第二部 人造人間編
第三章 目的
84 転んだ?
「どうする? 今日は疲れてるだろうから明日にすっか」
地球のドラゴンボール復活のために、ナメック星に行くことが必然になった。
そう伝えられた後に続いた言葉に、私は首を横に振った。
「いえ、さっさと行ってしまいましょう。できることならすぐに済ませておきたいです」
「おめえ、タフだなあー」
驚いたように眉を上げる悟空さんはいつもの道着姿じゃない。
部屋から出てすぐの騒動で全く見ていなかったのだが、まさかのジャケット姿なのだ。
道着以外の服も持っていたんだな。
「だ、大丈夫ですか? 本当に?」
心配そうに私を見上げてくる悟飯さんは白い中華服を着ている。
こちらは悟空さんほどの違和感を感じない。
「大丈夫! ソタ豆……仙豆がありますから!」
「……仙豆は本来そんなばかばか使ったりしないぞ……」
「出てきてすぐは良いけどな、後がつらいぞー。大丈夫か? 本当に」
天津飯さんの声は些か渋みを帯びた低さになり、悟空さんの言い分には僅かばかりの脅しが含まれていた。
あとでつらいの? こんなに体軽いのに?
経験者を見ると、うんうんと頷いていた。
腑に落ちない。
そこの苦そうな顔をしてこちらを見ているトランクスさん。あなたは出て即セルを倒しに行ったじゃありませんか。
「すぐ帰ってくるんでしょうね!?」
腕を組み仁王立ちで主張するブルマさんの顔にはもう毛玉はいない。
敵討ちをしてくれたアカネちゃんは、いま褒美である葉っぱをもしゃもしゃ食べている。
ブルマさんに視線を移すと同時に、悟空さんがまた吹き出した。
「ちょっと! 孫くん!?」
「だ、だって……ヒゲが……ぶふっ」
そう。ブルマさんは猫顔になった。
アカネちゃんがぎっちり挟んだ箇所が跡になり、まるでヒゲのように見えるのだ。
美人な猫は猫らしくシャーと悟空さんの顔を引っかいて怒っていた。
そうなると気になるのは息子の反応だろう。
アカネちゃんの足形はいつかの息子と全く同じだ。
……なにか思うことはないだろうか。
ちらっとトランクスさんをみると、ムッとしたようで眉は険しくなっていた。
「なんですか。……言いたいことがあるならどうぞ」
「いえ、別に」
親子ともども私を襲っては虫に撃退されているなと感慨深くなっただけですよ。
「じゃあちょっくら探してみっか。ほい、手貸して」
「あたらしい神様みつかったらポポもうれしい!」
「……がんばってください」
「ちゃんと覚えてきてくださいね」
ポポさんは普段とは違いうれしそうに声を弾ませ、悟飯さんはまじめな顔でエールを送ってくれた。
トランクスさんは激励とかではなく、注意みたいな言い方だった。
そりゃ目的なんだから覚えますよ。
「ちょっと静かにしててくれよ。んーと……」
悟空さんが指を額に当てるとあたりは静かになった。誰かの喉が鳴る音すら聞こえるくらいだ。
悟空さんの真剣な眼差しは虚空を見つめ彷徨う。
私はその様子をじっと見つめていた。
次の瞬間、悟空さんの口がにへっとだらしなく笑みを作る。
「わりぃ、ダメだった。どうしよう」
超かっこいいはずの超サイヤ人は誤魔化すかのように笑いながら、超情けないことを言った。
ダメだったじゃねえよ。こっちは未来かかってんだから必死に探せ。
思わず睨みあげてしまったのは仕方ないことだと思う。
「え、ええっと……そうだ! 界王さまのところからならいけるかもしれねえぞ! 界王さま界王さま……」
悟空さんは焦った顔をして探し始めた。
「お父さん……」
「ほ、本当に大丈夫?……」
「早く帰ってきてねー。〈かばん〉について聞きたいことあるんだから――」
その様子を見ていた近くの方々は心配そうに声を上げる。約一名は自分の本音をぶつけてきたが、私は答えることはできなかった。
「みつけた!!」
刹那、小さな惑星に立っていたからだ。
「ここは界王星ってんだ。界王様って偉い人が住んでんだけど……どこかな……えーと」
こっちこっち、といいながら悟空さんが歩く後ろをついていく。
しかし、なんか体が重いな……。もう疲れが出てきたのか……?
