29.ソタの樹

第一部 旅編

第三章 決意

29 ソタの樹

 ――困った。
 行けども行けども豆しかない。

「サーヤー。誰もいないー」
「こっちもー。豆の木しかないー」

 その星は大きな豆の木が群生している小さな星だった。
 まるで世界童話集に出てくるような大きな木が何本も天高くそびえ立っているものだから、空の上には巨人でもいるのかなと思った。空から来たんだけど。
 宇宙船によると人が住んでいるらしいが……探しても、双子の言うとおり気配すらない。

 まあいっか。そんなことより食べ物食べ物。

 この星についてすぐ双子と手分けして探すが、豆しか見つからない。

「豆だけ取ってさっさと次に行こっか」

 最近思ったのだ。
 ないものを探すよりさっさと次に行こう、と。
 中には食料がない星もある。
 今まではそうだとわかるまで探し回っていたが、どうにも効率が悪い。
 というのも、香辛料の星に行った後立て続けに食料の乏しい星にばかり当たったのだ。
 〈かばん〉がなかったら死んでた。

「今日からは豆ばっかりになんの?」
「そうなるねー」

 この木になる豆は食べられるらしい。
 枝豆のような緑色の房を剥ぎ取ると、一口大の豆が並んでいる。
 豆はまとまって生っているので、手でもぎ取っていく。

「豆かー苦手なんだよなー」

 トーガは背中に籠を背負い手早く豆を入れていく。
 そんなこというな。大事な食料なんだから。
 私は手を伸ばし豆を取りながらトーガを忍び見る。

「まあ、腹にたまるからいっか」

 トーガは最近口調がラクのように変わった。
 兆候はあったのだ。しかしある日を境にガラッと変わった。
 前までは躊躇いも混じっていたのが、今では言葉を自分のものにしているみたいだ。

 やっぱりさ、子どもってかっこよく助けに入ってくれた人の真似マネをしたがるよね。
 特撮みたいなね。
 きっとラクが今まで出会った中でかっこよかったんだろうなあ。

 確かに双子にとってはいい兄ちゃんだったし、なまじ頭も良かったもんだから、黒ウサギとの対決はそれはもうかっこよく見えたことだろう。
 しかし、口が悪い。
 ラクは今まで会って来た人間の中でなかなか口が悪かったほうだった。
 私も人のこと言えないが、弟に「おい」とか言われると凹む。この間までは「おねえちゃーん」だったのに。

「手、止まってる。動かしたら?」

 少しばかり作業の手を止めたらこれだ。
 姉に対して少しぞんざいが過ぎるのではないかね。

「もういい? いっぱいになったの」
「まだー。はえーよ取るのー」
「手伝ってー、まだ入るからー」

 籠いっぱいまで豆を取ったチルは、手伝ってくれる。
 トーガが「もう枝ごと折っていい?」と面倒くさがるがたしなめた。
 ゴミが増えるだろうが。

 さて、この籠いっぱいの豆。
 直接〈かばん〉に入れてしまうと、ひとつずつ球体に包まれて収納される。
 いくら便利でもそれらを〈かばん〉の中でまとめるのは苦行だ。
 私は卵でそれをやって泣いた。
 なのであらかじめ袋や籠にまとめて、最後に〈かばん〉に入れるのは絶対。
 そうして三人の籠が満たされたあと、さっさと私たちは帰ろうとした。

 ――が、木の枝を蹴ったとき、なにか気配を感じた。
 確かめようと私が振り向くよりも早く、チルが声を上げる。

「ぎゃあああああああ!」

 まるでゴキブリにでも会ったかのような叫び声をあげたかと思ったら、いきなり攻撃した。
 気を収束させ弾を放ったのだ。

「ぎゃあ!」
「あっおい! チル!」
「や、やめてくれえ!!」
「いやああああ! しゃべったああああ!」
「まてって!!」
「なに!? なに!? 見えない! よく見えない! ゲホッ!!」

 知らない声が聞こえたが、それが誰なのかわからない!
 チルが放ちまくった気弾が木に当たり、焦げくさい煙が立ちこめたからだ。

 見えないものがさらに見えなくなった! ついでに煙い!!

