第二部 人造人間編
第二章 過去へ
71 手
ふと目を開けると知らない天井だった。
あー。
そういえば亀ハウスにいたんだった。
昨日勉強した後に一階で寝ようとしたら止められた。
女の子なんだから上で寝なさい、とチチさんに半ば無理やり二階の部屋に連れ込まれたのだ。
まさか孫一家と同じ部屋で寝る事になろうとは。
全く想像もつかない事態でよく眠れな……うそだ。熟睡した。
なので寝る前にやればいいかーなんて軽く考えていた声の調整はできずじまい。
いままで毎日欠かさずやってたのに!
のっそりと起き上がり眼鏡をかける。時計を見ると針は5時を指していた。
みんなの気配は無い。
戻ってきていないのか出かけていったのか、そもそも寝ているのか。
――今がチャンスなのでは? こっそり外に出ようかしら。
着替えて窓からそろっと外に出る。
そして上がれるところまで上がってからコートを羽織る。
周囲に知ってる気配がないことを確認した後、大きく息を吸った。
声は出さないとすぐに歌えなくなる。
とっさに歌えるように何度も音をなぞり、ズレたら調整していく。
終えたあと一息ついてから、もう一度周りの気配を探った。
ピッコロさんは西の方にいるみたいだ……動き回っている。
ベジータさんの気配もわかった。起きているようだ。
近くにトランクスさんの気配もある。
……昨日出て行ってからほぼ動いてないけど、大丈夫なんだろうか?
まあ生きてればいっか。
うーん、と伸びをすると冷たい風が頭を掠めていく。
首を回せばごきっと音が鳴った。
――うーん。せっかく過去に来たんだから、ここらで景気づけに歌うか?
あの有名な歌、恐竜に玉乗りを仕込みたい名曲を。
前世の曲なら〈壁〉も出ないただの歌だし、誰も聞いてない。
むしろ今歌わずにいつ歌うんだ。
私は軽く咳ばらいをした後、空に向かって歌った。
それはもう気持ちよくノリノリで声を出した。
余韻の音が溶けていったあと、やり切った達成感のまま、こっそり部屋に戻った。
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「卵焼きというのか。……チャオズに食べさせてやりたい。喜びそうだ」
天津飯さんが箸でそれをつまんだ。
今日の卵焼きは黄色い。
冷蔵庫の隅にあった鶏の卵で作ったからだ。
未来の食材はなるべく温存しておきたい。できることならご相伴に預かりたい下心を隠しながら甘いのと出汁巻きの二種類作った。
その卵焼きを含んだ朝ごはんを皆で食べ、ピッコロさんだけは水飲みながらテレビ見ている。
「天津飯なら簡単なんじゃねーか? 器用だし」
「卵をフライパンでな、くるくる巻けばできるだよ。火加減が難しいな」
「オムレツとも違うしな……俺は甘くないほうがうまいと思うぞ」
クリリンさんは海苔をしょうゆっぽいタレに浸してご飯を巻いて食べているし、チチさんはあら汁の骨をとりながら天津飯さんに答えている。
卵焼きを食べ比べて感想を言っている人はヤムチャさんだ。
「おぬし、体は硬そうだがやっこい物作るのうまいのう」
それは昨日も聞いたよ爺さん。
ぼけたか? イヤミか? ……イヤミだろうな。
「それはそうと買い物にいかねえと食べるもんねえぞ?」
「えっ」
「何人いると思ってんだ」とチチさんは汁碗を傾ける。
冷蔵庫の中も空っぽだしね……と思いながら焼いた魚の骨をとった。
「はいっ! チチさんが作ってくれるなら春巻きたべたいです」
「あっ! ボクコロッケがいいです」
クリリンさんと悟飯さんが勢いよく挙手したからテーブルが揺れた。
「……その食費は誰が出すんかね?」
髭に魚の皮をつけながら亀仙人が言った。
皆はいっせいにサングラスを見る。
「いやじゃ! お前らすげー食うもん! やだ!」
亀仙人の口から魚のかけらが飛び、語尾で顔をぷいっと背けた。
「地球の危機なんです! 食べないと力でないし!」
飛んでくるものを浴びたクリリンさんは慣れたように師匠を説得し、そのほかの門下生たちは飯を頬張りながら喋っている。
「トランクスがいればブルマに請求できたのに。サーヤだけじゃ駄目かな」
