第一部 旅編
第一章 始まり
7 馴れ初め
本に書かれていたものがそこにある。話が通じる。
真実を知って胸に沸き起こる感情は喜びだ。
でもドラゴンボールひゃっほーいとかではなく、知ってる物があったわーい!の気持ちに近い。
だから、私は混乱したのだ。
まさか自分がサイヤ人ハーフだったとは。
信じられないなー。……信じられないなー……。
いきなりそんなことを言われても困るというのが正直な感想だ。
フリーザ発言から始まり、サイヤ人ハーフ発覚まで、今日起こった出来事濃すぎる。
おかげでキャパシティ超えた。
なのでくしゃっと床に潰れるように倒れたのだが、お父様に容赦なく起こされました。
ええ、話し合いは継続中です。
丸い形状をしている宇宙船の真ん中。そこに三人座っても狭さは感じられない。
なかなか大きいこの宇宙船をどうやって両親は隠したのだろうか? そもそも壊れていないのだろうか?
素朴な疑問が頭の中に湧いた。
「地球へ行くって……この宇宙船壊れてないの?」
「対外的には壊わしたことになってるけど、これ自体は壊れてないわ。そうでしょう?」
母が言うには父を下ろした後、宇宙船を隠し一部分だけ役人に渡して事なきを得たらしい。
そんな馬鹿な、と思ったけれど、母がニコニコしていたからこれはきっと無理やり通したんだろう。
母は昔ちょっと偉かったようだからちょちょっとやっちゃったんだきっと。詳しくは知らんけれども。
「……地球のデータも入っている。だから行けるな」
「へえー。ここからだとどれくらいで着くの?」
父は宇宙船の画面に向かって操作したあと、画面に映る文字を見て淡々と言った。
「ざっと、20年だ」
「にっ」
なが! 長すぎるよ!
「これでも早い。別のルートだと70年かかるぞ」
「ひっ」
おかしくないその違い!?
地球につく前にご臨終じゃないか!
「途中で補給することを考えれば20年以上かかるだろうが、それしかない」
「ちょ、ちょっと待って? フリーザっていつ死んだの? どれ位前?」
「ん? ……大体……10年ぐらい前だな。……そんなに経っていたのか」
父は画面と睨みあったあと、呆然としたふうに言った。
その答えに私は鉛筆とノートを用意し、頭の中にある記憶の引き出しを開ける。
地球とセーリヤだと暦が違うから一年といってもずれてしまうんだけど、幸いにもフリーザ軍の暦はわかったのでそこから計算してみる。
すると、着くころには地球のサイヤ人は大体世代交代しているようだ。……計算があってれば。
Z通り越してGT世代に代わるのか……。
GTそんなに見てなかったからわかんないけど、GTといえば―――
パン! トランクス!
あと悟天と……ブラ! マロン!
あっ、おいしいな。
別に20年かかってもいいかもしれない。むしろその方がセルもブウも破壊神も終わって地球平和だ。
……わざわざ行って住むならそっちがいいな。
「……20年のほうでいいです」
せっかくドラゴンボールの世界に生まれ変わったんだからできることなら皆を見てみたい。
どんな顔なのかすごく気になる。
リアルタイムでテレビでやってたのを見てたんだ。これ言うと前世の歳ばれるな!
漫画は何度も読み返していたし、最新映画が公開されたときは見に行ったさ!
細かいところまでは覚えてないけど、大体は覚えている。
いけるなら行かない手はないよね! 両親と一緒なら怖い物なんてないさ!
家族みんなで地球に移住する。
そういうことにあっさり決まった。
話のついでに「地球にはカカロットさんとベジータさんがいらっしゃいますよ」と父に話したところ、機嫌がいいのか珍しく笑ってこうおっしゃった。
「カカロットに会ってみたい。闘ってみたいが……ベジータは殺す」
なんてことを言い出すんだこの父は!
