第二部 人造人間編
第二章 過去へ
75 夫より息子
鍋でささっと作ったわた焼きは見た目が最悪で、帰って来た皆はやっぱりドン引きした。
誰も食べようとしなかった。
ピッコロさんだけは無表情だったが、きっとそういう物を食べないからだろう。
「武天老師さまが作れっていったんでしょ!」
「ぐおっ! ぐむ!」
無理やり口につめてやったら白ひげの爺さんは口元を押さえて呻いた。
そして何度かひげをもごもごと動かすと勿体つけるように呟く。
「……まずくはない」
その一言で皆さんが恐る恐る口にわた焼きを放り込む中、武天老師さまは後ろに下がり一升瓶を持ってきた。
米酒のようだ。
ほんのりと頬を赤くしてわた焼きを口に入れ、酒を呷って「くーっ!」と言う様は前世で言うところののん兵衛爺さんそのものである。
「あ、無理」といって口を押さえたのはヤムチャさんで、一番反応がよかったのはまさかの天津飯さんだった。
「白酒に合いそうだ」
実は酒豪だったらしい。
ビール派ではなく白酒と呼ばれる強い酒を嗜む様で、笑う三つ目様は確かに酒飲みの顔だった。
からっと揚がったイカリングに箸を伸ばしたヤムチャさんは、そのまま箸で天津飯さんを指す。
「こいつ、自分で酒作ってるんだぜ」
「……買うほうが高いからな。これはどうやって作るんだ?」
「イカをわたと一緒に焼くだけです。煮てもいいし。キャベツと一緒だとなおおいしいですね」
「ほう……やってみよう」
教えてあげたら簡単だったからか早速自分で作って確認していた……。行動力がある人だな。
そのほかに芋との煮物作ったら肝があまったので、酒もあることだしと塩辛を作る。
ここぞとばかりに作って保存瓶に詰めて冷蔵庫にいれた。
ある程度時間経過しないと美味しくならないから、明日〈かばん〉に入れよう。
夕方の早い時間から私とチチさんは晩御飯の支度を始め、帰って来た戦士たちに焼き物をさせつつお弁当をつくり、ようやくすべて完成したころには夕方になっていた。
汁物が入った鍋や食器類を〈かばん〉にしまい終えたとき、チチさんが天高く積み上げられている重箱を持ち上げて言った。
「サーヤ! 弁当忘れるでねえだ!」
「あ! そうですね!」
私は差し出してきた重箱ではなく、チチさんの腕を掴み、瞬間移動した。
行き先は決まってる。神さまのところだ。
いきなり景色が変わり驚いているチチの横でさくさくっと物を取り出し、私はさっさと瞬間移動で帰った。
せっかく悟空さんが回復したんだ。できるなら家族で過ごしたほうがいいもんね。
……完全なる自己満足なんですけど。
帰ったらみんなまたいなくなってたので、ご飯食べて片づけして勉強してその日は終わった。何事も無く。
――問題は次の日だった。
朝起きたらまだ皆帰ってきてなかったので大変だなあと思いつつ、いなくてラッキーと嬉々として歌の練習してきた。
それからだ。
朝ごはんの為にチチさんを迎えに行こうと瞬間移動したのですよ。
……うん。
大変間が悪かったようです。
着いたら二人の顔がくっついてらっしゃった。
大事なことなのではっきり言おう。
キスしてた。
孫家夫婦のキスシーンである。
ついガン見してしまった。
悟空さんってちゅうするんだね。
イメージ無かったから思わず見てしまった。
なんていうの? 感覚としては映画を見ている気分。
そういうシーン洋画では結構あるよね。
でもその場合たいてい濡れ場に続くんだけど、そうなったら声をかけようか。
流石にそれを覗き見る趣味はない。
しかし……長いなー……あ。
悟空さんの手がお尻に移動した。
声をかけようとしたら、別のところからあくびが聞こえた。
「ふぁ……サーヤさん? はやいですね」
「……おはようございます」
悟飯さんの声がしたので挨拶をすると、二人は飛び上がらんばかりに驚きすぐさま離れた。
「い、いつからいたんだ? 気づかなかったぞーあはは」
「こ、声ぐらいかけろ! 驚いたでねぇか!」
笑いながら頭をかく悟空さんと恥ずかしいようでそっぽを向くチチさん。
――実に良い。
私、公式CP好きだったんだ。本命はベジブルなんだけど。
自然とにやけ顔になりそうになるのを抑える。
「仲がいいことはいい事です。安心しました」
この調子ならもう一人なんてきっとすぐできるはず。
悟空さんにはぜひともがんばっていただきたい。
むしろ励んでいただかなければ困るんだがな……!