「下種な考えだ」
横で何事もないように皆さんご飯を食べているが……これが普通なんだろうか……。
亀仙人はいやいやと左右に首を振るばかりで、中々承諾して貰えなかったからかクリリンさんは動いた。
敷いてあったラグを寄せ、ソファーの下にそれは隠れていた。
白い封筒だった。
取り出したそれを高々と掲げるとおもむろに中を改める。
「あっやめろー! わしのヘソクリー!」
「……先週勝ったレースの分だ。隠そうたってそうはいきませんよ」
「弟子の癖に師匠からふんだくるとはなんという奴! 鬼ー!!」
ちっちっと舌を鳴らしながら金を数える様はさながら借金取りのようだ。
そういえばクリリンさんはここに住んでいるんだっけか。ならばれるよな……。
我関せず、と魚を食べていたら、ピッコロさんが立ち上がった。
「おい! 出たぞ! さっさと食ってしまえ!」
「お、おうっ!」
いってらっしゃーいと慌ただしく出て行くみんなを見送りながら、残った私たちはゆっくりご飯を食べた。
+ + + + + + + + + +
「なにかあったらすぐに帰ってくるだよ? ほら、買い物のメモ」
「はい」
悟飯さんはメモを確認するとポケットに入れた。そしてそのまま挨拶をして家を出る。
買い物には残った悟飯さんと私が行くことになった。
チチさんは悟空さんを看ているので離れられないし、亀仙人は拗ねた様に無言だった。
しっかりメモにビールと書き足していったが。
私一人で行きましょうか?と提案したがそれは一蹴された。
文字も読めないし、お金の価値もわからないことを遠まわしかつオブラートに包みながら悟飯さんに言われ、こっちが逆に謝ることになった。
こんなこと昔にもあったな。
あの時はもっと直接的でイヤミったらしかったけど、緑頭の彼は今どうしているだろうか。
そんな彼とは正反対の少年と空へ駆け出す。
「こっちです」
言われたとおりに空を飛ぶと、近くに町があった。でもお店は閉まっているみたい。
都の大きい店じゃないと開いてないかもしれないというので、近くの〈南の都〉まで足を延ばすことになった。
〈南の都〉は〈西の都〉と違って四角い住居が多い。南国のような建築物も交じってて異国情緒あふれる都市なのだが……。
人がいない。
歩いている人間は皆無。たまに走ってる人がいるけど、すぐに建物に入ってしまう。
建物の中には気配がたくさんあったが、生きてるんか?ってレベルで動かない。
横一列とか、囲み気味に並んでるからテレビでも見てるのかも。
ここ数日報道されている怪事件、セルのせいでみんな家に引きこもるようになったってことかな。
「このお店はやってますね。入ってみましょう」
悟飯さんが指をさした先はスーパーみたいなお店だ。
自動ドアでこそなかったが配列はまさにスーパー。
荷台を借りて最後に会計するところも一緒で懐かしい。
悟飯さんはさくさくと進み、メモを見ながら荷台にぽいぽい品物を入れていく。
その歩みと手さばきに迷いは一切ない。
私といえばきょろきょろとあたりを見回して、うわーうわーと驚いているだけだった。
野菜や肉といった原料は見ただけでわかるが、調味料などの加工品は英語が読めないから何がなんだか……。おまけに筆記体とかちょっとおしゃれな崩し文字だと判別もつかない。
通りがかりに肉のコーナーがあって、豚の顔と目が合った。
フツーに食材として吊るされている。
前世だったら顔を背けたと思うのに、今はどこを削げばどれくらい肉が取れるかって考えてしまう……。
そしておいしそう。
メンタル強くなったな自分……。
なんだか前世のほうが女の子らしかったような気がするのだが、気のせいだろうか。
「ヘソクリを貸してもらってもいいですか?」
「あ、はい」
クリリンさんが無理やり私の〈かばん〉に突っ込んで行った封筒を渡す。
お会計をしているところなのだが……ちょっと心配だ。
品数が多いから。籠にこんもりと山を築いているのだが、ヘソクリで足りるんだろうか?
足りなかったら戻そう。
悟飯さんはじっと待ちつつ時折振り向いてにこっと笑う。
つられて笑い返すが、一体なんだろう。
欲しいものでも買えたとか?
