第二部 人造人間編
第三章 目的
Trunks side 仕事
過去に来た目的は二つ。
人造人間を倒す方法を見つけること。
そしてサーヤがナメック星に行けるようになること。
人造人間を倒す方法を見つけることは俺の仕事だった。
設計図を手に入れ基地を特定する。そして俺自身が強くなる。
さほど難しいことじゃない。
完全体のセルにこそ負けはしたが、未来の人造人間を倒せる力は身につけられたと思う。
そうなると残りはサーヤの仕事になる。
ナメック星に行って帰ってくる。そうすれば未来でドラゴンボールが使えるようになる、と俺を説得したのは彼女だ。
だから決して危険なことはせず、必ず生き残り未来に帰る。
それが彼女の役割だったはずだ。
最悪俺が死んだとしても、仕事を終えた彼女だけは帰さなくてはならない。
――未来のために。
なのに、サーヤは精神と時の部屋に入った。
すべての制止を振り切って。
部屋の中は過酷だ。入った瞬間に理解するだろうと、それができないほど馬鹿じゃないと思っていた。
『やっぱり無理だった』
そう言ってすぐに帰ってくると思っていたのに、戻ってこなかった。
そのときの俺の気持ちは、その場にいた誰にもわからないだろう。
「サーヤは地球に来てすぐ一週間寝込んだんです!! 熱も出て、食べ物もろくに取れず、動けなくなるくらいだった!! 西の安定した気候でそうなるんです! 生きていけるわけがない!!」
俺は、連れ戻すようにピッコロさんに掛け合った。
しかし、悟空さんがそれをとめる。
「大丈夫だって。ぜんぜん平気そうだったし。まだ死んでねーだろ? ピッコロ」
「確かに死んではいないが、あの弱さでは無謀だ。何故連れて帰らなかった」
「なぜって、やっていけると思ったからだ。おめえら心配性だなあ~」
なにを根拠にそんな、と言い返す前に悟飯さんが声を上げた。
「お父さん! サーヤさんはビール一箱も持てないんだ!! 絶対今頃倒れてるよ!!」
「で、でもよ、本当に大丈夫なんだって。重力ものともしなかったし」
「もう!! ピッコロさん! 連れ戻してきてください! 早く!!」
悟飯さんがピッコロさんを引っ張り、扉の前まで連れていく。俺もついて行きながら扉の上についている時計を見た。 自然と睨みあげてしまった。
……もう数日経ってしまっている。
気温の変化についていけるわけがない。
水だって蛇口すら捻ることができないだろうし、食料だって重くてとれないだろう。
きっと倒れてそのまま……。
そんなの、単なる自殺だ。
死ぬなら目的を果たしてからにしてくれ。
希望を持たせておいて絶望させるようなことをするな。
俺はその時、彼女がとった行動にかなり腹を立てていた。
「とりあえず様子を見てくる」
「大丈夫だって言ってるのに」
部屋に入ろうとしたピッコロさんに飄々とした態度で悟空さんが声をかけると、とうとう悟飯さんが怒った。
「いい加減にして!!!!」
気迫とでも言えばいいのだろうか。
悟飯さんを中心にいきなりぶわ、と風が巻き起こり、ビリビリとした風圧を肌で受け止めることになった。
思わず防御の体制をとってしまうくらいの強風で、近くに植えてある木がばさばさと音を立てて葉を散らしている。
「ご、悟飯。落ち着け。あまり気を放出させると神殿が壊れてしまう!」
ピッコロさんの声に、悟飯さんは弾かれたように体を震わせると「ごめんなさい」と深く息を吐いて目を瞑った。
かん、コン、というなにかが当たる音がする。
きっと空まで巻き上げられたものが落ちて床にぶつかった音だろう。
風が凪いだあと、ピッコロさんは静かに扉を開けて中に入っていった。
「超サイヤ人になってるから怒りやすくなってるのはわかるけどよ、おめえやっぱり変じゃねえか?」
声を掛けられても悟飯さんは口を真一文字に引き結び、黙ったままだ。
眉を顰めてまるでなにかを我慢しているようにみえる。
そんな態度の悟飯さんをこの時代で見るのは初めてだった。
だから俺は少しばかり重苦しい空気の中、突っ立っていることしかできなかった。
しかしそれも僅かな時間だった。
ピッコロさんはわりとすぐに戻ってきたのだ。
……一人で。
「サーヤさんは!?」
「……悟空の言うとおり、問題なさそうだったから置いて来た」
「ほーらな」
ピッコロさんは疲れたように座り込み、俺は悟飯さんと共に駆け寄る。悟空さんは頭の後ろで手を組みながら笑っていた。
「ど、どういうことですか!? 寝込んだりとかしてませんでしたか!?」
「寝転んではいたが……」
身を乗り出して聞くと、ピッコロさんは俯きながらぼそっと「乾物をつくっていた」といった。
「え?」
ものの見事に悟飯さんと声が重なった。
「外に梅や昆布が干してあった。料理に使うらしい……」
「……」
「……」
「? どういうことだ? 勉強するために入ったんだろ?」
「それはそれでやっているようだ。休憩するときについでにやっているだけだといわれたが……寝具なども繕われて…………。なんなんだあいつは」