「ダメ!」
「なぜだ。生かしていても碌なことにならん。フリーザに滅ぼされたこともわからん馬鹿だからな」
「それでもダメ! 最終的にはいい人になるからダメ!」
私はぶんぶんと頭を振って拒否した。
「ふん。あれが? ……まあいい。向こうも同じだろうしな」
そんなふうににやにや笑う父は、これまで見たことがないくらい楽しそうに見える。
……そういえば、サイヤ人って戦闘狂の集まりだったな。
地球に行くのも危ないような気がしてきたが……まあ孫悟空がいればなんとかなるだろう。
私は主人公に丸投げすることに決め、頭の中で引っかかっていたことを言葉にした。
「……ねえ、母さんに落とされたってどういう意味なの? どうやって〈壁〉抜けれたの?」
さっきそんなこと言ってたよね?
ここらを制圧していたフリーザの部下ってことはこの星の外から来たってことだ。〈壁〉があるのに。
なんでだ?
気になったことを単に聞いただけなのに、父は苦いものでも食べたような顔をして黙り、そのまま外に出て行ってしまった。
「あら、あらあらあら。照れてしまったのね」
照れ……? 父がか?
想像できずにいると、母はほんのりと頬を染めて手を口元に当てた。
こちらは間違いなく照れているように見える。
「聞きたいの?」と言ってきたので深く考えもせずに頷いた。
「晴れた春の日にね、ちょうど家の真上に来たの。確認したら宇宙船だったのよ。敵だとは思ったんだけど、その頃ちょうど商人との貿易も始まっていてね。殺すにしてもどこの誰か確認してからじゃないと面倒なことになるから、とりあえず〈壁〉で包んで下ろしたんだけど……」
……。想像してたより殺伐……。
「ちょうど地面に置いたら蓋が開いて、中に入ったら……腕と脚から血を流しているあの人がいたの」
「……そ、それで助けたの?」
母優しい。それで助けて恋に落ちたのか。うわー王道。
「血みどろになっていても意識があって……そんなあの人の目が、すごく鋭くて。なんていえばいいのかしら……近づいたら殺されそうだったわ……」
ああ、それで看病して父がほだされたんですね。
あっこそばゆくなってきた。
砂を吐きそうになりながら身を捩っていると、うっとりとしながら母は言った。
「その目をどうしても屈服させたくて。気がついてたら乗ってたの」
……どこに。
口から出そうだった言葉を私はぎゅっと唇を引き締めて止めた。
聞いたら駄目な気がする。
気がするんだけど、そもそも聞き間違いかもしれない。
まさかそんな、こんな乙女のように恥じらいを含んだ瞳をした女神が下ネタなんてと、私は自分の耳を疑った。
しかし母は頬を桃色に染め、微笑みながらおっしゃった。
「……かわいかったわ。あの目が無力感に変わるところ」
どうしよう。
真面目に聞いちゃいけないものを聞いてしまった。
それもう父絶望したのでは?
え? これは恋? 恋なの? 私には理解できない。
経験値が少ないからかな?
「どうしてもここの男は好きになれなくて拒んでいたけど、きっと見かねた神様が贈り物をしてくれたのよ。いい仕事するわよね」
「は、はあ。そうですね。運命的で……」
やっとの思いでそれだけ言うと、母は肯定するようににっこりと笑った。
それがあんまりにも幸せそうな笑顔だったので、もうなにも言えなくなってしまった。
ここの人たちの顔は整ってはいるが、父のようなワイルドなイケメンはいない。どちらかと言うと儚げな美少年系が多い。
しかし、いないからって。
乗ったってことは襲ったってことでしょ? 手足なくてもサイヤ人を。
……信じたくない。
目の前の女神様は肉食女子だったらしい。
幸せそうだからいいんだけど。
「そういえば地球ってどういうところ? サイヤ人は皆あの人みたいな顔をしているの? 二人しかいないの?」
おっかしいな。好みの男がいるかどうかという質問に聞こえてきたんだけど、耳でもいかれたかな?
耳をとんとんと叩き、私は地球についてをかいつまんで話した。
地球に移住するという方針が決まれば、後は準備をするだけだ。一気に荷物などを準備すると怪しまれるかもしれないので、徐々に、少しずつ確実に準備をすることにした。
こんな星にいても未来なんて真っ暗だからね!
