85.におい

第二部 人造人間編

第三章 目的

85 におい

 精神と時の部屋では未来に帰った後のことをよく考えていた。
 どうしたら円滑に平和まで持っていけるか。
 それが頭を悩ませる案件だった。

 まず最初に、いきなりナメック星に行ってドラゴンボールを貸してもらえるか?
 ……無理じゃない?
 未来だとナメック星人が知っている地球人は軒並み死後だ。
 ブルマさんくらいしかいない。
 そのブルマさんはポルンガに会ったら十代まで若返るつもりである。
 それだと困るのだ。
 出来ることなら旦那さんが死んだ歳くらいで留まって欲しい。

 なので私はナメック星に赴いたとき、最長老さんに紙とペンを渡した。

「よろしくお願いします」
「ええ、構いません。地球の平和のためならば未来の私も喜んで力になるでしょう」

 最長老は微笑みつつペンを走らせる。
 サラサラという音を聞きながら、私は安堵の息をはいた。

 何度も考えて答えが出なかった私は、ナメック星にはブルマさんを連れて行かずに交渉しようと結論付けた。
 そして知らん顔してさっさと若返らせてしまうと。そうすれば同じ願いは叶えられないはずだから十代になるのは阻止できるはずだ。

 最長老に一筆書いてもらったのは、ブルマさんがいなくても有利に事を進める切り札になればと思ったからだ。
 まあダメだった場合、ブルマさんを連れて行かないとドラゴンボール使えないんだけど。

「これでよろしいですかな」

 最長老から差し出された紙を丁寧に折り、私は〈かばん〉に入れた。
 ふう。あとは――――。

 ……と、そこで目が覚めた。

 頭がぼーっとする。
 幾度か瞬きをすると、意識がハッキリしてくる。
 夢を見ていたらしい。

 部屋が明るいところからして、まだ昼かな。
 しかし眼鏡が無ければなにも見えない。
 手探りで周辺を探す。
 すると近くのキャビネットの上に金づちが置いてあるのがわかった。

 ――――なぜ金づち。
 金づちって日曜大工で使うやつじゃん。釘をトントン打ち付けるやつじゃん。
 なんで私の部屋のベッド脇に?
 ……殺人の予告か?

 かなり恐かったので金づちはベッドの下に隠した。
 そのとき、服の手ごたえがおかしいことに気づいた。掴んでまじまじと見てみる。

 ……寝る前に着ていた服と違う。
 なんで私こんなフリルいっぱいのファンシーなパジャマ着てんの?
 え? 夢遊病?

 とっさに首元に手をやると、巻かれた布の感触はちゃんとあった。
 念のため首の後ろも確認すると、そこはちゃんと隠れていたので、ほっと胸をなでおろした。
 いやしかし、恐いことには変わりない。

 しょうがないので時計を探す。
 壁掛け時計は1らへんに短い針がかかっているのをかろうじて視認できた。

 確か寝たの昼の12時くらいだっけ。
 そんなに寝てないって事はやっぱり皆が言うほど疲れてなかったんだ。

 とりあえず金づちと服のことは置いておいて、私はトイレに行こうとベッドから降りた。
 膀胱からの指令には逆らえなかったからだ。
 トイレで服を下ろすと息を飲んだ。

 なんかパンツが総レースなんだけど……こんなの私持ってないよ……?ってか寝る前は着てなかったのになぜはいている?

 用を足し終え、ベッドの上に腰掛けた私は両手で頭を押さえた。

 寝ている間に何が起こったんだろう。金づちも服も全く記憶が無い。
 さーと血の気が引いていく。
 ―――まじめに夢遊病だろうか。

 そう思い悩んだ時間も一時だった。
 いきなり電話が鳴って、右往左往しつつ出ると相手はトランクスさんだった。

「おはようございます。体は大丈夫ですか?」
「普通です」
「……本当に起きてる?」
「起きてますよ」

 返事をしたら、ブツンと切られた。
 なにもいきなり切ることないじゃないか。
 ……とりあえず着替えよう。
 このファンシーなパジャマではどこにもいけない。

 見えない目を細め、〈かばん〉をとる。
 〈かばん〉はさっきキャビネットに入っていたことを確認済みだから中をあけて着替えを――……ない。

 そうだった。
 まともに着れる服はピッコロさんから貰ったものしかなかったんだった。
 その服は一体どこへ消えたんだろう。
 試しにクローゼットを開けようと取っ手に手をかけたとき、ノック音が聞こえた。