「坊ちゃんたち、これ全部持って帰れるのかい? ……配達はしてないよ」
「はい! 大丈夫です」
不審だろうなあ。
籠6つにてんこ盛りの商品をもって帰るなんて子供二人では不可能だ。
私は一つ持てるか微妙なところだ。飲料入ってなければいけるけど……。
そういえば亀仙人から頼まれたビールは年齢確認なしで買えた。大らかな都だ。
中身をひとつずつ入れると惨事になるからと紙袋に分けて入れているとき、店員のそばのラジオの音が変わった。
――雑音交じりの声はかなり焦っているように聞こえる。
悟飯さんは場所を聞くなり顔を険しく変えた。
「まずいですよ、そう遠くない!」
セルは転々と場所を変える。
まるで蟻の巣に鼻を突っ込むアリクイのように、人だけ吸い取って去るようなのだ。
ホラー映画じゃん。体験なんてもってのほかだ。
焦った私たちは籠ごと〈かばん〉に詰め込んだ。
そんな私たちをよそに店主は店を閉めようとしている。
「手! 貸して!」
「えっ」
勢いのまま悟飯さんの手を取ったものの、皮が厚くごつごつしている手にちょっと驚く。
違う違う。亀仙人の気配を探さないと。
すぐに察知できた気配を逃すまいと集中し、瞬間移動した。
「おお! 帰ってきたか!」
「心配したべ! 近くの都がテレビに映ったからー!」
チチさんが駆け寄り悟飯さんを抱きしめた。
ほっと息を吐いてテレビを見ると、確かに〈南の都〉がテレビに映っていた。
あー怖い。さっさと逃げてきてよかった。
全く、迂闊に外も歩けな……ん?
――手が痛い……?
見ればとっさに掴んだ手――左手を握り返している悟飯さんの手が目に入る。
それが原因だと認識した瞬間、声が出た。
「いたい!」
私の手をつかんでいたものから力が抜ける。
緩んだ隙に引き抜き、手のひらを見ると赤くなってた。
……なんて力だ……!!
私は渋い顔をしながら悟飯さんを睨んだ。
悟飯さんは狼狽え自分の手と私を交互に見、その後ろではチチさんがぱちくりと目を瞬いている。
「ご、ごっごめんなさい!」
「……いえ、いいんですよ……次から気をつけてくれれば……今回は咄嗟だったし」
そう返せば悟飯さんはうつむいて再度謝った。
……本当に気をつけていただかないと次はぐしゃっといってしまいそう。
だって岩山を作る人だぞ? このままだと戦ってもいないのにソタ豆を食べる事になってしまう。
次からは手じゃなくて肩とかにしよう。
〈かばん〉をじんじんする手でこじ開け、中の籠を出そうとすると、ひょいっと持ち上げられた。
チチさんだ。
この人も一般人とは違い結構力がある。
チチさんはさっさと籠ごと品物を台所に運んでいった。
最後にビールが入っている籠を出そうとしたとき、想定内に重かったため持ち上げられなかった。なので〈かばん〉を逆さにしようとしたところチチさんに取り出された。
「……気になってたんだけどよ。空も飛べるし瞬間移動もできるけど、サーヤってもしかして鍛えてねえのか? 鍋も振れねえし、これも持てねえんだろ?」
「えっ!?」
なんでそこで驚くんだ悟飯さん。
空飛べれば鍛えてると思ったのか? それは人種によるんだぞ?
セーリヤ人はあなた方のように体をいじめなくても空飛べるわ。
「まあ、はねっかえり娘と違って筋肉ないしな。普通の女の子のようじゃから悟飯、おぬしちゃんと手加減せにゃこの子の骨折れるぞ」
「いいっ!?」
折れるどころじゃすまないよ。
砕けるよ。
下手すれば死ぬよ。
「まだ、痛いですか……?」
もう痛くはないんだけど、不安げに聞いてくるその顔にちょっとした出来心がわいた私はこくりと頷いた。
するとたちまち顔が歪む。
籠の中に入っていたビールの缶を抱える亀仙人は、右手に持った缶の尻で私を指し示した。
「いい機会じゃ。仙豆もあるようだしお前さんちょっと悟飯のために犠牲になれ」
は? 犠牲?
「なーに簡単なことじゃ。悟飯が手を握ったり腕つかんだり引っ張ったり抱っこしたりすればよい。力加減を覚えるまで」
亀仙人は髭を動かし笑った。
「な! そんな破廉恥な事させられるわけねーべ!」
「覚えねば他のやつの骨を折るぞ? 前から気になってはおったんじゃが、悟飯はお前さんを基準にして加減をしておるようじゃ。普通の友達でもいれば違ったんだろうが生憎いないようだし、昔の悟空と一緒で一般人向けの力加減ができておらん。そのままにしておけば社会に出た時苦労するのは目に見えておる」
一度は怒ったチチさんだが、亀仙人が言い終わるころにはすっかり黙り込んでしまった。
亀仙人は冷蔵庫に向かい、帰ってくるときジャム瓶みたいなものを持ってきた。
「ほれ」と放られた瓶を慌ててキャッチする。
「開けてみい」
「は、はあ」
言われたとおりに蓋をひねる。――空かない。
力をこめてもビクともしない。
「ふつうの女子はこんなもんじゃ。悟飯開けろ」
「はい」
悟飯さんは渡した瓶を指先でいとも簡単に開けてしまった。
……茶番だ。
私には戦闘力皆無だって言ったじゃないか!
