76.まさかの兎

第二部 人造人間編

第二章 過去へ

76 まさかの兎

 天高い空にそびえたつ神様の神殿。
 その中で立ち尽くす私たちを嘲笑あざわらうかのように冷たい風が柱の間から吹き荒ぶ。
 肌寒さと視線の強さに私は身を縮めた。

「だからありえんのだ! それにそいつは人型だろう! 俺が殺したナウネ人は総じて兎型の獣人だ! そもそもナウネ人のはずがないんだ!」

 断罪する検事のようにベジータさんは言い捨てた。
 私が答えを探して黙っていると、腕をちょいちょいとつつかれた。ブルマさんだった。

「嘘ついてたってわけ?」
「そんな! サーヤさん!」

 見上げてくる悟飯さんは揺れる瞳を私に向けた。
 なんと答えたらいいものか。
 考えている間にも事態は進む。

「言い合っている場合か?」
「しかし、外から来た人間なのだろう? この際はっきりさせておいたほうがいい。目的がドラゴンボールだからな。いままでそれを狙ってきたやつにいいやつがいたか?」
「ピッコロ! サーヤはそんなことしねえ! 意味がねえよ!」

 悟空さんはピッコロさんと言い合い、天津飯さんはため息をつく。
 険悪になってしまった空気に私はごくりと唾を飲み込んだ。

「サーヤは嘘なんてついていません」

 疑惑の目が向けられる中、トランクスさんは私を肯定する言葉を告げた。
 顔こそ見えなかったが思わずきゅんとしてしまいそうになるくらいとても頼もしい。

「ふん、ほだされやがって」

 原作ではファンでしたよ、ベジータさん。
 現実だと真逆になりそうだけどね!

 私は大きく息を吸って吐いた。

「あの、あなたが滅ぼしたのは前のナウネ星では? 今は許可がないと星に下りることができないように壁が張られています。出る事はできても外から勝手に入る事は不可能です」

 ああ、恐い。声が震えそう。

 トランクスさんの上着を掴み、横から顔を出してベジータさんに抗う。
 む、と眉を寄せるベジータさんに向かってさらに説明した。

「ナウネ星では紹介がないと星に降りることもできません。なので必然的に商人しか集まらないんです。その商人も星に下りたとき徹底的に調べられます。種族から目的、積んでいるものまで嘘がつけないように道具を使って問いただされ、認証を貰わないと追い出されます。そして入ってきた宇宙船は星からでるまで役人に管理されます」
「徹底してるわねー」

 ブルマさんが感心したような声を上げる。
 今言ったのは本当のことだ。
 実際されたし、細かいところはラクから聞いた。聞いといてよかった!

「……こいつに一度滅ぼされて復興したというのか」
「そうだと思います。わ、私の両親は星を飛び回っている兎の紹介を受けてナウネ星に入ったみたいで、詳しくは知らないんですけど」

 嘘と真実を混ぜ込むのは容易い。
 問題なのは維持できるかどうかだ。

 ナウネ星のウサギの反応を見れば、サイヤ人にやられたってことはわかってたつもりだけど、ピンポイントでくるとは思ってなかった!

 ベジータさんがナウネを滅ぼしたんだと早くにわかっていたらもっとうまく誤魔化せただろうが、今の状態では無理だ。
 これではサイヤ人だということよりも、ナウネ人ではないとベジータさんに知られれば……ファイナルフラッシュでは??

 ちなみにセーリヤ人でしたって知られるのもダメだ。なんで地球に来たのか説明がつかない。
 セーリヤ人は商人に向かないから商人の子供だという理由がそのままうそになってしまう。
 知らなければいい。しかしナウネ星を知っている王子がセーリヤ星を知らないとは思えない。
 ベジータさんに知られたら、全部話さなきゃいけなくなりそう。
 それは最悪なパターンだ。絶対、未来変る。

「ふん……信じられるか馬鹿が」
「すいません、何度言ってもあんな調子で俺も困っていて……」

 トランクスさんが僅かにこちらに顔を向けて話しかける。
 視線はベジータさんに注がれたままだ。
 ……このままだとらちが明かない。
 私はトランクスさんを壁にして〈かばん〉を開いた。

