第二部 人造人間編
第三章 目的
89 ハンバーガー
やることがない時、テレビというのは手軽な娯楽である。
前世ではあるのが当たり前だった。しかしスマホがあるとそんなに見なくなったテレビ。
現世でははじめて見るテレビも前世とは結構内容が違っていて、面白い。
パンチーさんと買い物したり、髪切ったり。やることをやってしまえば暇になる。
そんな日の夜、ほぼミスターサタンとセル特集しかやっていなかったが、アナウンサーの掛け合いが大げさでつい見てしまっていた。そしてCMである。
≪昼食にいかが? スピーディーでスマート。それでいてスペシャルなハンバーガー! 3Sにぜひいらして!≫
昭和的なそのCMを見たとき、私のよだれはあふれた。
ハンバーガー! バンズにパテを挟んだ魅惑の食べ物! 今世ではまだ食べたことのないハンバーガー!
うああああああ!
思い出すのはあれだ。奇天烈なピエロのほう。細いポテトが特徴のマクドナルドだよ!
―――食べたい。
私の頭の中はそのことでいっぱいになってしまった。
きっと目はハンバーガーになっていることだろう。
ええ、もちろんお昼はそれにしようと決めていました。
「せっかく外にいるんだから、外食しないと損です!」
私はそういってハンバーガー屋さんにトランクスさんと共に入った。
うわあうわあと言いながらトランクスさんに全種類買わせ、ほくほくしながら車に乗りこんだ。
エアカーは酔うし、埃つく。だから普通の車で行こうとごり押しし、今に至る。
トランクスさんが車を走らせている横で大きく口を開ける。
はむん。
かじりついた瞬間に広がるパテの肉汁。そしてソース。ほんのり香る燻製のにおいはベーコンか。
もぐもぐもぐ……
あのピクルスは入ってないけど……うまい。
「……父さんが、そんなことを?」
私は飲み込むと返事をした。
「一体いつになったら作るんだ。さっさとしやがれ。これで終わったと思うなよと言われました。私はなにを作ればいいんでしょうか」
そう続けるとトランクスさんは「うーん」といいながらハンバーガーにかぶりついた。
時間短縮のために車で食べることになったのだが、私はそのタイミングを逃さなかった。
実は忘れていなかった本題をここぞとばかりにぶつけることにしたのだ。
ベジータさんの謎である。
解けなければ私はゲームオーバーになるかもしれないじゃないか。
「俺にもちょっと……わかりません」
賢者は知恵を貸してはくれなんだ。
がっくりしつつ唇についたソースを舐めるともう一度かじり付いた。
あーうまい。たまねぎとトマトソースがとっても肉と合う。
「でも……父さんと最初に部屋に入ったとき、〈かばん〉の中のものを一緒に食べたので、その中のどれかが口にあったんじゃないですか?」
「むんぐ?」
なんだって?
〈かばん〉に詰めた弁当だと? そんな昔のこと覚えてないよ。
「大丈夫ですよ。明後日にはセルゲームですから。父さんも構ってるほど暇じゃないだろうし、俺もいるし」
「本当よろしくお願いします。意味わからなくてすごく怖いんで」
「ええ」
私は頷いてまたハンバーガーにかぶりついた。
このハンバーガー。
レギュラーサイズを購入してもらったのだが、とても大きい。
私の両手ではあまる。
食べ切れる自信など微塵もない。
そんな大きいハンバーガーだが、隣の運転手は事も無げに食べている。
ちらりと見ると、左手にハンバーガーを持って右手でハンドル操作していた。
しかもたまに右手に飲み物持って左手の小指でハンドル操作してる時があるのだ。
……ありえない。
見たときは素直に感心してしまった。
危ないからやっちゃダメ、なんて注意する気はさらさらない。
トランクスさんだぞ? 事故りそうでも無理やり止めそう。
それに事故ったら最悪〈壁〉出して自分の身は守ればいい。知り合いに見られなければ問題ない。
だから放置している。
でも流石に長い髪では食べにくいだろうから、髪ゴムで結ってあげた。
ピンク色のフリルがついたシュシュで。
別に5人の美女を吊り上げるモテ男への腹いせってわけじゃない。
パンチーさんから貰ったものがたまたまあっただけだ。
たまたま他のがなかったのだ。
もし見つかったらそう言うつもりだ。気付かれる前に取るけど。
そんなトランクスさんに時たまポテトを給仕しながら、ミスターサタンの自宅と思われるお家に着いたとき、買ったハンバーガーは残り半分に減っていた。
「おおきい家ですねえ……」
ミスターサタンの家は豪邸とはいえなくても十分大きい家だった。
「そうですか?」
「そうですよ。あなたが住んでるところが大きすぎるんです」
かわいいシュシュをつけたトランクスさんは、よくわかっていないようだ。
CCと比べたらすべての家が小さいよ。
不毛な家比べはやめてとりあえず家の中の気配を探ってみることにする。
静かにするように言って目を瞑ると辺りにちらほらと気配が立つ。その中でも家にいる人は一人だけ。
……なんだか気が弱弱しいというか、小さい。
不健康そうだ。
この人はビーデルさん? それとも奥さん? ともかく覚えておこう。
そのまま集中していると後方に特徴的な気配が近づいてきた。
一般人より気が大きい。中々こういう人はいない。
そう思っていたらその気配は立ち止まった。
「ねえ、なにしてるの?」
「え?」
「あっ!」
目を開けると同時にトランクスさんにぐいっと服を掴まれた。
「あなたたち誰? ミスターサタンのファン?」
見れば、髪の長い女の子が腕を組んでこちらを睨んでいるではないか。
……どちら様?