漫画で主にブウ編で活躍した悟空さんと同じ髪型をしている子供を思い出しながら頷いた。
「み、見てたのか!? おめえにはまだ早えだ! 覗くでねえ!」
「隠れても無駄だと思ったので待ってたんです。そのまま服に手が」
「わーっ!! わーわー!!」
入る前に声をかけようとしたんですよ?と言いたかったのに遮られてしまった。
チチさんは首から上を熟れたトマトのように赤く染め、わたわたと手を動かす。
首を傾げる悟飯さんと、手で顔を覆い『あちゃー』とでも言いたそうな悟空さんが見えて耐えきれず笑顔になってしまった。実に良い……!
「わっ笑うでねえ! さっさと飯作りに行くぞ!」
ばしっと背中を叩かれ、強い力に「ぐえっ」と呻く。――あまりにも痛かった。
しかし、真っ赤な顔で肩を怒らせているチチさんに何も言えず。
亀ハウスに帰ってきたものの、空気は最悪。
からかったつもりは無かったんだけど、結果的にそうなってしまったようで、朝ごはんを作ってる間チチさんは機嫌が悪かった。
それこそまな板が割れるかと思うくらいダンダンと包丁が打ち付けられて、恐怖を感じた私はそそくさと朝ご飯を抱えて神様の神殿に逃げた。
「むーん。怒るとんぐ、恐ええからんん、チチ。」
がつがつとご飯を口に目一杯入れながらしゃべる悟空さんは、なにを言っているのかさっぱりわからない。
それに比べて悟飯さんは卵焼きを食べ終わった後におずおずと言い出した。
「……ブルマさんのところに行って、また食材を貰ってきたらどうでしょうか。お母さんちまきが好きなので、その材料があれば機嫌なんてすぐに直ると思います」
「んう! 悟飯さすがだなぁ」
「あ、ありがとうございます」
……おかしいな。私は旦那さんに状況の解決策を求めたはずなのに、息子さんから答えをもらってしまった。
ちょっと気まずいじゃないか。
しかし悟飯さんは全く気にしたそぶりもなく、にこっと笑った。
「役に立てるなら嬉しいです」
「……。でも私、材料を知らないんですけど……」
「大丈夫です。ボクお使いで頼まれる事が多いので覚えてます」
パーフェクト。文句の付け所がない……!
いい人過ぎるでしょ。こんな人の友達勧誘断ってしまった!! 胸がずきずきしてくる。
「うちの悟飯、すげーだろ? オラも知らねえチチの好きなもん知ってっかんな!」
……自然と冷めた目で見てしまうのは仕方がない事だ。
あなたもうちょっとチチさん大事にしなさいよ。
旦那さんでしょ。
せめて奥さんの好きなものぐらい覚えておきなさいよ。
だから悟飯さんのほうが大事だって言われるのよ。
本人は全く気にしていないようだけど。
二人が食べ終わるのを待ってから、私はそのままブルマさんのところに瞬間移動した。
「あ!!」
ブルマさんの目の前に着いたら、悲鳴こそあげられなかったけど指をさされた。
「ちょっと! 聞いたわよ! すごい〈かばん〉持ってるらしいじゃない! なんで教えてくれなかったのよ!」
額がくっつきそうなくらいまで顔を寄せられ、ぎん!と目を吊り上げ睨まれた。
ヒエ……美人怖……。
「見せて! 貸して!」
「いや、やです」
「貸せ!」
やだよ!
未来のブルマさんだって渡したヤツ分解しちゃって元に戻せなくなったんだぞ?
このブルマさんだって絶対やる!
だから絶対渡さない!
大体未来のものを渡すわけないでしょうが!
タイムマシンと一緒で見逃してよ!
