第一部 旅編
第二章 旅立ち
16 兎のヘタ商会
「おねえちゃん……うちゅうせんみたいなのがいっぱいある」
「うわあ……すごーい。いろんなひとがいるー」
大きい宇宙船に引っ張られながら星に着くと、そこにはたくさんの宇宙船が並んでいた。
私にはよく見えなかったが、いろんな人がいるとも双子が言っていたので他種族共栄の星なのかな?
「誰か来たよ」
窓に引っ付いて様子を伺っていると、役人みたいな制服を来た人が窓の外で手を振り、叩く動作をした。
覗き込んできた役人さんは強面の渋いおじさんで、色が黒い。髪も肌も、ついでに服も。
その人は出入り口のほうを指さす。
出ろということか?
確認してやばそうだったら逃げようと決めて、自分だけ外に出る。
「大人を出してくれ。確認したいことがあるんだが」
「いません。私と弟妹しかいませんので、私でもいいでしょうか」
警戒しながら言うとその役人さんはいかつい目を丸くさせ、口をへの字に曲げた。
そしてどこかに連絡すると、私たちを見て頬を掻いた。
「……今確認してるから、サントさせてもらうな。本当に大人はいないのか?」
さんとってなんだ。サンサ踊りに似てる響きだな。
とりあえずよくわからなかったが「いません」と返すとなにやら手元の黒っぽい何かを見て役人さんは頷いた。
「本当みたいだな……ええーっと、お嬢さん。今から言うことにちゃんと答えてくれよ。嘘つくとわかるからな。ついちゃうとこの星から出てってもらうことになるから」
「えっ答えられなかったら?」
「その場合は正直にそう言って」
「はあ」
役人さんはわざわざ腰を落として目線を同じくしながら聞いてきた。
なんだか職務質問を受けているようだ……受けたことないけど。
膝にバインダーを乗せ、私が答えるたびに丸のような文字を書き連ねていく。
大人はどうしていないのか?から始まり、年、種族を聞かれた。
一応素直に答えてるけど……もしいきなり敵判定されて襲いかかられたりしたらどうしよう。
逃げられるかなあ……。
不安になりながらぼそぼそと答えていると、父の種族のところで黒い役人さんが面食らったような顔をした。
「……サイヤ人? 本当にサイヤ人なのか? 本当に?」
再三確認された。
それこそどういう仕事をしていてどういう人物だったのかまでも根掘り葉掘り聞かれた。
母の種族も教えろといわれたがそれについては突っぱねた。
どうしても知られたくなかったので、それでこの星を出て行くことになっても仕方ない。
……せめて出る前に食料とか補給させてくれないかな。
どこからきたか、目的は何か、いつ出星するのか。
一通り聞いた後に、黒い役人さんは持っているペンのようなものでがりがりと頭をかいた。
「どうしても言いたくないのか? 困ったな……確かに正直にとはいったけど、うーん」
黙っていると「ごめんごめん」と言いながら誰かがやってきた。
目を細めてみると、頭の上に細長いものがついている白い獣……つまりウサギさんがきょろきょろと忙しなく宇宙船を私たちを見てぴょーんと飛び上がった。
「まっ間違えたー!! ご、ごめんね! 宇宙船似てるから、ウチのと間違えちゃったみたい……」
そういって首をかしげるウサギは大変可愛かった!
つぶらな瞳とふにゅふにゅしてそうな鼻から口。背は私と同じくらい。
ぬ、ぬいぐるみみたいだ……! 抱きしめたい。
しかし見た目にきゅんとなったのは私だけだったらしい。役人さんは立ち上がると、腕を組んでウサギさんを見下した。
「困りますよ。そういうのは」
「申し訳ない。今後ないように善処しますのでなんとか。ね?」
はあ、と役人さんは息を深く吐くと私に向き直った。
「間違えて入星したのであれば出て行ってもらうしかないな」
「ええっそんな!」
「ええっひどい!」
役人さんの言葉に、ウサギさんと同時に声をあげた。
なんでウサギさんも声をあげるんだ?