 だ、誰だ! いやわかってる! トランクスさんだろう? さっき電話してきたもんな! でも私はパジャマだ!
 こんなフリフリのパジャマを着ているところを見られるのは恥ずかしい!
 ……ちょっと待たせておこう。

 とりあえずクローゼットの中身を確かめてからでも遅くないはずだ。
 なので無視して開けた。
 服がたくさんあったので、その内のひとつを手に取ったとき、プシューと扉の開く音がした。

 マジか! 鍵の意味!! ない!!!!

 あわてて手に取った服で前を隠し、扉のほうを見ると金髪の人が立っていた。
 ……だれ?

「ノックしたんですけど。気付きませんでしたか?」
「あっトランクスさんですか!?」
「また寝ぼけてるんですか?」

 金髪の人は超サイヤ人になったトランクスさんだった。眼鏡ないからぱっと見わからなかった。
 近くで見ると髪が逆立ってるのがわかる。
 あれ? なぜに超サイヤ人?

「ああ、悟空さんに薦められたので俺もやってるんです。そんなことは置いておいて、とりあえず風呂でも入ってきたらどうですか? はい、これ」
「はあ、ありがとうございます……風呂?」

 受け取った眼鏡よりも気になる単語に反応してしまった。
 見えるようになった目で改めて表情を確認すると、その人は目を細めてかすかに口角を上げた。

「あれから二日間寝てて……臭うし」

 痛恨の一撃。

 あらわすとしたらそんな感じ。

 トランクスさんは表情とは裏腹に、とても攻撃的な一撃を持ってして私の心に大ダメージを与えた。
 クリティカルヒットだったぜ……。
 HP残り1になりながらふらふらとバスルームに向かい、これでもかと体を洗いまくった。
 終いには浴槽に洗剤入れてシャワーで泡風呂まで楽しんでやった。
 しかしながらHPは微量にしか回復しなかった。

 あああ、臭うって! 臭うって言われた!! 一応うら若き乙女なのに!

 バスタブをげしげし蹴りながら悶え苦しんでいたらやっぱりHP減った。……ほかほかになったはずなのに!
 思い出すだけで心身ともに疲労困憊になるわ。

 伸びた髪に櫛を通していると長さに鬱陶しくなるがかまわず乾かす。
 爪も切って鏡で全身確認して、自分なりに完璧だと思ってもまた思い出して唸る。
 もうやだ、ここから出たくない。トランクスさんに会いたくない。
 そう思っても体は正直で、腹が鳴った。

 くそっお腹がうらめしい。
 でも二日食べてないなら腹も減るのは当たり前だ。
 そうだ。二日入ってないなら臭うのも当然だ。当然だけど……! 穴があったら入りたい!

 泣く泣くあつらえられた服に袖を通す。
 着たのはワンピースだ。
 クローゼットの中身は今の自分のサイズの服らしいので、適当に取ってきたんだけど、ぴったりなのが恐ろしい。

 裸、にされて計られたんだろうか。
 自分の意識のない間になにが起こったんだろう。
 おかしいな……風呂に入ったはずなのに寒くなってきたぞ……。

 お風呂から上がってきた私は、予め言われていたリビングのような一室に足を踏み入れた。
 そこに入って一番に目に付いたのはテーブルだ。丸テーブルの上にティーセットが並べられている。
 思わず両手で口を押さえて息を飲むぐらい反応した。
 前世でも実物を見たことは無かった。はじめて見たのだ。

 サンドイッチとケーキが詰まれている三段のスタンド、アフタヌーンティーセット!
 アリスみたい!