〈かばん〉を背中に隠し、ブルマさんと攻防しているとのんびりとした声がかかった。
「ブルマー、そのくらいにしてあげたら? そろそろトランクスもミルクの時間じゃない?」
「でも……!」
「でもじゃないよ。それに、こっちのほうが大事、でっしょー?」
ひらひらとなにか四角いものを振るブリーフ博士を見るなり、ブルマさんは離れた。
む、と口をへの字に曲げると「覚えてなさいよ!」と捨て台詞をはき、部屋から出て行った。
悪役か。
ブルマさんのせいでよくわからなかったけど、ここは研究所らしい。
あたりを見回せばさまざまな機械が置いてあり、乱雑に置かれた棚は未来のタイムマシンの部屋にそっくりだ。
「ごめんね。ちょっと好奇心あふれる子だから。お茶でも入れようか」
「あ、大丈夫です! 実はちょっとお願いがあったんですけど……」
この際お父さんでも構わないだろう。
先日と同じように食料を分けてもらえないかとお願いしたら、快く聞いてくれて案内の人も付けてくれた。
喜び勇んで欲しいものをお願いすると全部くれた。
そのほかにも期限が迫っているものがあるというのでいそいそとコンテナに詰め込んでいると、ブルマさんがベビーカー転がしながらやってきた。
「みいつけたあ!!」
「ひいいいい!」
そんなに髪を振り乱しながら来るもんでもない!
がらがらとした音は私の前で止まり、ブルマさんはパアンと正面で手をたたいた。
「ちょっと見せてくれるだけでいいの! 壊さないから! 約束する!」
「そういって未来のあなたは分解しました! 無理です! これには私のすべてが入ってるんです! 壊れたら生きていけないんです!」
そういって伸びてくる手をかわして、〈かばん〉を抱きしめた。
「ちょっとくらい触らせなさいよ!」
「嫌です! そんなに見たいならトランクスさんが持ってますのでそっちにしてください!」
トランクスさんには小さいポシェットをあげたのだ。
大きいのあっても邪魔になるだけだと思ったので、ポケットに入るくらいの大きさのものだ。
それでも収納力はばっちりなので、お弁当やおやつ飲み物や着替え、ソタ豆などもろもろ全部入れてある。まあそうじゃなければ毎日ご飯持っていってるよ。
ブルマさんの手はそのまま腰に落ち着いた。
「そっちだったら分解してもいいの?」
「するんじゃん! したら中身は消え失せちゃいますけど!? トランクスさんに聞いてください! 私のは駄目です絶対!」
「わかった。なら入るところだけでも見せてよ」
さあ入れろとコンテナを指差されたので、しぶしぶ〈かばん〉の口を広げてかぶせる。
そしてペッタンコになったのを確認すると、案内の人と一緒になって「おー」と声を上げていた。
気分は手品師だ。
「中も開いて見せて」
「ブルマさーん! 博士からできたと連絡が!」
「あっ本当? うっ、うーん。……ちょっとアンタも来なさい!」
「えっ私まだ――」
「まあ。まあまあ」
ブルマさんの後ろのほうから女の人が走ってきたかと思ったら、拒否するまもなく案内の人に後ろから押された。
ブルドーザーか!