筋肉痛は若いほど早く症状が現れるというけれど、そうなのかな。若すぎる体が忌々しいなぁ。
一気に部屋の中に戻ったような感覚に陥りながら歩き出す。
自然と目に入ってくる景色は空だ。青くない空に浮かぶ雲は金色で筋斗雲の海みたいだ。
歩いているとデッキチェアで寝ているサングラスの人が見えた。
傍らにいたお猿さんが悟空さんに駆け寄ってくる。
「よう、バブルス! 久しぶりだなー元気か? ……あ、こいつサーヤってんだ」
「は、はじめまして」
「キキ!」
お辞儀をすると、バブルスと呼ばれたお猿さんは向こうに跳びはねていった。
「よろしくだってさ」
にこ、と笑いかけてくる悟空さんに私は懐疑的な眼差しを返した。
悟空さんぐらいになると猿とも話せるのか? ……それとも猿なのか?
主人公の潜在能力に慄きながら、デッキチェアの前で歩みを止めた。
「界王さまー。なあちょっと起きてくんねえか。……オラだ、悟空だよ!」
界王様と呼ばれたサングラスをかけた人はがばりと起き上がった。
「おお? それは超サイヤ人か! なんだ突然に。暇つぶしにでもきたのか? 女の子連れで……おんなのこぉ!?」
「のんきだなあ……」
「おま、奥さんいたんじゃないか?! まさか、浮気か! おまえ神聖な界王星をラブホ代わりに使うつもりか! なんというけしからん奴!!」
「ラブホってなんだ界王さま」
「なにー!!!」
……口を挟む暇がない。仕方がないのでわざとらしく咳きすることにした。
「ゲホッ、ゴホン!!」
すると界王さまは悟空さんの頭を掴み、私に背を向けた。
なにやら二人でこそこそ話しだす。
なんだよ。
やましい話をしているのか。
細目になりつつ二人の様子を見ながらちょっと考えてみた。
前々から思ってたんだけど。
界王さまってさー、悟空さん贔屓しすぎじゃない?
ナメック星編からそうだよね。悟空さんに頼まれたらやる感じ。
ここから宇宙見てるのが仕事なんだよね、確か。
だったら未来の地球でもちょっとくらい助けてくれてもよかったんじゃない?と思うのは私だけなんだろうか。
せめて悟飯さんにでも助言くらいしてくれれば、地球の未来変わったんじゃないかなー、なんて。
言わないけど。
「なるほどのう……人造人間セルか……。確かにとんでもないことだ。それにしてもお前の周りにはよくつぎつぎととんでもないことが起こるもんだ」
悟空さんは説明し終えたようだ。
私が浮気相手だという疑惑を拭ったかはわからないが。
「……してその女の子は未来の地球を救うためにナメック星に行きたいのじゃな?」
「オラと同じ瞬間移動使えるからな。ついでに」
「はじめまして、サーヤといいます。これつまらないものですが」
私は〈かばん〉の中から作ったお菓子であるロールケーキなどの詰め合わせを差し出す。
こういうとき使うために作ったのだ。
不本意でも印象は良くしておかないと。一応偉い人だし。
「日持ちしませんのでお早めに」
「これはこれはどうもご丁寧に……」
「いいなー。ケーキだろ? オラも食いたい」
あげないよ。
チチさんを宮殿においてきた夜に、一緒にケーキもおいてきたのを私は忘れていないぞ。
「ワシのじゃ!」と界王さまはバブルスさんに包みを渡していた。懸命な判断だ。
「お菓子はお前がいないところでゆっくり食べるとして、ナメック星人のいる星を探せばいいんじゃな?」
「そうやってわざわざ言うところが界王さまらしいよなー。方角だけでもわかると助かるんだけど」
「探してやろうというのに……文句あるか?」
「ぜーんぜん」
「ちょっと待ってろ」と言って、界王さまの触角が跳ねる。そして一点で止まった。
それを見て思い出したのはあれだ。
ゲゲゲの片目妖怪。
なにか感じたらピーンとまっすぐになったりしないのかな。
じっと様子を見て待っていると、こそこそっと悟空さんが私の近くに寄り、耳打ちしてきた。
「なあ、ラブホってなに?」
……暇なのはわかるけど、できることなら聞いてほしくなかったなー。
きょとんとした顔でまったくわかってなさそうだったので、呆れた。
お前子供つくってんだろ。
いつかの朝チチさんの尻掴んでたお前がなんでしらねーんだよ。聞くなよ処女に。
「……ラブホテルの略ですよ」
「ラブホテルって何? ホテル?」
……なんといえばいいのか。
内装がどぎついとかガラス張りのバスルームがあったりとか?