 テンションが上がった。
 それと同時に小さく「あ」という声が聞こえた。
 声のするほうを見たら黒いTシャツ姿のトランクスさんが近くのソファに座っていた。

 い、いたのか! 気づかなかった! 乙女に向かって臭うって言ったデリカシーのかけらもない男め!
 ちょっと構えたのはとっさに出た防御反応だろう。
 トランクスさんは立ち上がって言った。

「……座ったら?」

 あ、れ……。顔がさっき臭うって言われたときと同じだぞ? またなんか言われるのか?
 私は恐る恐る、ティーセットの前に座った。

 トランクスさんはふたつカップを並べ、どうやら紅茶を入れてくれるらしい。
 なんというか、気軽に声も掛けづらく、私はその作業をじっと見つめていた。

「クリリンさんと悟飯さんが来た時のことを覚えていますか」

 かちゃりと音を立てながら置かれたティーカップからは湯気が立っている。
 「食べてもいいですよ」と促されたのでサンドイッチに手を伸ばしたが、覚えているか、という質問に対しての答えはNOだ。

「じゃあ母さんと……祖母が、寝ている間世話をしてたけどそれは? それも覚えてない?」

 全く記憶にございません。

「自分で着替えてたし、食事もしてたっていってたけど」

 サンドイッチを咀嚼しつつ記憶を探るがぜんぜん思い出せない。
 私は頭を左右に振った。
 着替えも食事もしていた? 無意識で?
 にわかには信じられなかった。

 いったいなにを着ていたんだろう。そしてなにを食べたんだろう。……金づちはいったいなんだったんだろう。

「あの、ベッドの隣に……その、金づちがあったんですけど……」

 飲み込んで恐る恐る聞いてみると、トランクスさんは眉を寄せて黙殺した。
 ……聞いてはだめだったようだ。沈黙がやけに恐く感じる。

「本当に覚えていないんですね……」

 ため息が聞こえた。

「む、夢遊病……?」
「そうなるぐらい疲れてたってことですよ。部屋では大丈夫だった? 寝込まなかった?」

 心配そうな声音で問いかけられ、私は素直に答えることにした。

「最初の二日くらい……寝込みました」
「やっぱり」
「いや、でも、死ななかったし! 大丈夫でした!」
「そういう問題じゃない」

 顔を上げると鋭い視線で射抜かれた。
 見たことがある眼差しだった。
 最初に剣振り下ろされた時の顔。

 その顔はくしゃっとゆがんだ。

「どれだけ心配したと思ってるんですか。一人で部屋に入って、出てきたら倒れて。二日も起きない……! どうしてそう無謀なことをするんですか! おとなしくしてるって言ったじゃないか!」

 怒鳴られ反射的に身を縮ませた。

「ご、ごめんなさい……」

 思わず謝罪の言葉が出た。
 言い訳するつもりは無かった。けれど、なにより剣幕に気圧された。

 食べかけのサンドイッチを置いて俯いていたら、長い長いため息が聞こえた。

「……眠ったあと神殿に戻ったら、すぐに母さんから呼び戻されました。なんでか、わかりますか?」

 ティーカップから立つ湯気が薄くなった頃、少し低くなった声がかけられた。

「球体に包まれてしまって手が出せないって泣きつかれたんですよ」

 私の息は止まるかと思った。

 反射的にトランクスさんを見ると、恨めしそうな顔をして組んだ手で口元を隠している。

「来たら母さんは興奮して手が付けられないし、殴れば壊れたけど起こしてもそのまま寝ちゃうし。しかも壊しても壊しても元に戻る。そのうちめんどくさくなって用があれば金づちで叩いてもらうようにしたんです。……無意識でやってるでしょ? ごまかすのにすごく苦労したんだけど」

 金づちってそれかー!!
 たぶん起きた時よりも青くなってたと思う。
 確かに私は精神と時の部屋でほぼ〈壁〉を張ってる状態だった。
 寝てるときに自動で出て来る様になってたんだから、気をつけなきゃいけなかったのに!!
 ああー!! 私のばか、あ……ん? ちょっと待って……? トランクスさん、最初になんていったっけ?

「…………クリリンさんと悟飯さんが来た……って言いました?」
「言いましたよ」

 トランクスさんはカップに指をかけて紅茶を飲もうとしている。
 私は手元のカップが揺らめくほどに身を乗り出した。

「ば、ばれた!?」

 返事は無かった。

 あああああ!
 私は両手で顔を覆った。

 どうしよう皆に話していたら!!
 ピッコロさんや悟空さんは別にいい。問題はベジータさんだ。
 だってナウネ人と明らかに違うってばれたら、「騙したな殺す」の未来しか頭に浮かばない。

 まずい。逃げたほうがいいか?