不思議に思い、ウサギさんを見ると耳はぺたんと垂れ、丸い目がうるうるとしだした。
「サント通らなかったの? なんで? 悪い子には見えないけど……どこから来たの?」
「え、えっと。トルシっていう」
「トルシ!? トルシってあのトルシ!?」
セーリヤとはいえなかったから、咄嗟にさっき答えた内容を伝えたのだが、目の前のウサギさんは思いのほか食い付いてきた。
「トルシってことは塩もってる?」
「え、ええ。たくさんありますけど」
「……サントはどこが悪かったんですか?」
白いウサギさんは塩を持っていると聞くなり耳をぴーんと立たせて役人さんに詰め寄り、持っていたバインダーを飛び跳ねながら覗き込もうとしている。詰まっているのが種族だとわかると、ウサギさんはぴーんと立てていた耳をそのままぐりっと回転させた。
「サ、ササササイヤ人!? きき君、サイヤ人だったのっ!?」
「は、はい。父がそうでしたけど」
「ほほほほほほ滅ぼしにきたの?」
「はあ? ほろぼす?」
「大丈夫ですよ、補給したら出て行くそうです。それに両親は亡くなり、子ども三人だけで旅をしているようで……宇宙船も強襲用ではありませんし、特に変ったところも確認できませんでした」
「間違いないの!?」とウサギさんは役人さんに詰め寄り、役人さんは「間違いない」とあの黒っぽい何かを示して見せた。
「それにこの星でサイヤ人だと名乗るあたり、なにも知らないのだと思われます」
「そ、そっか……。ウチが間違ったんだもんね。えーっと、お母さんの種族が不明……うーん。まあ、サイヤ人以外ならなんでもいいか……」
バインダーをくまなく見たウサギさんは顔を上げて私を見つめた。
「君たちは補給したら出て行くんだよね? この星で暴れたりはしないんだよね?」
「は、はい。でも良い所だったら弟妹が大きくなるまで住みたいと思ってましたけど……」
嘘をついてはいけないというので、思ってたことをそのまま言ったらウサギさんは一際大きく跳び跳ねた。
そのまま月まで行ってしまいそうだった。
「だめー! だめだめだめ!! ここに住んじゃダメッ!」
長めの滞空時間を経て着地するとウサギさんはぶんぶんと頭を振って拒否した。
そんなに? 確かに話の内容から歓迎されてない雰囲気バシバシしてたけどさ。
役人さんを見ればダメだといわんばかりに頭を左右に振っている。
「これ、これあげるから住むのは勘弁して!」
ウサギさんは懐から何かを取り出すと、私に向かって出した。
薄っぺらいそれは、前世で言うポイントカードのようなものに見える。
押し付けられるように貰ったそのカードには白兎さんの顔写真と二種類の言葉が書かれている。
なになに?
「ヘタ商会?」
「そう。私は貿易担当のミミナっていうんだ。サイヤ人を住まわせたとなったらウチの商会つぶれちゃうからね! 悪いんだけどそのカードで許して欲しい」
こんな薄っぺらいカードがなんの役に立つというのだ。
裏を返してみると、細かく規約みたいなのが書かれていて読む気がしない。
「補給するならまず換金が先だね。街のヘタ商会に来てもらえればサービスするよ。ちゃんとカード出してね? できればー、トルシの塩もヨロシク! あ、あとサイヤ人だってばれないようにしてね! 必ずだよ! わかった!?」
「は、はい」
「よし! じゃあね! 私忙しいから!」
白いウサギ、ミミナさんはぴょんぴょん飛び跳ねると足早に去って……いや逃げていった。
「そのカードは入星許可証の代わりになるから、出て行かなくても良くなったぞ。ただし、街ではサイヤ人だなんて言うな。混乱するからな」
そこまで?