いやうそ。行ったことないからわからないし、内容なんてことさら言えない。
子作りする場所ですって言えばいいのか? 言った方がセクハラだろ。
…………。
なんかあれだな。
アレな言葉を言わせて楽しむセクハラのようじゃないか?
まさか悟空さんにセクハラされるとは思わなんだ。
いくら筋斗雲に乗れる清らかさを持っている人だとしても、セクハラだと思えば汚れて見える不思議。
どっちにしても思うことはひとつだ。聞くなよ処女に。
「そうですねぇ……」
「っあー!! やかましいし聞いておれんわ! 悟空! いい歳なんだから女の子にそんなこと聞くな! 察しろ!」
「察する? なにを察すればいいんだ?」
「わからんのならだまっとれ! 気が散る!」
悟空さんは口を尖らせて拗ねた。
とても一児の父親がやるような態度ではない。
界王さま、グッジョブ。その調子でちゃんと仕事してくれたらいいのに。
失礼なことを考えながら私はぼーっと突っ立っていた。
+ + + + + + + + + + +
見慣れない緑色の空のもと、荒野に私たちは降り立った。
背の高い木が点々と生えている近くには、白く丸い家が建っている。
風は無い。黙っているだけでも肌が湿るほど湿度は高く、正直居心地の良さは感じられなかった。
「おおっ! ではあなたがナメック星でフリーザと戦い、我々を救ってくださった……」
「あ、はは……ナメック星は爆発しちまったけど……」
界王星からナメック星にやってきた私たちは、現地のナメック星の方々に好意的に歓迎された。
フリーザと闘った悟空さんのことを覚えている人が多かったからだ。
最長老と呼ばれたムーリさんは、にこにことしながら私たちに問いかけた。
「ブルマさんは元気にしておりますか。あの方には大変お世話になった」
「元気ですよ。お子さんが生まれて、忙しそうにしています」
「もうすっかり母ちゃんだもんなー」
「なんと! めでたいことですな! お祝いの言葉を是非伝えていただきたい!」
和気あいあいとしながら目的や地球でのことを話すと、その場にいる誰もが口を噤んでしまった。
そりゃそうだ。いきなりやってきて遠い星に永住してほしいなんて唐突過ぎるだろう。
しかし、ムーリさんはにっこりと笑いながらお目当ての人の名前を呼んだ。
「デンデ! こっちにきなさい」
静かになった人々の中、小さいナメック星人が走ってこちらに来る。
呼ばれたデンデさんは他のナメック星人とは対照的にうれしそうに私たちの前で止まった。
ムーリさんが言うには、デンデさんはたいそう地球に行きたがっていたらしい。
「いいけどさあ……。でもドラゴンボールを使えねえと……」
「大丈夫。デンデはこう見えて優秀な龍族ですぞ。きっといい神様になれる!」
りゅうぞくってなんだろう。不思議に思いつつ悟空さんと二人で頷く。
「よろしくなデンデ!」
「はい!」
神様も決まりいざ帰ろうかという時、のっぽのナメック星人がなにやら包みを持ってきた。
ずいぶんとカラフルな模様の布で包まれている。
その布に既視感を感じた。
なんだっけ? 光塩を包んでいる布だっただろうか?