「俺はサーヤが乗ってきた宇宙船を解析してますので、本当かどうかわかってます。うそなんてついていません」
「えっいいな! 私も見たかった! データ欲しい!」
「持ってくるわけないじゃないですか……」

 傍らで言い合う親子の隣で私は懸命に〈かばん〉をあさった。
 ……アレはどこだ。
 物が多すぎて目的のものははるか彼方に飛んでいってしまっていた。

「あった! コレ、証拠になると思います!」

 ようやく見つけ肩越しにトランクスさんに渡す。
 それはベージュ色に赤茶文字で書かれているカード――ナウネ星のミミナさんから貰ったカードである。
 このカードにはミミナさんの顔がついている。ばっちり兎のナウネ人だ。

「え? なになに? 見せて見せて」
「よめねえ。ピッコローおめえわかる?」
「ナメック星の記述語はナメック語だ。宇宙語は話せても読めん」

 そうなのだ。カードに書かれているのは二つの言語だ。ナウネ語と宇宙語。
 ブルマさんや悟飯さん、悟空さんがカードを覗き込むが読める人はいない。
 読めるのはこの地球上で三人だけだ。ベジータさんと私、そして。

「トランクスさんは読めますよね」
「なに!?」

「なんで読めるの!?」とみんなで声を揃えて驚いていたので、トランクスさんは困ったようにどもった。

「いや、あの……」
「宇宙船を解析したくて覚えちゃったんですよ」

 そう言った後、悟飯さんと天津飯さんと悟空さんがハァ!?って顔になった。
 だよね。信じられないよね。私もですよ。
 まさか教科書渡して三日も経たずに覚えるなんて誰も考えないでしょ。脳性能よすぎ。

「え、えっと。カード読みますね。……ナウネ星のヘタ商会。副代表ミミナって書いてあります。許可証とも書いてますから紹介状もかねてるんですかね。裏には注意書き……この証書は商会のすべての傘下店で特待を受けるに値するものだけに与えられ……」
「え、すごいじゃん。優待カードってことでしょ?」
「よこせ!」

 ベジータさんはイラついたように奪い取り、目を通すと盛大に舌打ちをしてカードを放り投げた。
 腕を組んでそっぽを向いたベジータさんは、話は終わりだとでも言いたげに目を伏せる。
 その様子がなによりの証拠になったようだ。

 雰囲気はがらりと変わり、私に向けられる視線も暖かいものに変わる。
 しかし、その代わりにカードは今宙に浮いてる。

 カードは再度そこに行ったとき使える大事なコネだ。

 取りに行くために駆け出そうと足を踏み出した。
 が、その前に悟飯さんがすばやくキャッチし、私は片足立ちのまま立ち止まる。

「……はい、これ」

 手渡してくる悟飯さんの表情が、どことなく申し訳なさそうに見えるのは気のせいだろうか。
 とりあえずお礼を言って受け取り、カードを〈かばん〉にしまおうとしたとき、横からひょいと掠め取られた。

「あっ」
「へー。素材はなんだろう。プラではないし……」

 せっかく帰ってきたカードはそのままブルマさんの手に渡ってしまった。
 透かして見たり曲げたりしている。
 しかし綺麗な手のなかで舞うカードは、怒号によって再度宙を舞う。

「おい! ブルマ! お前一体なにしに来たんだ! しょうもない事できたんじゃないだろうな!」
「あ。そうだった! ……これよこれ! ベジータに頼まれて作った戦闘服、防御力高いじゃない? みんなの分も作らせたから持ってきたのよ」

 ブルマさんはケースからカプセルをひとつ出して放る。
 ボンッという音がして大きい収納ケースが現れた。

 カードを拾いあげた私は、悟飯さんに「あっち向いてて!」と身体を回転させられた。
 悟空さんたちはお着換えタイムになったらしい。
 危なかった。覗き魔になるところだった。

 俯いていると、視線を感じた。
 顔を上げて横を見ると、ブルマさんが顎に手を当て私を注視していた。

「――なんですか?」
「気になってはいたんだけどさあ。アンタって地味ね」

 は?