「……大丈夫です。そこまで心配しなくても」

 その言葉に顔から両手を取ると、その拍子に眼鏡が落ちた。

 私の生命線が!

 テーブルの下に転がったであろう眼鏡を追いかけ、もぐりこもうとしたら止められた。
 「俺が拾う」といいつつトランクスさんは座ったまま体を傾けると、すぐさま姿勢を正した。
 そして眼鏡をこちらに向けて差し出してきた。

「あ、ありがとうございます……」
「……もう、帰るまでここにいてください」

 その言葉に眼鏡を受け取ろうとした手が止まった。
 今まで聞いたどの声よりも切実さというものが感じられた。

「ナメック星にはいけるようになったでしょう。サーヤがするべきことは無くなったはずだ。ばれたら俺がなんとかするから、なにもしないで黙っておとなしくここにいてください」

 え、いや、それは……。

「返事をしないってことは、まだなにかあるんですか」

 黙ってたらすごく低い声で追求された。もちろん、顔だっていつも通り怖い。

 大人しくしたいのは山々なんだけれども、まだ案件を抱えていてですね。
 確認したいことがあるんで、まだそうですね。大人しくっていうのは無理になってしまってですね。

「いやあ……まあ、ぼちぼち……」
「…………」

 沈黙からすごく怒っている気配を感じた私は、速やかに〈かばん〉の中からペンとノートを取りだした。
 そしてカリカリとその名を書いた。英語だ。それくらいなら私にも書ける。

「ミス……は?」

 ノートを見たトランクスさんの声音は驚きというよりも怒っているように聞こえ、私は思わず俯いた。

 確かにナメック星に行ける様になって目的は達せられた。
 だが、格別重要なことが残っている。

 ミスター・サタンである。

 未来に帰った後、万が一魔人ブウ編に突入した場合、彼の力なくして倒すことはできない。
 しかし、未来では死んでいる可能性が非常に高い。
 生き返らせたとしても、そのままではセルを倒したという英雄にはなれないため、ちょっとした細工が必要になる。

 知ってる人なら誰でも思いつくだろう。
 人造人間を倒した英雄に仕立て上げるのだ。
 そしてその細工にはどうにか接触、つまり気配を覚えることが必須である。

 できることなら早めにやっておきたい。
 セルゲームの真っ只中に確認するのも巻き込まれたら一大事だし、終わった後はたくさんの人に囲まれるだろうから気配がわからなくなりそう。

「今後の地球にはなくてはならない人なので、どうしても気配を覚えたいんです」

 トランクスさんから怒りが消え、困惑気な顔に変わる。
 その隙を見逃さず、私はすばやく眼鏡を取り戻した。

「……その名前はサーヤが眠っている間にテレビでよく聞くようになったけど……あんなやつが?」
「あんなやつとは失礼ですね。この人は本当に英雄になる人ですよ?」
「……英雄……」

 トランクスさんはそういってテレビをつけた。
 金持ちらしくでかでかと壁面に設置されているテレビに、おなじみであるアフロヘアーが映った。
 その人は今までの真面目な雰囲気を一瞬で消し去るほどのインパクトを持ち、私の口からは空気が漏れた。

「ぶふぅ!」

 ちょっと! 漫画のままなんだけど! うっそ! 実際いるんだそんな人!

 一気にこみ上げてくる笑いをかみ締め手で口を隠した。

「……信じがたいな……笑ってるし……本当に必要?」

 ……事故だ!
 あんなんみたら誰でも吹き出す!

「必要なんです。どうしてもいないとダメなんです。ちょっと会って来るだけですから! 危なくなんてないし、覚えてきたらすぐに帰ってきます!」

 トランクスさんは口元に手を当て考え込んでしまった。

 まあ信じられないだろうな。
 再度テレビに目をやると今度はファイティングポーズをとっている。
 ぐっ、見ると笑ってしまう!

