。
 なにか言いたそうにずっとこっちを見ているが、止まるぐらいなら言わないで欲しかった。
 続きが気になるじゃん。

 お腹が落ち着いたのでお茶を啜っているとすぐ近くから声が聞こえた。

「なあ、俺のぶん……寄せてる? よな?」

 ヤムチャさんが後ろを振り返りながら言う。その言葉に皆で一斉に残ったお弁当を見た。

「あー……っと」
「……ほぼ残ってねえだ」

 クリリンさんは口ごもり、チチさんは淡々と答えた。

 ……かけらだけかな。
 無言になってしまったヤムチャさんに、クリリンさんは誤魔化すように笑う。

「すんません。忘れてました。見た目は変わってるけどうまかったすよ」
「んだな。残念だったなあ卵焼き食べれねくて」
「聞きたいのは感想じゃないんだけどな!」
「す、すいません」

 クリリンさんとチチさんはあっけらかんとしたふうに言うのに対して、トランクスさんと悟飯さんがそろって謝るというそのやり取りが面白くて笑ってしまいそうだった。

 昼食を終えるとゆったりとした時間が流れる。
 まだ亀ハウスに着きそうもないからか、トランクスさんはクリリンさんやヤムチャさんと細かい情報の擦り合わせをし始めた。
 となると私は片づけをしながら悟飯さん親子と話すのが自然な流れになり、お願いしたとおり地球のことを教えてもらうことになった。――が。

「――地球は43のエリアに分けられていているんです。えーと、ここが〈中の都〉で、王様が住んでます」

 悟飯さんが指をさした地図を見て驚いた。

 まず前世で言う日本、アメリカ、中国などの国家はない。
 地球全体を一国家としているらしい。
 そして〈中の都〉と呼ばれる中心部からそれぞれの方角に5つ大きな都があり、〈西の都〉はその一つ。

 人口、少なそうと感じました。
 だって都少なくね?
 43にエリア分けされてるのにたったの5つしか都がないってどういうことよ。

 いや、待てよ? それくらいしかないってことは言葉はどこでも通じるのかな?
 ……あれ? この世界の地球って皆同じ言葉を話しているような……。

 原作を思い返していると、悟飯さんが少しだけ笑いを含んだような顔で告げた。

「しゃべる言葉は一緒ですけど、文字が違います。南のほうでは漢字を使いますけど、地球語としては英語が主流なんじゃないかなあ」
「じゃあ読めなかったりするんじゃないですか?」
「馬鹿言うでねえ! 悟飯ちゃんはどっちも書けるし読めるだ! ちゃーんと勉強してるからなっ!」

 チチさんは鼻息荒くしながら両手を腰に当てて胸を張った。

 さすが熱心な教育ママなだけある。どっちもできてるってすごいな。

 感心しながら悟飯さんとチチさんと話していると、いきなりブルマさんの声がスピーカー越しに聞こえた。


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