第一部 旅編
第三章 決意
24 エコナ星
バリバリバリ、と木が倒れる音が聞こえる。
不時着した場所は森のようで、木がクッション代わりになったのかバウンドすることなく降り立つことができた。
外に出てみると生い茂る草木の青々しい匂いが鼻につく。
どことなく地球の森に似ているこの場所は、もちろんまったく別の場所である。
エコナ星。それが降り立った星の名前だ。
フリーザ軍によれば、この星はデレシン族という種族がフリーザ族から買った星らしい。
《気候が穏やかで住みやすい。栄えている。肉食獣は少なめ。》
星の評価価値は中だ。
妙にほかの星より詳しく書かれているような気がする。
星の説明、詳細がマチマチなんだよな。中には下っ端が提出したのをそのまま記載したっぽいものもあるし……。
とりあえず宇宙船を置いてあたりを探索することにした。
どうやら宇宙船は森に降りたらしく、そのまわりは草原で、少し離れたところに建物の密集地があるのがわかった。ベストな場所に着陸したみたい。
私たちはさっそく町っぽいところに行ってみることにした。
「おいしいのあるかなー?」
「でっかい肉が食べたいんだよなー」
町の外れまで飛び、素知らぬ顔で歩いていると、双子が息を吐くように食べ物の話をし始めた。
ちなみに昼食は少し前に食べ終わっている。
さっき食べたでしょ!なんて文句はサイヤ人に通用しない。ヤツらは満腹になるまで食べたいのだ。
もうすぐ星に着くから、と昼食を早めに切り上げたから弟妹はいま腹八分目くらいだろう。
我慢して欲しい。
「買い物が先だよ」
注意したのに対して双子は「はーい」と行儀良く返事をしたものの、視線はキョロキョロと周囲を巡っていた。
そんなに見ても、まだ町の端っこだから店とかないと思うぞ双子よ。
まばらな農地がある住宅地を抜けると、一気に建築物が増えた。
道は整備されていて、街灯も立っている。
建物はほぼ木造。比較的新しそうな建築物が多い。
――ということは、文明が発達してるってことだ。
フリーザから星を買えるんだから当然か?
気になったのはすれ違う人々――住民だ。
服装には統一感がなかった。
種族もバラバラで、誰がよそ者で誰が原住民なのかわからない。
ふうん……。紛れ込んでも気にならない感じだな。
「いいにおい!」
「うまそう!!」
大きな通りを歩いていたら、店と屋台がくっついているようなところから美味しそうな匂いが漂ってきた。
だんごのような食べ物を売っているらしい。
「そこのお譲ちゃんたち! おひとついかが? あまーいココダンゴだよ!」
耳がとがった恰幅のいい女性がニコニコしながら串を差し出してくる。
ちょうどいい。
「ここら辺で換金できるところはありますか?」
「おや、この星に来たばっかりなのかい? 換金なら粉屋の隣にあるよ。ほら、あそこ」
あそこ、と言われたところには黄色い旗が立っていて、どうやらその隣が目的の場所らしい。
とりあえず換金しないことにはなにも買えない。
私はお礼を言って、だんごから目が離せないでいる双子の首根っこを掴み、引きずった。
換金屋は入店した直後、客の多さに驚いた。
大盛況といってもいいのではないだろうか?
店員も店主も忙しなく動いている。
どうしたもんか、と思ってたら番号札を渡された。
それにも驚いたのに、店内には時計があった。
ナウネ星のようになにか特別な術を使っていそうなものではなく、普通の、地球にあるようなアナログ時計。
店主は小型の通信機で会話していて、店員はレジのような機械を操作している。
おや……? なんだか前世の地球に似てるような……。
待たされたものの、通貨に換えてもらう手順はスムーズで無駄がなかった。
今までで一番早かったと思う。
通貨を袋に入れて、じゃあまずは隣の粉屋さんから――と歩き出した一歩は地面につくことはなかった。
「ねえ、さっきのココダンゴ食べたい!!」
「食べてきてもいい!?」
双子が服を掴んで見上げているではないか。
……。
「さっき買い物が先だって言ったでしょ。後にして」
「えーっ」という不満たっぷりな声が二つ重なる。
「おねえちゃんは隣の店に行くんでしょ? 買い物してくればいいじゃん!」
「チル、トーガと二人で食べて待ってるよ!!」
あっ! 服のすそを引っ張っるのはやめなさい! 破れるでしょ!