「これをブルマさんに」
のっぽのナメック星人が布を取り去ると、中からカプセルコーポレーションの模型が出てきた。
大変再現度が高い。
庭まで付いている完璧なそれを見て関心するけれども、それよりもあれだ。
こんな展開は原作にはない。
……どうしたもんか。
「この新しい星に着いたとき、感謝の気持ちを忘れないようにと作ったんだ。お世話になった礼だと渡してほしい。ますますの繁栄を願っていると」
「おおーすげえな。こまけえー!」
「サリガも優秀な龍族ですから、その像があれば思いの分だけ繁栄するでしょうな」
出産祝いとして、その子のためにもなるからぜひよろしく、といわれれば断れない。
でも渡さなくてもたぶん勝手に繁栄するよ。
私はこっそりとため息をついた。
これたぶん悟空さん一人で来てたら渡されなかっただろう。細かいから壊しそうとか言って断りそう。
私も今現在断りたい。
しかし「軽いから持てるよな!」って言われて再度包まれた模型を渡されたのでどうしようもない。
……まあ、私がいる時点で展開が変わるのは仕方がないことなんだ。
大筋があってれば問題はない。たぶん。
自分に言い聞かせながら私は包みを〈かばん〉に入れた。
そしてデンデさんと共に悟空さんの瞬間移動で地球へと向かい、神殿の地面に付いた足で次に私がしたことは一人で行けるか試してみることだった。
結論としては行ける。
そして帰って来れる。
ソタ豆を食べれば。
しかし――。
いつもの感覚を信用して飛んだのに、想像よりも距離が長く、飛ぶのに結構体力を使ってしまった。
ソタ豆を食べたから大丈夫だろうと思っていたのも悪かった。
確かに体力は回復していたのだが、反対に疲労は蓄積される。
体が重く感じるくらいの疲労だ。
その疲労は如実に現れることになった。
神様の宮殿の庭。
皆が集まるところに飛んだ私の足はもつれた。
そのままぐしゃっと崩れ落ち、拍子に眼鏡が飛んでいく。
転んだ。
なにもないところですっ転ぶなんて、恥ずかしいこと極まりない。
「サーヤ!」
呼ばれるが眼鏡が無い状態ではどうにもならない。
すぐさま起き上がって眼鏡を探していると肩を起され抱えられた。
……悟飯さんだった。
「大丈夫ですか!?」
「めっ眼鏡が……」
「いい! 取るから!」
右前にいたトランクスさんの声が強い口調だったので、私は伸ばした手を引っ込めた。
すると周りを人に囲まれていることに気づいた。
その中から一人、緑色をした小さめのデンデさんらしき人が私の前で膝をついた。
「大丈夫ですか? いま治しますから」
治す?
大げさな。
私は怪訝そうな顔をしていただろう。
そしたらブルマさんの切羽詰った声が聞こえた。
「わかってないの? アンタ倒れたのよ!」
倒れた?
「いや、転んだんですよ?」
そういうと皆から「違う」と異口同音で言われた。
そんな馬鹿な、と思っていると体が軽くなった。
デンデさんが疲れたように息を吐く。
「……あの、体力は戻ったと思います。ですが、ちょっと体を酷使しすぎですね。疲労までは取りきれませんでした」
「はあ、ありがとうございます」
「サーヤさん、これ……」
悟飯さんが眼鏡を取ってくれたのだが、なんだか形がおかしい。
「フレームが曲がって……壊れてますね」
トランクスさんがそれを見ながら説明してくれた。
がーん。
なんで壊れたんだ?
サイヤ人踏んだ?
いやそれよりももう眼鏡なんか無いよ。
つけていたのは最後の眼鏡だったんだ。
ど、どうしよう。
壊れた眼鏡を見ながら途方にくれていると、トランクスさんがその眼鏡を取った。
「いい機会です。そのまま休んでてください」
「オラ送っていこうか? ブルマんとこでいいんだろ?」
「そうね。ついでに私も連れてって」
なにを勝手に話を進めているんだい。
「私用事があるんですけど」
そう口にしたとき、皆が「はあ?」と呆れた声を出した。
「え……あの、亀ハウスの冷蔵庫に入れてた塩辛を取りに行きたいんです。部屋に入っている間気がかりで気がかりで」
「いやいやいや、後でもいいだろ? とりあえず寝とけって。な!」
いつの間にかいたクリリンさんが焦った声を出している。
ぼんやりとしか見えなくて、やけに肌色が多いなと思ったんだ。
「大丈夫ですよ。体軽くなったし。それに冷蔵庫に入れてから3日経っているので食べごろに……状態を確認したいのでちょっと行ってきます」
「駄目ですよサーヤさん! また倒れたら!」
立ち上がろうとしたら、悟飯さんに引き止められた。
「倒れてないです。大丈夫です」
構わず立ち上がると、なぜか体を締め付けられ、一気に目線が高くなった。
なん? え? 高いよ?
