82.精神と時の部屋

第二部 人造人間編

第三章 目的

82 精神と時の部屋

 地球のどこよりも天高いこの場所は、風が冷たい。
 つまり、寒い。
 太陽に一番近く、光が差すその神殿は確かにまばゆいが寒い。

 その神殿にはたまに木枯らしよりもひどい強風が中まで入ってくることがある。
 しかしどんなに強い風が吹いても建物は物音すら立てず、庭に生えている木が折れそうなぐらいざわめくだけだった。
 強固な建築物なのだ。
 それが今、大音量の声が宮殿の端まで通り抜けたことによって震えた。

 つまり、みんなに驚かれた。
 面白いくらいに皆目をまん丸に変えている。

「だっ、だめです! 絶対だめ! 死んでしまいます!」

 両手の拳を握って訴えてくるのは悟飯さんだ。
 さっきまで入っていて厳しさを身を持って知っているからか真剣に止めてくる。

「そうです。サーヤが死んだらドラゴンボールはどうなるんですか?」

 同じく反対するトランクスさんは声音こそ怒っているように低いが、顔は険しくも呆れが混ざっている。

 しかし二人に言いたい。

「なんで死ぬ前提なんですか? 死にませんよ!」
「死にますって!」
「死にます!」

 二人に同時に怒鳴られ、その勢いに私は顔をしかめた。

 怖い顔で怒鳴らないでほしいし、その後ろの方々は信じられないようなものを見る目つきをやめていただきたい。

 あれか?
 悟飯さんとの修行のせいか?
 それはこの際考えないで貰いたい。不測の事態だったのだ。

 言い返そうと首を伸ばしたとき、すっと悟空さんが現れた。
 そしてきょとんと目を見開いたあと確認するように瞬かせた。

「なに喧嘩してんだおめえら」
「お父さん! サーヤさんが精神と時の部屋に入りたいって!」
「はあ?」

 呆れたように口を開けた悟空さんそっちのけで、ピッコロさんが言い聞かせるかのように淡々と部屋について説明し始めた。

「よく聞け。中の気温は50度からマイナス40度まで変化し、空気はここの四分の一。重力は10倍だ。お前には堪えられる環境ではない。無駄死にするぞ」

 目を細めながら凄まれた。
 その視線から逃げようと目を逸らすが、その先には私よりも背が高い壁……トランクスさんが立っていた。
 見下されてアウェー感どころの話じゃない。
 しかし!

「そ、それくらいなら耐えられます。ほかの星だって似たようなところはあったし」
「だめですって! 重力10倍ですよ? 買い物の籠すら持てないのに!」
「地球に来たとき寝込んだの忘れたんですか!? 中はそんなものじゃないんです!」

 口を開けば悟飯さんとトランクスさんが即反撃してくる。
 内容が的確過ぎてぐうの音もでない。

「散々言われているぞ……無理じゃないか?」

 天津飯さんが半目になっている。三つ目も器用に半分だ。
 そんな器用に三つ目って動くんだね。はじめて知ったわ。

 しかしながら話の内容には同意できない。
 無理だったら宇宙船で旅してる時点で問題は起きてるはずなんだ!
 確証はないが!

「大体、入ってどうするんです。鍛えるわけでもないのに」
「そうだ。理由を言え。しょうもない理由だったら許さんがな」

 トランクスさんとピッコロさんにぎろりと睨みつけられた。

 り、理由か……。言ったらだめだって即答されそう。

 私はくっと唇を噛み締めた。
 少々考え、勉強のためだと話したらピッコロさんは驚きというよりあきれていた。
 トランクスさんは言わずもがな、額を押さえていた。

「そんなことで部屋に入るというのか……」
「私には死活問題なんですっ! 最後でいいですから! なにとぞ!」

 両手を擦り合わせ拝むようにしてお願いする今の私の姿は、さぞや気合の入った参拝客に見えることだろう。

「そういわれてもなあ。部屋の中は本当に過酷なんだぞ。おめえチチより弱そうだしさ、やめとけ」

 悟空さんは真顔で首を横に振った。

 くっ、反対意見が多すぎて説得できない。
 どうしたもんか。

「入りたいなら入らせてやればいい」

 うつむいていたとき、意外なところからお声がかかった。
 まさかのベジータ様である。
 かの王子は仁王立ちで顎をしゃくった。

「むしろ最初に入れろ。そのほうがさっさと回る」
「な、父さん! いきなりなにを言い出すんですか!?」
「さっすがサイヤ人の王子様! 話しがわかる方です!」
「お前殺されそうになってよくそんなこと言えるな! おい、俺が先に入ると決めたではないか!」

 思わぬところからの援護に諸手を挙げると、ピッコロさんに怒鳴られた。
 口の中が紫だからか大きな口を開けながら怒られると逃げたくなるくらいすごくこわい。
 しかし怯んではいられない。昨日されたことよりも今後のほうが大事だ。

 ベジータさんはピッコロさんに向かって鼻で笑うとまぶたを伏せた。

「貴様が勝手に決めたことだ。それにどうせすぐにくたばる。飯を食ってる間に済めば文句などない」

 えっ、それは……どうしろと?