「そうそう、おとなしく座って食べてるからさあ!!」
「おねがいー!!」
だめ、と言おうとしたのだ。しかし気づくと周りにいる人がみんなこちらを見ていた。
ここでごねられて大きな声を出されたらもっと目立ってしまうのでは?
――そんな考えが一瞬頭をかすめ、私は口を閉じた。
「……本当におとなしくしてるんだよ? なにかあったらまず、お姉ちゃんを呼ぶこと」
騒ぎを起こすことは本意ではない。
言い聞かせて小銭を渡すと、渡した瞬間に走り出し「わかったー!」という双子の声が店の外から聞こえてきた。
渡すとき出した手のまま突っ立っている私の滑稽なことよ。
お騒がせしましたーと頭を下げながら店を出たわ。
その足でいそいそと隣の粉屋に入る。
この店でもレジのような機械が置いてあり、店員は忙しそうだ。その周りで客はわいわい話しながら買い物をしていた。
品物を見ているとお客さん同士の会話が聞こえてくる。
「ゼゼン粉はまだあるか? 追加で店に持ってきてくれ! ……あっ待て、今一袋もって行く!」
「おやおや、また追加かい? 景気がいいなあ!」
「おい。この間食べに行こうとしたら休みだったぞ。今日はやってるんだろうな」
「そりゃすいませんね旦那。代わりに今日はゾル汁1杯サービスしますよ。みんなもおまけつけるから、ポロの店に食べに来てくれよー!」
わあっと上がる熱気を帯びたお客さんたちの声に混じって、店員さん同士が今日行こうか、と話している。
みんな楽しそうで、見ているだけでこちらも楽しくなってくる。
ここらへんの店はずいぶんと活気があるようだ。
私は熱気の間をすり抜けて、カウンターに向かった。
小麦粉のような穀物粉を大袋で買い、〈かばん〉につめる。
ダイさんの星で出したら〈かばん〉は驚かれた。
でもここだと店員に「ナウネのものですか?」と聞かれただけで、それ以上は特に詮索されなかった。お客さんにも気にしている人はいない。
今まで天使だったり英雄だったり言われてきた。
でもこの、明らかな一般市民――モブ扱い!
とても、とても、とっても! うれしい!!
元来目立つようなことは好きじゃないんだ。
ひっそりこっそり静かに穏やかに暮らして生きたいの。
ここだったら実現できるかな。
――待て待て。サイヤ人だとバレればナウネの時のようになってしまうかもしれない。
双子には絶対に言わないように言い含めなければ……。
「……ねえ見て。あのお向かいに座っている子達」
「まあ双子かしら。かわいいわね」
「髪も良いわ。なんて美しい赤なの」
「本当ね。珍しいわ」
お年を召したご婦人方の声に、はっとして視線をむけると、開け放たれた店の扉の向こうに赤い点が二つ見えた。
明らかに双子だ。他に赤色なんてないんだから間違えるわけがない。
もうお金全部使い切ったんだろうなーと思いながら、私は急いで双子のもとに向かった。
「あ!」
「知り合い?」
最初に声をあげたのはトーガだ。左側にチルが座ってだんごを食べており、右隣に女の子がいた。
……え、誰? 近づくまでいるのわからなかった。
女の子は茜色の髪の毛を耳に掛け、「こんにちは」と頭を傾ける。
泣き黒子が印象的な清楚な感じのかわいい女の子だ。……なぜ、トーガの隣に?
いや、それよりも皿だ。
チルが食べたであろう串は皿に山になっていて、トーガの皿には串が10本もない。
トーガが、食べていない。
えっ、なに? 具合悪いの?