思わず額を押さえてしまった。
頭に浮かんだのは畑だ。
食料のために単身で開拓し、勝手に危険な場所に赴き、枯れていない野菜を移植していた。
そうして取れた夏野菜を双子と三人で大量に食べていた夏を思い出す。
確かにサーヤは弱い。
けれど、冷静になって考えてみれば食物を求めて一人他の星に行くこともあったのだ。
その時は体調を崩したりしなかったし、そもそも山を一人で切り崩して畑にするくらいだ。
部屋の中で乾物作る余裕があるなら大丈夫だろう。
……まさか勉強したいと言っておきながら本当の目的はそれじゃ……いや、やめよう。
俺は深く考えるのを止めた。
「……元気そうでしたか?」
そう聞くと、ピッコロさんは頷いた。
「そうですか」
俺は深くため息をついた後、ピッコロさんから離れて父さんのところに向かった。
が、いきなり悟飯さんが俺の前に立ちふさがる。
「心配じゃないんですか!? 本当にあの部屋でサーヤさんが過ごせると思ってるんですか!?」
両手を拳に変えてまくし立てる悟飯さんは躍起になっているようだった。
「し、心配ですけど、悟空さんもピッコロさんも大丈夫だって言ってるし……俺もサーヤのことをそこまで詳しく知っているわけじゃないので、もしかしたら俺たちとは違って平気なのかなって」
困惑しつつ答えると、まるで高熱の鉄にでもなったかのように悟飯さんの髪が燦然と燃え盛った。
「サーヤさんは弱いんです!! 知ってるはずでしょ!? 守ってあげなきゃいけないひとなのにどうして! いっしょに来た……仲間でしょう!? 死んでしまったら……!!」
段々搾り出すような声に変っていく悟飯さんは、泣きそうになっていた。
――どうして悟飯さんがそんなにムキになるほど心配するんだろう?
「わかったっ!! おめえ、サーヤを嫁にしてえんだろ!」
唐突に声を上げた悟空さんの言葉は、その場のいろんなものを吹っ飛ばしたと思う。
俺はぽかんと口を開けることしかできなかった。
「よ……!!!!!!!!! な、そ、ちが、そんな、お、お、お、お、お嫁さん!! とかじゃ!!!!」
悟飯さんは一瞬驚いた顔をしたあと、全身を茹で上がったタコのように真っ赤に染め、酸素を求めるかのように口をぱくぱくと開けたり閉じたりしていた。
「違ったか? ころっけ食べたいっていっつも言ってたじゃねえか。嫁にすればいつでも食えるぞ?」
「そうじゃない!! そういうんじゃないです!!」
悟飯さんは、ぎゅっと口を閉じてしまった。
「……好きなんですか? サーヤを?」
「ちが、ちが、違います!!!! そんな、そんなこと!! ただ僕は、心配、そう! 心配、で……」
尋ねると悟飯さんは真っ赤になりながらくしゃくしゃに顔を歪めた。
違うならそんな表情はしないんじゃないだろうか。
返答に困っていると、悟空さんが悟飯さんの前にしゃがみこみ「そんな顔真っ赤にして違うってことはねーだろう」と覗き込んでいた。
悟飯さんがサーヤを。……どうしよう。
深く考えずに安全だろうと思って亀ハウスに置いてきたのがいけなかったのだろうか。
そこまで仲良くなるとは全く想定していなかった。
「……悪い。さっきから聞こえていたんだが、もうそのくらいにしておいてやれないか」
声をかけてきたのは天津飯さんだ。ゆっくり歩いてくると悟空さんの横でとまり、立たせた。
「なんでだ? スキならスキでいいじゃねえか」
「サーヤは未来に帰ってしまうだろう……悟飯が不憫だ」
「? そりゃあ帰るだろうけど、いつかは地球に来るだろ? 待てばいいだけの話だ」
あっけらかんといったふうに悟空さんが言うが、俺は唸った。
サーヤはこの世界でまだ生まれてもいない。
この世界で出会うとなるとあと18年後だ。
いや、そもそもこの世界は未来が変ってしまうから、サーヤがくるとは限らない……。
にしても……。
『今』は背丈も年のころも一緒だからお似合いだが、未来は違う。
未来の悟飯さんとサーヤを頭の中で並べてみるが、悟飯さんの体がしっかりしているためか、どう考えても親子。
いや、せめて歳の離れた兄妹。
……………………………………犯罪じゃないか?
「……無理だよ……。友達にも、なれないのに……」
悟飯さんはぼそっとそれだけ言うと走っていってしまった。
「悟飯さん……?」
追いかけようとするが、ピッコロさんに肩をつかまれ阻まれた。背後から、天津飯さんの声が聞こえる。
「悟飯はサーヤに友達にはなれないと言われていた」
振り返るその先に、遠くを見つめる天津飯さんがいた。
「サーヤがそう言ったんですか?」
「ああ。未来に帰るから、と。そっとしておいてやれ。お前が近くに行けばつらくなるだけだろう。……悟空もだぞ」
天津飯さんはそれっきり、言葉を閉ざしてしまった。
「オラ、てっきり友達にはなってるもんだと思ってたぞ……」
「……」
天高いところにある神の神殿らしく爽やかな空気が漂う中、悟空さんが口に出した言葉は虚しく消えていった。