こんなものも開けられないのみたいな驚愕の目で見ないで、悟飯さん!
「悟飯は普通に手を握ったんじゃろ?」
「か、軽く握ったつもりでした……」
ひいいいいいい!
軽くであんなに痛いの? 折れる! 砕ける!
チチさんはすっごく眉を寄せながら籠を抱え台所に歩いていった。
「……しょうがねえな……悟飯ちゃんの将来のためだべ」
「いやいやいや! 破廉恥ですって! 止めてくださいよ! むりむりむり!」
「だいじょぶだいじょぶ、折れても仙豆食えばなおる」
なんて恐ろしい人たちなんだ。か弱い女の子を捕まえてむちゃくちゃだ!
私は頭を振り拒否した。
その時、窓から首を伸ばしてこちらを見ている亀と目が合った。
「亀さん! 亀さんにやらせなよ!」
首をにょきっと出していた亀は、悲鳴をあげて甲羅に引っ込む。
亀仙人は返された瓶を持て遊びながらあきれたように言い放った。
「亀は亀じゃん。人間相手じゃなきゃ意味なんぞないわ」
やだー!
だって岩山作るひとだよ? 無意識であんなに痛かったんだよ? 腕なんてつかまれたら……。
「もげちゃう!」
「も、もぎませんー!!」
「あーそう。海苔の売ってるところ教えようと思ったのになー」
私は崩れ落ちて床に手を着いた。
「……地球人は横暴だ……」
「おめえ、そんなに海苔好きか」
戻ってきていたチチさんのあきれた声と亀仙人の笑い声が耳について、無性に腹が立った。
「友達ができても好きな子ができても振られるんだろうなー。社会に出ても意図せず暴力沙汰になって解雇かーかわいそうだなー……こんな良い子なのにー未来は暗いなー」
「ひいっ!!」
「なんて酷い脅し……」
それ私全く関係ないのに、すごく罪悪感あおる言い方! チチさんが悲鳴をあげたわ!
悟飯さんは私にすがりつくように肩に手を置き覗き込んで訴えてくる。
「ボク、ちゃんとやりますから! 骨も折らないし砕きませんしもぎません! だから嫌いにならないでくださいー!!」
ちょっと待ってくれ。
そもそも痛くなった時点でアウトなんだよ?
痛いのに好意を持つか?
ありえないだろ。そんな奴はマゾだ。
普通は好感度マイナスになっていくんだからね? 嫌いになりたくなくても嫌いになるんだからね?
それにすぐに覚えてくれなかったら私ずっと痛い思いしなきゃいけないの?
それこそどこかのドMにやらせろ。
海苔と天秤にかけても岩山を見た後だと無理にしか傾かない。
しかし後ろで亀仙人が飄々とのたまった。
「実はこの瓶、海苔の佃煮っていうんだよね。ごはんにかけて食べるとすっげーうまいの。これと、あと海苔が好きなら……ほれ、わかめ。昆布もあるぞ。欲しい?」
……かくして私と悟飯さんは手をつないで過ごす事になった。
悟飯さんとチチさんに頼まれ、断りきれなかったというのもある。
しかし別に悟飯さんのためじゃないんだからね!
どっちかっていうとお前の将来の嫁を案じたのだ! それと海苔とか……。
だって佃煮美味しかったんだ……!
わかめだって塩漬けのいいやつだったし、昆布はとろろ昆布! くれるっていうから!
おまけに米や酒を売っているところを教えて貰った。
東の島国で売っているらしい。
酒は自分でも作ろうと思えば作れるというので作り方を教えて貰ったが、できそうにない。
その他もろもろ教えて貰ってメモしたが、私には買いにいく暇もなければ、字も読めず、通貨も持っていないことに気づいた。
あれっ、損じゃね?