「なんていうか、野暮ヤボったい」

 じーっと上から下までゆっくりと見るとモデル体形の美人はのたまった。

「顔もぱっとしないし、格好もダサい。いくら小さいからって15歳なんでしょ? 年頃の女の子がそんなんじゃ駄目よ。帰ったら服あげるわ」

 ひどい!
 自覚してるけどそこまで言わなくてもいいじゃないか!
 顔は仕方ないけど、服はこれでも一張羅いっちょうらだい!
 地球人らしい格好を選んできたんだぞ!

 と、思えども如何いかんせん言い返すことなど出来ないため、私はせめてもの抗議として口をへの字に曲げた。

「では、俺も行きます」

 着替え終わった後ベジータさんがさっさと飛んで行き、トランクスさんも後を追おうとしていた。

「あっちょっと待って!」「ちょっと待ってよ!」「ちょっとまった!」

 ん?
 かぶったな。
 トランクスさんを呼び止めたのは私だけではなかったらしく、周りを見るとブルマさんと悟空さんがあれって顔してる。
 三人で顔を見合わせるとピッコロさんは呆れるように片眉を上げ、「一人ずつ喋れ」と顎をしゃくった。

 ……どうやら私が先のようだ。
 トランクスさんに駆け寄って延びた身長に合わせて頭をあげる。

「〈お守り〉、ちゃんとつけてますか?」

 即死防御になる〈お守り〉。
 知っている通りに進むのならばトランクスさんは終盤でセルに殺される。
 その時に〈お守り〉をつけていればそれを瀕死に変える事ができるから、その状態から回復すればより強くなることだろう。

 サイヤ人は瀕死状態から回復すれば強くなる。

 過去に来た目的のひとつ、できる限りトランクスさんを強くする手段にその法則を利用しない手はない。
 どうせ痛みで気絶してるだろうからそんなに未来変らないと考えたってのもある。

 ――私は、トランクスさんに戦いで死ぬとは教えていない。
 だから最初から渡しておかないと〈お守り〉としておかしいから、あらかじめソタ豆を一粒入れ、絶対外すなと念を押して渡していたのだ。

 トランクスさんは胸元に手を当てて、微笑んだ。

「大丈夫」
「よかった。あとさっきありがとうございました」

 比較的小さい声で助けてもらったお礼を言う。
 するとトランクスさんは笑みを深くして頷いた。

 満足して「次の方どうぞ」と促すとブルマさんが息子に向かって手を出した。
 〈かばん〉、寄越しなさいと。

「いいでしょ! サーヤはいいって言ったわよ!」
「え、ええー……だって分解するじゃないですか。サーヤが新しいの後でくれるならいいですけど」

 トランクスさんはちらちらと私を見てくる。
 背に腹は代えられない。私の〈かばん〉のほうが大切だ。

 譲渡に当たって、中身を私の〈かばん〉に移さなければならない。
 私はまず〈かばん〉を大きく開き、ブルマさんに持ってもらった。
 トランクスさんのポシェットも口を大きく開いて、私の〈かばん〉に注ぐような形で持つ。

「出てこないじゃない」
「どうすんだそれ」
「まあまあ。トランクスさんどうぞ」
「はあ」

 覗き込んでくるブルマさんと悟空さんに構わず、トランクスさんがポシェットの中で指を鳴らした。
 すると中からどばどばどばと物が出てきて、流れるようにそのまま私の〈かばん〉に吸いこまれていく。
「ええー!」と二人が驚いている間にポシェットは空になり、私はそのままブルマさんに手渡した。
 任務完了。私の〈かばん〉は守られた……。

 最後である悟空さんは仙豆を二人分渡していた。
 やっぱり、ソタ豆のことは周知されてないんだな。
 もうちょっと様子をみてからソタ豆の運用を決めようっと。

「無理はすんなよ? やばくなったら逃げろ! いいな」
「はい。いろいろありがとうございます。悟空さんも修行がんばってください」

 ブルマさんもトランクスさんにエールを送る。

「絶対死んじゃだめよ二人とも! わかったわね!」

 私は特になにを言うわけでもなく手を振ってトランクスさんを見送った。
 ……勝てないんだけど、がんばってくらいは言えばよかったかな。
 遠くなっていく気を辿りながら、ずっと消えた空を眺めた。


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