「……あの、すぐに出てこなくてもいいんですか?」
「ふん、そしたら貴様を虫けらから地球人まで引き上げてやる」

 うわーありがたいお言葉を頂戴してしまった。
 ベジータ様にそういわれたら煩わせないようにさっさと入ったほうがいいね!
 気が変わらないうちにね!
 んで遠慮なく居座ろう!
 私は軽やかになった足取りで部屋に向かって歩き出したのだが、両手を伸ばし阻むものが現れた。

「ダメです! 眼鏡つけて入るつもりですか? 中の温度でやけどしてしまいます! 壊れるだろうし、無謀ですよ!」

 悟飯さんだ。
 向こう側に行かせまいとする様子はすごく必死そうに見えるが、残念ながら私は諦めたりしないぞ。

「大丈夫です。この眼鏡特別製なので体温以外の温度に変わらないですし、衝撃に強いので壊れることは皆無です」

 白髭ケンタッキー所長が用意してくれたこの眼鏡は滅多に壊れない。
 ぶつけようが洗濯しようが傷すらつかないのだ。
 しかし貰ったうちの一本目はトーガが寝ぼけて踏んでくれたおかげでご臨終してしまった。私が踏みつけても曲がりすらしなかったのに、朝起きたらレンズが粉々になってたから、サイヤ人レベルが踏むと壊れるんだろう。
 でも今かけている眼鏡は健在だ。なので問題はない。

「そうだとしても無理です! あんな温度差じゃ体がついていけないですよ!」
「心配してくれるのはありがたいですけど、あなたには関係ないですよね。どいてください」

 強めに言えば、言葉が詰まったように悟飯さんは口を閉じた。
 その横を通り、部屋に向かう。
 すると今度はトランクスさんが前に出て止まった。

「……お湯がかかったときはやけどをして、余所見をすれば包丁で指を切って、扉にぶつかったときはバスタオル一枚分鼻血を出して! おまけに工具足に落として歩けなくなって飛んでたのは誰ですか!!」
「!? なんでそんなこと知ってるんですか!?」

 見てたのか!? でも知っているはずのないことまで知ってると怖いぞ!
 思わず歩みを止めた私をトランクスさんが腕を組んで睨みつける。

「被害が大きいからわかりやすいんですよ。母さんうるさかったし。それで中に入って生きていけるわけがないでしょう。到底無理です許しません」

 私は頬を膨らませ、そのまま吐き出した。

「別にいいですよ許してくれなくても。勝手に入るから」
「ナメック星に行く前に死ぬつもりですか? そんなこと未来に帰ってからにしてください」

 できないんだよ!

「まだ9日もあるしナメック星は私が戻ってきた後でも問題ないでしょう! それにこのまま未来に帰ったら双子にだって……。……死にませんって何回いわすんですか!」

 言い切ると同時に部屋に近かった悟空さんの後ろに瞬間移動した。
「あ!」と後方から声が聞こえたが無視して駆け出す。

 すると、なんの気配も無く唐突に二の腕つかまれた。
 悲鳴を上げなかった私はえらいと思う。

「おめえ、軽いなー。中に入ったら死んじまうぞ」

 困ったように眉を下げる悟空さんに覗き込まれ、私はそこで状況を理解した。

 あれだ。よく子どもがぬいぐるみとか人形を腕だけ持ち上げて宙ぶらりんにしている状態。
 可愛い子供がやるのならばファンシーさでもって許されるだろうけど、屈強な男にやられたなら人形は哀れにしか見えないだろう。
 それはまさに今の私だ。

 肩が千切れそうになるくらい痛くなり、飛んで軽減してもすぐには言葉が出ない。

「ドラゴンボールがねえから生き返れないけど、それでもいいんか?」
「だ、だから、死なないって、いってるじゃ、ないですか……! はなして、くださいっ!」

 掴まれた二の腕の部分は頑丈な錠でもはめられているようにびくともしない。
 私に出来ることは宙をゆらゆらと浮かぶことのみである。

「うーん……しょうがねえなあ。よっと」

 悟空さんはガリガリと頭をかいたあと、私をくるんと回転させ離した。

「!?」

 驚いている私には全く構わずそのまま腕に座らせるようにして抱えると、青い瞳でじっと私を見つめニッと笑った。

「そんなに言うならオラが一緒に入ってやるよ」

 へっ?

「お父さん!?」
「だってさあ、これだけ言うんだし……一回入ればわかるんじゃねえの? 無理だったらすぐに出てくるからさ」
「おい、順番は守れ」
「硬い事いうなよ。時間はあるんだから少しくらいいいだろ?」

 そういいながらすたすたと悟空さんは歩き出した。

「サーヤ!」
「サーヤさん!」

 後ろから名前を呼ぶ声がするが、それに答えることはできない。

 私の頭の中はこんらんしている。

 だってまさか悟空さんが部屋に入るのOKするとは思わなかったし、私今抱っこされてるよ?
 抱っこだよ?
 主人公に抱っこされてるよ?
 人形みたいな扱いじゃないよ? 人間のような扱いで抱えられてるよ?
 しかも超サイヤ人。
 あの光り輝く髪の毛が目の前にあるんだよ?
 触りたいけど触ってもいい??

 ――などという、いろいろな思いが混じった混沌とした脳内のまま、私は扉をくぐった。


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