トーガは姉の視線にはまったく気がつくことなく、うれしそうに私を姉だと女の子に紹介した。
「お、おねえさん。あんまり、その、ごめんなさい! 似てないんですね!」
驚き、慌てた風に言う女の子はかわいい。元がかわいいとなにしてもかわいい。双子もかわいい。
私は真逆だ。地味でブス。並びたくねえ~。
「私はドーリー。あそこの雑貨店の娘です。あの、家族三人で旅をしているんですよね? 必要なものがあったら言ってください! 扱っているお店案内できますから!」
女の子はキラキラした瞳で身を乗り出して訴えてくる。
歳のころはトーガより少し上くらいに見えるけれど、ずいぶんしっかりしたお嬢さんだ。
でも買い物より、トーガのほうが心配である。
「いや、いいです。この子具合悪そうなんで」
「悪くない!! フツーだよ!! 行こ!!」
いったん帰ります、と続けようとした言葉はトーガの張り上げた声にかき消された。
トーガは立ち上がるとドーリーの手を引いてさっさと歩き始めた。
唖然……。
「サーヤ! 早く!!」
急かされて私はぱかんと口を開けた。
名前呼び??
お前さっきまでおねえちゃんって言ってたじゃないか。なんでいきなり名前呼び?
意味がわからないまま視線をおろすと、チルがだんごから口を離して言った。
「トーガ、ずっとあの子と話しててぜんぜん食べなかったよ」
あらぁ、そうなのー。
それしか言えなかった。
トーガはニコニコしながらドーリーと手を繋いで話している。
うわあ、そんな顔、おなかいっぱい食べたとき以外で見たことない。
そっかー、小さくても男の子なのかー。
かわいい女の子と仲良くなったからうれしいのかそうかー。
私とチルは仲良く手を繋いでいるふたりの後ろをとぼとぼと歩いた。
「……あとは鉛筆と紙かな」
「えんぴつと紙足りないって」
「それならこっちのお店がいいよ」
「サーヤ! こっちだって!!」
でかい声出さなくても真後ろにいるんだから聞こえてるよ。
というか直接話せば済むのにトーガが必ず間に入ってくる。
そんな状態のまま私たちは通りを歩いた。
ぶっちゃけ買い物のために歩いているのか、デートのために歩いているのかわからなくなった。
いやこれデートかな。
どこに行くにも手を繋ぎ、ドーリーが転びそうになったら体で受け止める。
私と手を繋いでるときに私が転びそうになったら力いっぱい引っ張るくせに。
毎回痛いって言ってるのに毎回手を引っ張るんだ。チルは痛いって言ったら抱きとめてくれるようになったのに。
そんなトーガはドーリーが首を傾げるたびに顔を赤く染める。
おっ面白くねぇ~~~!!!!
今まで私にひっ付いていたヤツがぽっと出の女の子にデレデレしてる!
確かにドーリーはかわいいけど! こっち姉だぞ! もうちょっとさあ! 丁寧に扱ってくれてもさあ!! ねえ!!
私はじと目で二人を見ていた。
でもこうやって不満を抱いてるのってまるで小姑みたいじゃない?って気づいたときにはもう遅い。
夕方近くになり、買い物をすべて終えた私たちはお礼を言って別れようとした。
しかしドーリーは「遅くなったし、いっしょにご飯食べようよ」とトーガを誘った。
気は進まなかったが、日中の様子を見る限りトーガは了承するんだろうなあとあきらめていたら、なんと。
「……それは……ちょっとできない……明日なら! 明日また遊ぼう!」
断っていた。
逆に驚きである。
トーガは「ゴメンね!」というなり、全速力なのかすぐ見えなくなるくらいの速度で走り去っていった。
残された三人は呆然とするばかりである。
幾分そうした後、私たちは立ちっぱなしなドーリーに丁寧にお礼を言うと、すぐさまトーガを追った。
「あれはたぶん、たくさん食べて嫌われたくないんだと思うの」
私もそう思うよチル。
いつもあるおやつが今日はなかったし、だんごも食べなかったっていうならチルよりお腹が減ってるはずだから晩ご飯絶対めちゃめちゃ食べる。
見られたら量が量だから引かれるよね確実に。
やっぱ、人のいる星に降りるごとに大量に食べて、出会う人に毎回驚かれてたから学習したんかな。
――振り返ると、ドーリーはまだ立っていた。
未練がましく見えるのは小姑心からだろうか。
まあ、トーガはものすごくかわいい顔をしているから気持ちはよくわかる。
けれどそういうのはもう少し大人になってからにしてくれ。
心の中でドーリーに言うと、私は前を向いて走った。
