79.別れた理由

第二部 人造人間編

第三章 目的

79 別れた理由

 さて。いよいよまずい。食べ方がわからない。

 目の前に置かれたおっしゃれーな前菜が『美しく召し上がれ? 汚らしく食べたら許さなくってよ』と言わんばかりにキラキラと輝いている。
 ……どうしたもんかな。

 ちらっと隣のトランクスさんを見たら、当たり前のようにナイフとフォーク使ってた。

 ……聞くのは一時の恥、聞かぬは一生の恥というではないか。
 ここは素直にわからないと言おう。

「あの、私、食べ方が」
「ああ、外側から使えばいいんですよ」

 隣を見るとトランクスさんが指で示して教えてくれた。
 さすが紳士、親切!と思っていたらブリーフ博士がさらっと言った。

「別に気にしなくていいよ。箸が必要なら頼めばいいし。僕だって全部使わないよ」

 あっ悩んだのに。でもまあ郷に入っては郷に従えというし、ここはナイフとフォークを使ってみよう。

 トランクスさんにどのカトラリーを使うのか教えて貰いながら口にした料理は、咀嚼した瞬間驚いた。
 実は期待していなかったのだ。
 ブルマさんの料理がアレだったので、食べられればいいやぐらいにしか思っていなかった。

 しかし、いざ食べてみると普通においしい。
 ブルマさんの料理はなんだったんだろうと思うくらい、ちゃんと料理になっている。

「普通だ……おいしい……なぜ……」
「ロボット使ってるし美味しくなるのは当たり前ですよ」

 あっそうなの?
 思わずトランクスさんを見ると、頷かれた。

「ああそっか。未来にはブルマしかいないんだっけ。じゃあまずかっただろうね」

 ブリーフ博士のしみじみとした言い方に、私は口をつぐんだ。

「あははっ! やっぱり! やっぱりまずかったか!」

 その様子を見て博士はひとしきり笑い、プーアルさんはぼそっと「かわいそう」と言って眉?を下げた。
 ……プーアルさんて眉毛ないけど表情豊かだなあ……。

「ブルマはね、レシピを見ればおいしく作れるんだけど、ほら研究者だからさ。試したくなるらしいのね。それでいつも違う味になっちゃう」
「博士、違う味ってもんじゃないですよう。ブルマさんのは別物です。ヤムチャ様だってよく怒ってたじゃないですか。ボク、パンチーさんがいなかったらここに来ませんでしたよ。家で自炊したほうがマシです」

 ブリーフ博士とプーアルさんが「そうだね~」「そうでしょ~」と頷きあいながら目元を和らげる。

 私はなにも言えなかった。それはトランクスさんも一緒だったらしい。黙ったままひたすら料理食べてる。

「ヤムチャ君は料理うまかったねー。焼きそばなんか絶品だったね。だから余計にケンカしてたっけ」
「ブルマさんの料理は見た目がいいからだまされるんですよー」
「うん。実際ベジータ君だけだったもんねえ。文句言わず全部食べるの。僕は……嫌かな」
「ボクも無理です。そこだけは尊敬します」

 ……元カレの話でココまで盛り上がれるのってすごいな。そうなんですかーと相槌を打つのも躊躇う。

「あ、内緒ね? 知られたら殺されちゃう」
「剥製にされちゃう」

 ブリーフ博士とプーアルさんは真面目な顔をして口元に指を当てた。
 仲がいいなこのふたり。

 たしかに残さず食べてくれる人のほうに傾いたのはわかる気がする。
 原因は浮気だけではなかったのか。

「ずいぶん楽しそうね~。なんの話~?」

 パンチーさんはカラカラとワゴンを押してやってきて、大きい皿をテーブルの真ん中にから置いていく。
 それを見て思わず咳き込みそうになった。

 ちょ、ちょっと待ってくれ。その真ん中のそれはもしかして、もしかしなくても……!

「わあい! ボクこれ大好きです!」

 え、マジで?

 プーアルさんはニコニコしながらそれを見ている。

 出された料理のインパクトはそれまでの話をリセットするくらいのもので、私は黙ってしまった。
 隣に目線を配ると相手も同じように思ったのか目があってしまった。

「見た目はあれだけど美味しいよ。僕も好きなんだ」
「試してみて。私の実家の郷土料理なの」

 パンチーさんが取り分けてくれたパイには魚の頭がにょきっと出ている。
 ……目があってしまった。
 ためらいはないとは言い切れなかった。チラッと横目で飲料を探してしまったのも仕方がないだろう。

 そのときついでに目に入ったのは左隣のプーアルさんだ。
 パイをふうふう言いながら食べようとしている。冷ましたそれを口に入れるとふにゃっと笑った。
 くっ……唸りたくなるくらいかわいい。

 つられて一口食べてみると予想に反した味わいが口の中に広がった。

「トランクスさん! これおいしい!」

 全然違う!

