72.友達

第二部 人造人間編

第二章 過去へ

72 友達

 そういえばソタ豆だが。
 なぜか亀仙人が存在を知ってた。
 仙豆あるから犠牲になれって言ったもん。
 言われたことの衝撃が強すぎて流しちゃったけど、その仙豆ってソタ豆のことでしょ?

 私、誰にも言ってないんだけどな……。
 悟飯さんにはソタ豆の星について話したが、効能は教えてない。
 どこから漏れたなんて、トランクスさん以外ないんだよなあ……。
 クリリンさんあたりに喋っちゃって経由したかな。
 問いただしたいがトランクスさん帰ってこないし、ヤムチャさんが疑わし気な視線を寄こしてくるので聞きにも行けない。
 困ったもんだ。

 でも、知られてるならクリリンさんあたりに強請られそうなんだけど、今のところそんな空気もない。
 ってことはまだ周知されてないのかな?
 それならわざわざやぶをつつくこともない。面倒なことにしたくないし。……ひとまず知らんぷりしよっかな。

 というわけで、静観することにした翌日。
 悟飯さんは修業を終えた。

 宣言通り一日で終えたものの、内容はちょっと泣けるくらいしんどかった。
 腕とか手とかを掴まれ、引っ張られ、移動するときにホールドされた脇は赤ーく跡がついたし、じんじん痛かった。
 その都度こっそりソタ豆を食べ、最初に戻る。
 ……実につらい修行だった。

 特に疲れたのはセルを探しに行ったときだ。
 修業期間を短縮するために長いこと連れまわされた。
 その甲斐はあった。――んだと思いこまなければやってられない。
 お姫様抱っこは死ぬほど恥ずかしかった。

 そして次の日、つまり今日。特にやる事もなかった私は釣りをしていた。
 亀ハウスには病に臥せっている悟空さんと看護しているチチさん、テレビをみている亀仙人しかいないため買い物にもいけず、私は食料となる魚をひたすら釣りあげ、亀に勧められるままたまに貝や海老も採っていた。

 ……世間が大変な時にこんなにのんびりしていていいのだろうか。

「サーヤさーん!」

 悟飯さんたちが帰ってきたようだ。
 立ち上がって応えようとした時、釣り糸が引いた。
 ……なんだか重い?
 思いっきり足に力を入れて引っ張ったとき、空振りして後ろに倒れそうになった。

「あっと、よいしょ」

 そんな声がすぐ隣から聞こえる。
 糸が切れてしまったと思ったけど、違ったみたいだ。
 その証拠に私の身体を支えながら悟飯さんが魚を釣り上げ、にっこりと笑う。

「大丈夫ですか? あ、痛くないですよね?」
「ありがとうございます、だいじょうぶです」
「よかった」

 悟飯さんは気遣うように笑みを浮かべ、見せるように自分の身長よりも大きい魚を差し出してきた。

「おーおー甲斐甲斐しいなー」

 さくさくと砂を踏み鳴らしてやってきたクリリンさんは、私の腕を指した。

「今日は腕赤くなってないのか?」
「痛くはなくなりましたね」
「よかったなー悟飯」

 悟飯さんは元気よく「はい!」と返事をする。
 クリリンさんは腰に手を当て、悟飯さんを上から覗き込んだ。

「本当に一日で覚えられたのか?」
「もう大丈夫ですよ!」

 そういうことは思っても言わないでほしい。
 まだだったらまた痛くなるじゃないか。
 それはごめんこうむりたい。

 拳を作って訴える悟飯さんには悪いが、後は平和になってからがんばってくれ。
 海苔の分は十分に働いたと思うんだ。

「ふーん。じゃあちょっとサーヤちゃん抱っこしてみろよ」

 えっ。

「そんな嫌そうな顔すんなって。もう大丈夫なんだろ? ならいいじゃんか」
「もちろんです!」

 悟飯さんはすぐに後ろに回って、私はひょいっと抱き上げられた。
 昨日抱っこされまくったからか特に違和感もなく、されるがままの私。
 ちょっと私の背が大きいので悟飯さんの上頭部を見ることになるのも、こちらに顔を向けて確認してくるのも、また慣れた景色だった。
 ただ昨日と違うのは締め付けられるような圧迫感が緩和されているということだ。

「痛い?」
「いいえ?」
「じゃあ次俺の番ー」

 はい、と両手を広げるクリリンさんに疑問を抱く。

 なぜ私があなたに抱っこされねばならんのだ。
 一歩後ろに下がった私を、にこっと笑ったクリリンさんが抱え込んだ。
 おっ悟飯さんより腕が太い。……当たり前か。

「なんか違う?」

 そうたずねてくる禿ハゲに思ったまま答えた。

「……安心感?」

「ぶっは!」とクリリンさんは噴出した。そのまま笑いつつ私をおろす。

 ちょっと、つば飛んだんですけど。
 なんだよもう。

「がんばれ悟飯」

 クリリンさんはひらひらと手を振りながら去っていく。

 まじでなんだったの?
 そんで、これ以上なにをがんばれと。

 悟飯さんを見ると口をへの字にして、拗ねているような顔をしていた。

 ……ほんとに何だったんだ?