そんなことを思っても、時すでに遅し。
私の手は腱鞘炎とは別の痛みに襲われ、腕をつかまれればそこが赤くなり、常に顔は歪んだ。
「なんだ? 腹でも痛いのか?」
「全く意味がわからん」
「俺に聞くな」
「なぜ手をつなぎながら悲壮な顔している。悟飯、そんな事をしている場合ではないんだぞ」
帰ってきたみんなはこの状態に困惑したようだった。
無理もない。子供二人が手を繋ぎながら泣きそうになっているのはどこから見ても異常だ。
あれから二時間くらい経過したいまでも身体のどこかしらは痛いまま。
痛くなくなっても不意にどこか掴まれれば痛くなるのだ。
引っ張られた服の反動で頭を家にぶつけるし、服はちょっぴり破けるし、散々である。
その度に悟飯さんは謝り倒し、痛いと言うたびに怯えるように震えた。
そのあまりの悲痛さになんだか申し訳なくなってくる。
言うけどね! 私の身体のために!
後ろから「ふぉっふぉっふぉ」という老人の声が聞こえ無性に殴りたくなった。
「痛い?」
「いたい」
「これは?」
「痛い」
「こう」
「いったい!」
「ごめんなさい!」
「うるさいぞ! 静かにしろ!」
テレビを見ていたピッコロさんに怒られ二人で謝る。
ご飯を食べる時とトイレの時はさすがに離れたが、それ以外はほぼどこかをつかまれていた。
今は二人で椅子に座って手を握り合っている。
生まれてはじめて異性と長時間手を握っていても、そこにあるのは痛みだけだ。……む、むなしい。
「ボク、今日中になんとかしますので今日だけ辛抱してください!」
「本当かよ」
思ってた事が口から出たかと思った。ヤムチャさんが代弁したようだ。
そうしてつかの間の休息を取っていた戦士たちはすぐに立ち上がった。
またセルが出たようだ。
大変だな。
けど私のほうがもっと大変だから頑張って自分と励ましていたら、ピッコロさんが怒鳴った。
「悟飯! お前もこい! 人数であたらなければ見つけられん!」
「なにいってるだピッコロ! そんなあぶねぇことさせられねーべ! それに今修行中だっ!」
チチさんがちょうど二階から降りてきたその足でピッコロさんに詰めよる。ピッコロさんはその迫力に引いたものの、こちらを指差し断言した。
「見つけるだけだ! それに手なんか握っているよりも連れまわしているほうがはるかに早く感覚をつかめる! そしてさっさと終わらせろ!」
「えっそれは私も行くように聞こえるんですが」
なにを言っている、と言わんばかりに無い眉が顰められた。
2mの巨体に見下ろされるとそれだけで体がすくむ。
眉毛無いとすごい恐い……トランクスさんなんて比じゃないよ。
「あっ」と声がして、視線を向けるとクリリンさんが私に人差し指を向けていた。
「そういえば瞬間移動できるじゃん? 見つけたら知らせて逃げればいいよ。悟飯つれて。そうすれば絶対生き残るな」
はァ!?
私はスネオのように震えあがりながら驚いた。
「嫌ですよ! セルに殺される前に死んでしまうわ!」
「今日! 今日だけですから! 我慢してください!」
「やだよ!?」
抗議したのだ。
しかし、悲しいかな。平民の声は全く聞き入れてもらえなかった。
抱えられて無理やり連れて行かれたのだ。
拉致だ。
そのうえ辱めを受けた。
まさかのお姫様抱っこをされてしまったのだ……前世でもされたことないのに!
前方を飛んでいたクリリンさんが悟飯さんのところまで後退し、助言してきた。
「悟飯ー、そーっとだぞー? ブルマさんより小さくて弱いんだからなー? ちょっと力入れるとポキッて」
「ブルマは確かに一般人だけどよ、あれで結構力あるぜ?」
「そうでしたっけ。悟飯ー、猫とか犬とかくらいまで力抜けよー!」
「難儀なやつらだ」
ピッコロさん以外がしゃべっているのを聞きながら、私は自分では出せない速度で飛んでいく際に当たる風に耐えていた。
下降するときなんか口から魂でるかと思った。
エレベーターの独特な浮遊感に似たそれを感じた私は、不甲斐無くも酔ったのだ。
それを見ていたらしいピッコロさんは呆れた様に呟いた。
「とんでもなく弱いな」
誰と比べてんの?
皆か? 戦士じゃん。
一緒にしないで欲しい。私は一般市民だ。
反発する気持ちが沸いたが、如何せん私はどうこうできる状態ではなかったため、黙っている事しかできなかった。