 この驚きをぜひとも同じものを食べた同士であるトランクスさんと分かち合いたく、大げさに指をさして促した。

「そんな大げさな……」
「本当ですって! ぜんぜんちがう!」

 ぱくり、そんな擬音語がしっくりくるような食べ方だった。
 口に入れた途端に数回瞬きするとトランクスさんが肯定の言葉をつぶやいた。

「もしかして食べたことがあるのかしら」
「母さんがこの間作ってくれました」
「あの子が? このパイを?」

 頷くとパンチーさんの目はパッチリと開かれ、博士のフォークからパイがべチャッと音を立てて落ちた。
 プーアルさんは……うん。かわいそうなものを見る目でこちらを見ている。

 なぜこんなに違うんだ。
 材料か? ブルマさんが作ったのは匂いからして別物だった。

「あの子はこれが嫌いなの。よく作るけど食べないわ~。うふふ、18年後? なら味も作り方も覚えてないでしょうに」

 な、なんだと!? ろくに覚えていない料理を作ったというのかあの猛者!

「あの魚嫌いなあの子がねえ」
「いまからでも覚えさせたほうがいいかしら?」
「いやー無理じゃない? 年取ったから食べたくなったんだよきっと」

 夫婦が会話している間に魚の頭を除いてパイを口に放り込んだ。
 ちゃんと作ればこんなにおいしいんだね。
 双子にも食べさせてあげたいよ。
 本当はおいしいんだぞって。

「サーヤが覚えればいいじゃないですか。そうすれば帰ってから母さんも食べられる」
「あ、そっか。教えて貰ってもいいですか? メモして未来に持っていきます」

 パンチーさんと博士はぱちくりと目を瞬きしたあと、目元に深く皺を刻んだ。
 ああ、ブルマさんが笑った顔と似てる。
 その姿に自然と口が笑みの形に変わり、私はパンチーさんの料理に舌鼓を打った。

「ブルマさんから聞いたんですけど、サーヤさんは広い宇宙を旅をして地球に来たんですよね? どうですか着いてみて」

 プーアルさんが口元に欠片をつけながら話しかけてくる。
 その顔がとてもかわいくてそれだけでも来てよかったなと今現在思っているんだけど、そんなことを言ったら引かれるだろうな。

「プ、プーアルさん。未来にはなにもないですから、そういわれても困ってしまうと思いますよ」

 私が答える前に、トランクスさんが首を突っ込んできた。

「あ、そっか。じゃあ今の地球は? いろんな星をめぐってきたんですよね。比べてみてどうですか?」

 比べてか。んー……。

「まだわからないですよね? 来てそんなに日数も経ってないし」

 なんかトランクスさんがやけに突っ込んでくるな。

「……難しい質問ですね。比べるほど長くほかの星にいたことってあんまりないし、そこまで地球のことも知っているわけではないので……」

 悩んで口を開くと、プーアルさんがしゅんと落胆したように俯いた。

「でも、空が青いのはいいなあと思いました。ほかの星は赤かったり、緑だったりするんですけど。生まれた星も白い空で、綺麗じゃなかったですからね」

 印象に残っていることを話すと、純粋な地球人は「へえー!」と感嘆な声をあげた。ちょっと面白い。

「あと、凶暴な動物がいないところがいいと思います」

 そう言うと、プーアルさんがいやいやと首を振った。

「いるところにはいますよ。大きい恐竜とか、島ぐらいの魚とか!」
「いやいや、他の星だと地球の動物よりもえげつないやつがいっぱいいますよ。地球の恐竜なんてかわいいもんです」
「よく生きてたねえ」
「……逃げるのは得意なので」

 笑って誤魔化し、私は少し冷めたパイを口に入れた。

 和やかに食事も終わりを迎えようとしていたとき、ブリーフ博士は酒のせいか頬を赤く染め、機嫌よく白い髭を動かしながらついという感じで言い出した。

「こうしてみると、まるで兄妹みたいだねえ」

 私は目を瞬いて驚いた。

「あら、確かに。ふふふ」
「言われて見ればそう見えるかも?」

 うっそん。

 三人に言われて、私は右側に顔を向けた。
 兄と呼ばれた青年は目を瞬いて、面食らったようにこちらを見ていた。

 ――妹だと? イケメンの?
 皆目が悪いのかしら。……いや、悪い気はしないけどさ。

 目が合った私はふっと笑いがこみ上げ、そのまま浮かんだ言葉を言い放った。

「こんな頭がよすぎてかっこいい兄がいたら、私はきっとグレてしまうでしょうね」

 ちょっとした冗談を言ったつもりだった。
 そうしたら隣から驚きの声が上がり、向こう側では笑い声が立つ。

 世間は恐怖に震えているというのに、ここはなんとも平和だなぁ。

 笑い続けているブリーフ博士を見ながら、私は食後のお茶を楽しんだ。


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