なんでそんなにサイヤ人嫌われて……あ、そういえばサイヤ人って他の星侵略してたっけか。
もしかしてここもそうだったんだろうか。
……まずいところにきてしまったかも……。
役人さんは子どもにするように私の頭を撫でた。
「そんな顔をしなくても大丈夫だ。ばれなきゃこの星のやつらは親切にしてくれるだろう。カードもあるからな。ともかく町に行って換金して来い」
「町ってどこにあるんですか?」
「ああ、ほら。地図だ。一枚しかやれないからなくすなよ。いまここで、ヘタ商会はここ。向かって左に曲がれ。大通りは人が多いからはぐれないように気をつけろ」
そういって地図を指し示してくれる。
顔に似合わずなんて親切な役人さんなんだ。
私はお礼を言って宇宙船に戻ろうとしたのだが引き止められた。
「帰るときはこの札を宇宙船の近くにおいて置けよ。あとこれは」
まだあるのか。
あれから世話好きな役人さんにいろいろ教えてもらい、地図も書き込みでいっぱいになった。
いい人だったな。
双子にお礼をいわれているときは、さながらおじいちゃんのようだったぞ。手をふってたしな。
+ + + + + + + + + + +
私はとりあえず双子を連れ、ヘタ商会を目指した。
宇宙船の情報どおり結構栄えている星のようで、道もしっかりとしたレンガ風、建物も石造りのものや木造のものが雑多に並んでいる。
街中は雑然としており、活気があった。
私たちは人ごみを避けるように端を歩き、それでも大人に揉まれやっとの思いでヘタ商会に着く。
そこは一際大きい建物で、たくさんのウサギが忙しそうに走り回っていた。
中に入ってみると食堂と併設されているようで、いいにおいが漂ってくる。
ちらっと見ると赤い色がたくさん見えた。
よく見えないからそれがなんなのかよくわからないが、食べ物が並んでいるような気がする。
トーガはぼーっと意識がそっちに飛んでるし、チルはいろんな人種に目を瞬かせている。
私は気を引き締めカウンターの黒いウサギに「買取できますか」とカードを差し出したずねた。
黒いウサギはカードと私を交互に見つめ半眼になると「できます」と短く言う。
印象悪いな、と思いながら私は荷物の中からひとつの大きい石を取り出す。
金鉱石だ。
干物を作った星で見つけたのだ。
機械で調べたので間違いなく金……地球のものと違うかもしれないが、金くらい貴重な鉱石が含まれている。
こういうときに換金しようと思っていくつか拾っておいたのを早速使うことになろうとは。
黒いウサギは冷めた目で買取額を淡々と言った。
え、確認もしないの?
しかもその額だと少なくない? 役人さんに教えてもらった相場の値段と違うじゃん!
「買取するんですかしないんですか」
黒ウサギは見下して急かすように指でカウンターを叩いた。
……舐められている。
子どもだからって足元見やがって!
しかし言い返せない私は、更に金額を増やそうと荷物からありったけの鉱物を並べた。
反応も金額も一緒だった。……そんなんじゃ、目標資金に足りない。
私は再度袋に手を突っ込んだ。
そして一塊の岩塩を出してみる。
ミミナさんに必ず持ってこいといわれていたトルシの塩だ。
出した瞬間。
「……なんで皆耳立ててんの?」
トーガの悪びれない声が聞こえる。
塩はウサギどもの耳をこれ以上伸びない位跳ねさせたようだ。
目の前の半目を貫いている黒ウサギと同じように。
動揺を隠せてませんよ?
ウサギは商売に向かないんじゃないかな。
商会の名前もヘタなんでしょ?
黒ウサギの半眼に、同じように半眼で睨み返していると、黒ウサギは意を決したように口を開いた。
「触って確認しても?」
「どうぞ」
黒ウサギはトルシの塩石を手に取り、目を細めると観念したように金額を言った。
やった! 高い!
金鉱石とぜんぜん違う桁に喜び、私は安心した。
黒ウサギは手で鉱石たちを指し示した。
「買取はこれすべててよろしいか」
「は」
「ちょっと待てよ」
い、と返事をしようとしたら後ろから声をかけられた。
振り向くと、黄緑色をした髪の少年が睨みつけるようにこちらを見ていた。
「それだと少なすぎだろ。相手が子どもだからって足元見てんじゃねえ。これぐらいいくだろ」
少年はそういって金額を指で示した。
しかし私はそれがいくらなのかわからない。丸と指二本重ねてるんだもん!!