背中を「まあまあ」と押してくる人たちに逆らえず、私はそのまま工事現場の砂利のようにただ押されていた。
ちまきの材料を貰ったらさっさと帰ればよかった。
欲を出して他の食材に目が行くから逃げ遅れてしまった……あーあ。私って、抜けてるなー……。
ブルドーザーは最初私が瞬間移動で着いた部屋までノンストップで運行した。
着くやいなや案内の人はいなくなり、私はひとりぽつーんと放置されてしまった。
仕方ないので同じく放置されたベビーカーを覗き込むと、そこには若干目つきが悪い天使……どちらかというと子悪魔がいらっしゃった。
「あう」
悪魔を思わせるベビー用の帽子を被っている小さなトランクスさんは、泣きもせずにじっとこちらを見つめている。
「こっ、こんにちは……」
思わず挨拶するが、小さいトランクスさんはそんなことより遊べ!と言わんばかりに手を伸ばして来た。
そのちっこい手を指でつんつん、ふにふにと摘み遊べば、ときゃっきゃっと楽しそうに声を上げる。
やー、かわいいなトランクスさん。
調子に乗って首周りやおなか、足の裏などをくすぐると赤ちゃん特有の柔らかい感触に幼き日の双子を思い出した。
やっぱり赤ちゃんの時は誰しも可愛いものだな。
双子は最近生意気なんだよね……昔はこんな素直な反応してた。
トランクスさんもそうだったんだろうなあー。
未来のトランクスさんとのあれこれを思い出し、過去のトランクスさんを目を細めて眺めた。
……ずっとこのままでいればいいのに……。
おっと本音が。
指を掴んでいる小さな手をそのままに、クイクイと折り曲げながら私はぼそっと呟いた。
「女の子にはやさしくするんだよ? 睨んだり脅したりしたらダメなんだよ? ちゃんと美味しいもの食べるんだよ……」
ここぞとばかりに吹き込んだ。
若干、恨み言のようなものも含まれているが別にいいでしょ。
小さいトランクスさんは返事をするように指をぶんぶん振り回した。
なんと素直でかわいい赤ちゃんであろうか。
……写真とかもらえないかな。
あれよ、外国人の子のポストカード。
飾っとくだけで部屋がおしゃれになるアイテム。
あんな感じになるんじゃない? 一枚欲しい。
そんな邪な考えを抱いていたら背後から大声が聞こえた。
「ちょっとサーヤ! 瞬間移動で送って行ってよ! アンタならすぐでしょ!?」
いきなり話しかけられて心臓飛び出るかと思った。
「ど、どこに? ですか?」
「亀ハウス! いま人造人間と戦ってるんだって!」
「ええっ!」
ちょっと離れていただけで物語が進行してしまっているとは!
「これ! できたから持っていかないと!」と、目の前に出されたのはぱっと見ラジコンのコントローラーのようなもので、私は首を傾げた。
「人造人間の停止用コントローラーよ! クリリンくんに渡さなきゃ。ついでに戦闘服も持って……かあさーん! トランクスお願いー!!」
ブルマさんはがらがらとベビーカーを鳴らして部屋から出て行った。
ああっ嵐と共に癒しが去っていった……。
でもしょげている場合ではない。
闘ってるってことは、セルが来ちゃうってことだ。確かやられちゃって17号吸収されちゃうのよね。
それでベジータさんと戦って、18号も吸収されて完全体になっちゃうと。
うーん。どうしよう。ちまきの材料、チチさんに渡したいんだけどもう少し後でもいいか。
しばし考えてたら腕を掴まれた。
「お待たせ! さ、ちゃちゃっと行くわよ!」
「は、はあ」
まあいいか。なるようになるだろう。
軽く考えてクリリンさんの気を探ると、確かに遠くでピッコロさんの気が大きくなっているのがわかった。
ちがうちがう探すのはクリリンさんだ、クリリンさん。
ブルマさんの手を握ってさくっと瞬間移動すると、出た先は空中だった。
「きゃあああああああ!!」
とっさに両手で掴み空中を飛ぶが、背負ってるならまだしも手だけだから重い!
どこか降りれる場所、と探してるうちに下降してしまう。
「おおっとぉ!! あーあぶなかった」
そこへクリリンさんがブルマさんを抱えてくれたのでホッと胸をなでおろした。
すると安心したのかブルマさんは早速口を開いた。
「ちょっと! 恐かったじゃないの! ちゃんと飛んでよね!」
「いや、さすがに手だけでは私支えられません」
「重いっての!? 信じられない!」
クリリンさんの頭を掴みながらブルマさんが身を乗り出す。
迫力があって恐かったので、ちょっと離れると「逃げんな!」と怒られた。
頭をつかまれているクリリンさんは、皮を引っ張られて大変な顔になっている。
「言い合ってる場合じゃないんだってばー!!」
「そもそもアンタが空飛んでるからこんな目にあったんでしょ! ちゃんと待ってなさいよ!」
「そ、そんなあ。少しでも早く受け取ろうと思ったから来たのに。瞬間移動でくるならそういってくださいよー!」
「お黙り!」
クリリンさんは眉が下がって悲しそうだ。……完全な八つ当たりだもんな。
ふんーと鼻息を荒く吐き出したブルマさんは腰のサイドバックからコントローラーを取り出してクリリンさんに見せた。
「これがコントローラー! 10m以内まで近づかないと効果ないわよ。気をつけなさい!」
「10m……ずいぶん近いすね……」
「それしか作れなかったのよ」とそのままクリリンさんの胸元に突っ込んだ。
そして今度はなにかのケースを取り出して目の前に突き出した。
「あと、前にベジータに頼まれて作った戦闘服。みんなの分も作らせたんだけど」
「それ必要なの悟空たちですよ。今神様の宮殿に行ってるから持ってってやってくれませんか。サーヤちゃんもいるし」
二人の視線を受けて頷いたが、ちょっとここでは無理です。
「いいですけど、地面に降りてくれないと……」
その一言で地上に降りた私たちは飛んでいくクリリンさんを見送った。
一応、送っていきましょうか?と提案したが、「危険だから駄目だ」と却下された。
瞬間移動した先で攻撃されたら巻き込まれて死んじゃうもんね。
ブルマさんの手をつなごうとしたら、嫌そうに一瞥された。
「今度は大丈夫よね? 落ちたりするのは二度とごめんだわ」
「大丈夫だと思いますから、ちょっとだけ静かにしててください」
「うるさいって言いたいの? 生意気ね」
「集中したいんです! しないとわからないんですよ!」
ああいえばこういう! いい歳なんだから落ち着け!