私は頭を傾げた。
その子はふわふわでかわいらしいピンクのワンピースを着たお嬢様……いやお姫様かな?って感じの美少女だった。
「ファンなら節度守んなさいよ。ウチにきてもパパならいないわよ」
「パパ?」
「ファンなんじゃないの? 娘知らないってモグリ?」
「娘って……ビ、ビーデ」
美少女は訝しげにこちらを見ながら、ポケットからなにかを取り出した。
「……もしもし、保安官? 家の前に不審者が二人いるんだけど」
「なんでもないです! すみませんでした!!」
「むぐ!!??」
トランクスさんは私の口を押さえ抱えた。
抵抗するまもなくそのまま止まるまで、私は小脇に居続けることになる。
なんだかアメフトのボールになった気分だった。
「最初に言っておくべきだった……。サーヤが知っているのは悟空さんの記憶なんですもんね。それじゃあわからないのも無理はない」
二人で空を飛びながら話すのはビーデルさんのことだ。
「すいません……まさかあんなかわいいとは……全くわからなかったです」
ビーデルさん……原作で悟飯さんに会った頃のあなたは、とってもスポーティな格好をしていたではないか。
なのにあんな、パンチーさんが勧めてきたふりっふりのワンピースを着ているなんて。
とってもかわいかったけどさ! 予想外だよ!
「結構有名らしいですよ。サタンの娘だから強いって。格闘技の少年部門を総なめにしているようですね」
えー……あんなに女の子らしいのに。
とりあえずCCに帰り、夜になったらまた出かけることにした。
サタンが家に戻るならわざわざ忍び込まなくてもいいからね。
なのでトランクスさんは動向を調べてくれるらしい。
私は夕ご飯の支度を手伝おうと二人でリビングに行ったら、ちょうどミルクの時間にかち合った。
「トランクスなにそれ! かわいい!」
「え?」
ブルマさんがトランクスさんを指差して笑う。
「あっ!!」
取るの忘れてた!
あわてて手を伸ばすも、トランクスさんのほうが早かった。
それをまじまじと見て青年は固まった。
かわいいフリルにはレースもついていて、まさにプリンセス!なシュシュを手にとって突っ立ているのはちょっと滑稽に見える。
トランクスさんはしばらく沈黙したあと、絞り出すような声で呟いた。
「確か昼でしたね。それから今までずっと……?」
「え、えへっ」
笑ってごまかしてみたが眉間の皺はいっそう深くなった。
「いつもただの輪ゴムなのに、なんでよりによってこれなんですか!」
「た、たまたまですたまたま」
「たまたま!? わざと選んだようにしか思えない!」
「手に取ったのがたまたまそれだったんです。そのときそれしか無かったんです!」
「絶対嘘だ!」と怒鳴られたので、駄目もとで謝ってみた。
「本当です。急いでたし、悪気があったわけではなくて……ごめんなさい」
意図してやったわけではないが、許して欲しいとお願いする時、上目遣いになってしまった。
身長差のせいだな。
そしたらトランクスさんはたちまち眉間に皺を限りなく寄せ、口をへの字にして黙りこんだ。
なにその嫌な物見たわーみたいな反応。
ナンパしてきた女の人たちに向けた顔と全然違うではないか。
ちょ、私の顔そんなダメ?
……わかってたけどちょっとへこんだ。
いや、かなりへこんだ。
せめてなんか言ってくれよ。
「ぶっふう!! おも、おもしろ! アンタら面白い!」
ブルマさんの笑い声でなあなあになったのでその場は収まったけど、トランクスさんの反応が地味に尾を引いた。
トランクスさん自体は晩御飯までには普通に戻ってたけどな!
お昼の残りは晩餐になった。
手のついていないハンバーガーは未来に持って帰るとして、食べかけは美味しく処分しておこうと思ったのだ。
その際ベジータさんにまたなにか言われるかとどきどきしていたが、今日はそんなことなかった。
その後こっそりミスターサタンの家に向かう。
トランクスさんは留守番だ。帰ってくるとき着地点がいないとめんどくさいから。
「お帰りなさい。覚えられましたか?」
終えて、瞬間移動したとき言われた言葉だ。
返事をすると微笑まれた。
見慣れたその顔に微笑み返すと私は言った。
「はい、後は倒すだけです」
「明後日、ですからね」
部屋にあるテレビにはセルゲームの予告が繰り返し流れていた。