もっと具体的にいってほしい。
「こ、子どもが口を出すな!」
「カードも持ってるし、他の石だって質は悪そうに見えない。お前、声かけるやつ間違えたな」
少年はこちらを見ると「ふん」と鼻を鳴らした。
いやそんなこと言われても。君は最初から見ていたのかい?
「なんだとクソガキ!」
「そのクソガキより小さいガキから巻き上げようとしてんのは誰だよ! さすが黒ウサギ。がめついな!」
「おっまええ!」
黒ウサギは怒り狂い少年に掴みかかり、少年はウサギを馬鹿にしつつ逃れようと下がってくる。
もうちょっと言い方があるでしょうに。
おかげで買い取ってくれなさそうじゃないか。
ほかのウサギは遠巻きに見ているだけで、収めようとしないし、
「このお兄ちゃんすごいね」
トーガはぽかんと少年をみているし、
「ねえ! グアイさんみたいなのいる!」
チルはトカゲ頭の人みて興奮してるし。
どうしようかなあ。
めんどくさいなあ。
そう思っていたら、外からウサギが飛び込んできた。
茶色のぶち模様のウサギは目に見えて毛を逆立たせ、叫んだ。
「サイヤ人が来たらしいぞ! 宇宙船が! 入星したらしい!」
しんと静まり返った一瞬の間のあと、周りも叫んだ。
「ひいいっ! 殺される!」
「滅んだんじゃなかったのか!」
「くわれるううううう!」
「なんで追い返さなかったあ!? やつらの周りはなにもなくなるんだぞ!」
「侵略か!? おい!どうなんだ! 俺の船は無事だろうな!」
「フリーザもいなくなったというのに! 我々はまだ脅えなければならないのか!」
「サイヤ人めええええええ!!!!!!」
……そんなに?
サイヤ人だってばれないようにしろよってミミナさんと役人さんに言われてたけど、想像以上の怯えっぷりに戸惑った。
まあどちらかというと、更にめんどくさくなってきたなーなんて思ったり。
「おい! サイヤ人はどこの港にいるんだ! 近くなら逃……」
「はーい!」
建物全体が悲鳴をあげている中で、トーガだけが陽気に返事をした。
あわてて私はトーガの口を手でふさぐが、チルはそれに続くように言い放った。
「おねえちゃん呼ばれたよ! はい! サイヤじんです!」
呼ばれたからといって返事をするな!!
片手を挙げて元気良く答える様に毒気を抜かれたのか、ウサギたちと周りの客は笑う。
「まっさか~」
「色が違うじゃないか」
「お嬢さん、そんな冗談いうと怒るぞー」
「こーんなかわいいサイヤ人なら食われてもいいかもなア」
「違いねェ! はははは!!!!」
そこの大口開けて笑っている魚の頭をした魚人よ。お前は本当に食われそうだから自重したほうがいいぞ。
笑っている人々の中で茶色のぶち模様のウサギだけは震えながらこちらを指差し、ずりずりと後退する。
そのうち後ろの厳つい熊にぶつかり「ヒィ!」と悲鳴を上げた。
「おいおい落ち着けって。色黒くないだろ? 尻尾も無いし大丈夫だって」
ウサギはぶんぶんと首を振り、熊に抱きつく。
「ハ、ハハハーフなんだって! サ、サイヤ人みたいな外見じゃない! 子どもなんだって!!」
あれ、あれ、とウサギが熊に指し示す先に私たちがいた。
それを見ていたら、いつの間にか手をはずしてトーガは勢い良く片手を挙げて宣言する。
「はーい! サイヤじんです! おとうさんが!」
言った途端、黒いウサギが発狂したように悲鳴を上げて倒れた。
それを皮切りに建物は阿鼻叫喚で揺れた。