手を掴んで集中してさっさと瞬間移動する。
一瞬だけ目の前が白くなったかと思ったら目の前に悟空さんがいた。
無事に着いたようだ。
「ブルマ! なんでここに?」
「サーヤさん、どうしたんですか?」
目をまん丸に開いた親子はそっくりで、私は無意識に安堵の息を吐いた。
その後ろにはピッコロさんと天津飯さんが佇んでいた。
「クリリン君にきいてきたのよー。あーよかった。ちゃんと地面ある」
「ブルマさんのお供です」
大げさに手を胸に当てる仕草をするブルマさんはこれまた大げさに足踏みした。
だから大丈夫だって言ったじゃないか。
「貴様か」
ん?と思ったときには遅かった。
バシュという音と共に後ろから高密度の気が放たれたのだ。
同時に耳に入ってきたのは悟空さんの焦った声。
「あぶね!」
反応する間も無くその気は霧散し、振り向くと広い背中があった。
見たことのある薄い色の髪の毛が束になって垂れている。
「父さん……なんてことを」
低く唸るように聞こえる声はトランクスさんの声で、広い背中の持ち主に間違いなかった。
「だ、大丈夫ですかサーヤさん!」
悟飯さんが駆け寄ってトランクスさんの隣に壁を作るように立つ。
横からちょこっと頭を出すと、手のひらをこちらに向けたままベジータさんが睨んでいた。
……妻と同じくらい怖い……。
「あぶねえだろ! ベジータ!」
「馬鹿か貴様! こんなところで気弾なんぞ放ちやがって!」
「な、なによ? なんなのよ」
ピッコロさんと悟空さんの怒号が宮殿内に響く。
それにブルマさんのおろおろとした声が伴い、喧騒たる中でベジータさんが一歩前に出た。
「黙りやがれ。平和ボケした地球人共め。トランクス、邪魔だ。……どけ」
「いやです」
トランクスさんは即答すると小さい声で「離れないように」と伝えてきた。
それは離れたら死ぬフラグですか。は、離れないぞ!
私はトランクスさんの背に隠れて様子を伺った。
それに気を悪くしたのか「ちっ」と舌打ちをすると、ベジータさんは眉を寄せて怒鳴った。
「おいそこのガキ、トランクスたちは騙せてもこのベジータ様は騙されんぞ。貴様はナウネ人とかいったがな。そんな星、ありはしない!」
「え!?」
トランクスさん以外が一斉に声を上げた。
ちらりと隣を見れば、悟飯さんが困惑と不安の入り混じったような視線を向けている。
他の人も同様らしい。
けれど中にはまるで刃物のような鋭い視線を向けている人がいて、ざくざくと背中に刺さった。
「ベジータ! 今そんなこと言ってる場合じゃねえだろう!」
「騙してる奴をのさばらせたまま行けるか、大馬鹿者どもが! ……よく聞け」
緊張感が漂う中、私は無意識にデニム生地のジャケットを強く掴む。
「そいつが言ってるナウネという星はな」
ベジータさんは私を指差した後、己に親指を向けた。
「この俺が滅ぼしてやったんだ! 幼いころにな!」