文句を言う暇もなく、いつの間にかトランクスさんの腕に座るような形で抱えられていた。
目を細めなくても顔が見える。
……またか!
私は思いっきり腕を突っ張り離れようともがいた。
「下ろしてください!?」
「連れて行きます」
「うん。そのほうがいいわね。自覚無いんだもの。厄介だわ」
「じゃあ行くか」
ちょっと! 何故誰も話しを聞いてくれない!?
引き剥がそうとしても全くビクともしない筋肉質な体の持ち主は、あろうことかそのまま歩き出す。
「待って! 下ろしてください! 後生ですから! 今日でも微妙なのに明日だと発酵しすぎちゃうんですよ!」
「静かに、おとなしくしてください」
「病人でもあるまいし! ぱっと行ってぱっと帰ってきますから!」
「黙って」
このやろう。
いいよもう。このまま行くから。
目を閉じて、気配を探ろうと集中していたら―――
「馬鹿!!」
「いっ」
怒鳴られた。
その瞬間、ビキッとこめかみに痛みが走り、その痛みは頭の奥に響く。
私は思わず両手で頭を抱えて目を瞑った。
すると抱き方を変えられ、お姫様抱っこにされてしまった。
「……少しくらい言うことを聞いてください。悟空さん、今のうちにお願いします」
ため息を吐かれながらそんなことを言われたが、疲れから鈍ったのかそれに言い返す言葉は出てこず、唸ることしかできない。
おのれ。
馬鹿っていったな。
そんなこというと卵焼き作ってやんないぞ。
食べ物の恨みは深いんだ。
悔しかったので小さな声で恨み辛み言い続けていたが、最終的には頭の痛みに堪えかね「ぐううううう」という呻き声に変わった。
「塩辛ってあれだろ? グロテスクな瓶詰め。今日持って行ってやるからちゃんと休んどけー」
クリリンさんの声を最後に、空気が変わった。
都会らしい喧騒が聞こえてくる。
「じゃあな。サーヤ、ちゃんと疲れ取れよー」
手を振って挨拶をしているような悟空さんに返事をしつつ、頭を押さえる。
がんがん響くような痛みは意識したとたんに酷くなったようだ。
しかしお姫様抱っこは恥ずかしいという羞恥心は消えていないぞ。
「……もう逃げないので降ろしてください」
眼も見えないし、頭の痛みで瞬間移動もできない私はあきらめた。
言われたとおりにとりあえず寝るから、本当降ろして欲しい。
そうしたら抱えなおされた。
「また倒れたら運ぶんだから一緒です。もう少しですから我慢してください」
「そうそう。おとなしくしてなさい」
なんという言い草。
私は倒れてないって。
転んだんだって。
大げさだ。
そう思っていたら部屋に着いた。
ブルマさんは部屋のロックを外し扉を開ける。……それ鍵の意味ないよね?
ベッドの上に下ろされると、トランクスさんが靴に手をかけた。
あろう事か脱がせ始めた。
私のをだ!
「ひえっ! なにしてるんです! 自分でできます!」
あわてて跳び上がると投げ捨てるように自分で脱いだ。
見えなくても靴ぐらい脱げるわ!
「ふっ。ちゃんと寝てなさいよ。じゃないとまた倒れるわよ」
ブルマさんの笑いを含んだ声が遠ざかって行ったので、トランクスさんも続くかなと思っていたら違った。
「ちゃんと横になってください。誰もいなくなったら出て行きそうだ」
トランクスさんは傍らの椅子にどかっと座った。寝るまで居座る気満々にみえる。
なんという信用のなさ。
「い、行きませんよ。頭痛くて瞬間移動できないし」
「なら早く休んでください」
強い口調で言われ、私は逆らえずベッドにもぐりこんだ。
ちゃんと寝るから早く出て行ってほしい。
辟易とした思いは頭を枕につけたとき霧散した。
あー……ふかふか。
精神と時の部屋のベッドは固かったし、上にかける布団、綿いっぱい詰まってるやつでめちゃめちゃ重かったから、こういうふんわりとした布団はとっても久しぶり。
至福……。
思わずうっとりと目を閉じると、疲れていたようですぐに眠たくなってくる。
「全く、無茶をする」
小さく聞こえたその声を最後に私の意識はやわらかい布団に溶けた。