 視線を移してもクリリンさんの後ろ姿が小さくなっただけで、こちらを見ようとしない。
 私は放られた釣竿を手に取りつつ、首を傾げた。

「――ボクのこと、嫌になりました?」

 釣りを再開したとき、隣にやってきた悟飯さんがそう聞いた。
 私はたぶん、面食らった顔をしていると思う。

「……力加減もできなくて、痛くさせてばっかりで……」

 ――まあ。痛かったけど。
 うん、と喉まで出かかった言葉は、唇を真一文字にして水面を見る悟飯さんを見て飲み込んだ。

「今は痛くないですし、嫌いにはならないですよ」
「本当?」
「ええ、悟飯さんはちゃんと一日で覚えたじゃないですか。すごいと思います」
「そんなの……当たり前じゃないですか……」
「そうかなあ」

 それっきり悟飯さんは無言でうつむいた。
 ……空気が重い。

 気まずいなー、早くテレビにセル映らないかな。

 不謹慎な事を思いながら魚を釣った。
 小さい魚を何匹か釣った後、強い力で釣竿がしなる。
 さっきより大物が食いついたみたいだ。

「あっ!」

 竿を引くタイミングが合わず、容易く糸が切れた。
 勢いに負けた私はしりもちをつく。

 ……あーあ。逃げられた。

 がっかりして横を見ると、隣にいたはずの悟飯さんがいなくなっている。
 きょろきょろとあたりを見回してもいない。
 あれ?と思ったその後に、ばしゃーんと一際大きい水音がして水が降ってくる。
 一瞬で全身びしょ濡れになってしまった……。

「は? ……ん?」

 目の前には巨大な魚――ヒラメ?のような魚を掲げながら飛ぶ悟飯さんがいた。

 えっ! 獲ってくれたの!? や、優しい~!!

 魚は逃げようと身体を動かすが、悟飯さんが押さえ込んでいるためにヒレだけビチビチいってる。
 とてもじゃないが私では受け取れない大きさだ。

「すごい! こんな大きな魚、私じゃ――」

 獲れなかった、と続けることはできなかった。
 まっすぐ、見つめられた気がしたからだ。

「もう二度と力加減を間違えたりしません!」

 ――はあ。
 真面目な顔で、何を言い出すのかと思った。

「なので! ボクと友達になってください!」

 水滴がついて見えにくくなった眼鏡のまま、私は目を見開いた。

 ……友達? 私が?

 一番最初に胸に浮かんだ感情は『嬉しい』だった。
 面と向かってそんなことを言われたことなんてない。
 それを悟飯さんに言われるだなんて――。

『もちろん』

 そう答えようとして、口は開いた。
 でも、頭の中にチチさんの顔が浮かぶ。

『おめえが来なかったら悟空さ病気で死んでたんだもんな! おらすっげえ感謝してるだよ!』

 唇は、『も』の形を作ったまま動かなくなってしまった。

「駄目ですか? 恐いですか?」

 水に濡れながら真摯に訴えてくる悟飯さんに、私は返事ができなかった。

 駄目じゃない。
 そりゃあ恐いけど、ちゃんと気遣ってくれるじゃないか。

 そう思うのに、口はその思いを紡いではくれなかった。
 ――当たり前だ。
 私はあなたの父親を見殺しにするつもりできた。死ななければならないとさえ思っている。

 そればかりではない。
 セルが動き始めた時私はなんと思った?
 目的以外どうなってもいいと思わなかったか。

 どうせ、自分の未来へはつながっていないのだからと。

 トランクスさんとブルマさん以外はどうでもいいというのは、言い換えれば二人以外は死んでも構わないと言っているのと同じだ。
 陸に上がったヒラメがびちびち跳ねて、そのうち動かなくなるのを呆然と見ている今みたいに。

 人が死ぬのをわかっていて見捨てる女だぞ?
 死んでも構わないと、思っていた女だぞ。

 そんな私が悟飯さんと友達?

 ―――そんな資格、あるわけがない。

 水しぶきを浴びたせいか、言われた事への罪悪感からか、身体は冷えていく。

「無理、です。……未来に帰るので、友達にはなれません。ごめんなさい」

 まるで氷のような冷たさで拒絶の言葉を吐いた。

 水滴が眼鏡を伝って頬に流れる。
 ぼやけた眼鏡はなにも映さなくなってたけど、それでよかった。
 悟飯さんの姿なんて今は見たくなかった。

 でも、無駄に聞こえる耳に息を飲んだ音が入ってくる。
 ぱちゃんと水がはねる音と、かすかなテレビの音だけが私たちの周りを包んだ。

「悟飯、行くぞ」

 いつの間にか近くに来ていたピッコロさんの声に、俯いていた顔を上げる。
 悟飯さんの気配は、足早に向こうへと去っていく。
 私は声をかけることも見送ることもなく、眼鏡をとった。

「友達ぐらいなってやれば良いものを」

 軽く拭いても水は完全には取り除けない。
 小さい水滴が残ったまま、眼鏡をかけて見上げてみる。
 見下ろすピッコロさんの目元が寂しげにみえるのは気のせいだろうか。

「……すみません」

 それしか言えない。
 お辞儀をしてヒラメの解体に着手すると、舌打ちのような音が背後で聞こえた。
 ピッコロさんの気配が去っていくのを感じながら、包丁を魚の身に入れる。

 ―――こんな事になるとは思っていなかった。

 浮かれすぎたんだ。
 会いたい人たちに会えたから。

「……馬鹿だなあ……」

 身を削げば、血液が漏れ出て服を汚す。
 構わず包丁を突き立てて、力を込めた。

「本っ当、馬鹿だ……」

 手は、情けなく震えていた。


    Thank you for clapping!


    拍手ありがとうございます! 励みになります……!

    お礼ページは下のリンクよりお進みください。(DB最新話までのネタバレあります)

    拍手お礼



     選択式感想

     お名前

     メッセージ → 返事

    第二部 人造人間編 第二章 過去へ