 ……こんな見掛け倒しの人が英雄になるなんて、当時の登場人物はおろか読者だって予想もしてなかっただろうさ。

 でも居ないとブウが最終的に仲間にならない。
 いや、ブウはいいとしても問題はビーデルさんだよ。
 未来でまだ未婚だったら生き返った悟飯さんとくっつけないといけない。
 そうしないとパンちゃん生まれないじゃん。
 未婚かどうかを確認するためにも最低限ミスターサタンの気は覚えて帰りたい。ビーデルさんもできることなら覚えたい。

 ちらっとトランクスさんを見るとまだ考えているようだった。
 こうなったら長いんだよな……。

 未来で一緒に買い物に行ったときのことを思い出し、私はそっと椅子に座った。
 ミスターサタンのおかげでいくらか和らいだ空気の中、若干乾いたサンドイッチを咀嚼し、冷めた紅茶を飲む。

 この具なんだろう。肉? おいしいな。
 そういえばこの三段のセットって下から順に食べていくんだよね? それしか覚えてないけど、いまの私の状態だとケーキまでたどり着けるか自信がないな。
 まあいいか。トランクスさんが食べるだろう。

 二段目のスコーンにジャムをたっぷり塗ってぱくつくと、トランクスさんが顔を上げた。

「……わかりました。俺も一緒に行きます」

 なんですって? 一緒に行く?
 口の中にまだスコーンが入ってるから喋れないけれど、相手はそんなのお構いなしに話を続ける。

「明後日行きましょう。それまでに居場所を調べておきますから、おとなしくしていてください」
「……修行は? セルゲームまで日数そんなないですよね?」

 スコーンを食べ終えた口の中はぱさついているが、気にしている場合ではなかった。

「この数日、悟空さんたちが稽古をつけてくれたんで技を教えて貰ってたんです。それから部屋に入ったほうが効率よく修行できるかと思って、今まで入らなかったんだけど……やめます。今から入ってきます」
「え? 今から?」

 驚いてしまった。二日たったって言うからとっくに入ったと思ってたよ。

「ええ。なので明後日までは絶対にここから動かないでください。決して一人で行こうだなんて考えないように。絶対に迷うし、不審がられます。俺だったらいくらでも誤魔化せるけど、サーヤは無理でしょう。異星人だし」

 考えてみると確かにそうだ。私が一人で行った場合、理由が難しい。
 素直にミスターサタンに会いにいくっていうのもおかしいしな。
 ……トランクスさんをこれ以上怒らせるのも得策ではないと思うし……。
 私は頷いた。

「わかりました。おとなしく待ってます。でも、本当に大丈夫ですか? その、……修行」

 トランクスさんはお茶を一気に飲んで立ち上がると、返事に気を良くしたのかほんの少しだけ口角を上げた。

「あまり根をつめすぎてもいけないって言われてしまったので、ちょうどいいです。サーヤは無理しないで休んでいてください。もし守らなかったら……」

トランクスさんは目を細めて言い放った。

「眼鏡、没収します。見えないまま未来にかえることになりますよ」
「え、えー……」

 じゃあ、いってきますから、と足早に去っていったトランクスさんの背中を私は呆然と見送った。

 なんと強引な。前までそんなことなかったのに。
 ……当然といえば当然か。
 部屋にはいって二日も寝てるんだもんね。
 そりゃ誰でも心配するわ。
 でも、あんなに怒られたのは初めてだ。
 雨が降った日、畑のことがばれた時はため息だけだったのに。

『どれだけ心配したと思ってるんですか』

 思い出したのは真剣に怒っている顔だ。

 なんだろう。
 心配をかけて悪いなと思う反面、じわじわと湧き上がるものがあるのだ。
 振り払うかのように手元のお茶を飲み干して、新しいものに変える。
 ティーポットの中で舞う茶葉は、何故か喜んでいるように見えた。

 私は限りなく眉を寄せた。
 ……気のせいだ。
 怒られてうれしいなんて私はマゾか。
 いや、断じて違うと思いたい。

 ていこつの辺りがこそばゆいような感じがしたが、身を捩ってそれを打ち消し、スコーンを口に入れた。
 と、同時にトランクスさんが戻ってきた。

「忘れた! 〈かばん〉の説明書ください! 部屋で読みますから!」

 私から見ればいきなり目の前に現れたように見えたのだ。
 よってびっくりしすぎて口からぽーんとスコーンが飛んで行ってしまった。


◆用語説明◆
HP……ゲームでいうヒットポイント。ライフ。0になると戦闘不能(行動不能)になる。

ほかほか……げんそうすいこでんというゲームから。お風呂に入れる。入った後ほかほかになり、HP回復し続ける。リメイクされるよ!2023年

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