 でもこの煙、どっかで嗅いだ事のある匂いのような……。
 ……いや、わからん。心当たりはみつからなかった。

 煙が晴れると、木に隠れていたものがひょっこり頭を出した。

「いやいやいやいや嫌嫌嫌嫌」
「落ち着けって。どうしたんだよ」

 チルはトーガに羽交はがめ……押さえられていたが、『それ』が姿を現すと今度は抱きついていた。
 私は目を細め、木の向こうを確認した。
 ……ああ、なるほど?

「人だろ? なんでいきなり攻撃するんだよ。だめじゃんか」

 確かにいきなり攻撃するのはよくない。
 しかし気持ちはわかる。

「ひと!? 人じゃないよ!」
「なに言ってんだよ! どう見ても人だろ!」
「だって顔! 顔!!」

 チルが指を差すので、怯えたその人の頭は隠れてしまった。
 私は謝って、出てきてくださいとお願いした。

「……殺さないか?」
「いやあ! でてこないでー!!」
「大丈夫です。押さえてますから!」
「………………本当か?」
「いやー!! しゃべんないでー!!」
「ちょっとお前黙ってろよ!」

 私はトーガがチルの口を手でふさいで動かないようにしたのを手で示した。

「本当です! この通り! 黙らせましたから!」

 奴隷商人にしてやられたのは例外だ。私たちは油断しなければやられたりしない。

 しかし、フツーに生きてる一般市民には私たちのほうが脅威。
 いきなり気弾放たれたらそりゃ怖いがな。
 私はこれ以上ないぐらいペコペコお辞儀をしながら謝った。

「――お前たちはソタ豆を取りにきたのか?」

 木の向こうからそっと出てきたのは、麦わら帽子とチェックの服が目をひく、コオロギ人間だった。

 + + + + + + + + + + + 

 コオロギ人間さんは触角を動かしながら「殺そうとしないなら豆の食べ方教えてやるが」と提案してくれたので、私は「よろしくお願いします!!」と勢いよく頭を下げた。

「家の中で暴れたりせんでくれよ」

 そう前置きされ、チルを見ればトーガが抱えたまま頷く。
 案内されたのは大きな木に取り付けられたドア。
 木の幹の中ごろに穴を開けて家にしてるみたいだ。よく見れば窓などもついてる。
 ……明らかに私たちが豆を採った木に住んでるっぽい。
 我々泥棒では? しかも家主に危害を……強盗ごうとうだ。

 家に入った瞬間に「勝手に採ってすいませんでした!」と謝ると、「採りきれないからかまわない」とコオロギ人間さんは胸元を押さえた。

 ギンと名乗ったそのコオロギさんは、無表情でお茶を入れながらいろいろ教えてくれた。
 この星で一人住んでいて、たまに来る商人に豆を売って生活しているらしい。
 一瞬、それ喋っちゃっていいの?って思ったけど、ギンさんは淡々と続ける。

「ソタ豆は腹が膨れる。昔は食料が少なくてこぞって栽培したんだが……いまじゃあ誰も食わんな。生でもゆでても食えるがうまいもんでもないし、非常食にしかならん」
「えーもったいねーあんなにあるのに」

 トーガの言うことにうんうんと私も頷く。

「そうか? お前さんたちは偶然ここに来たんだろう? まずい豆でも持って帰るか」
「飢えるよりマシですからね」

 逆に今度はトーガが頷いた。
 トーガに抱えられているチルはこっちを見もしない。

「飢えるよりマシか。わしもそう思っていたんだがなあ」

 ギンさんは窓辺の写真を見た。無表情だけど少しだけ寂しそうに見える。

「まあいいさ。久しぶりのお客さんだ。飯でもいっしょにどうかね」
「えっまずい豆?」
「こら!」
「はっははは」

 川魚だよ、とギンさんは声音で笑った。
 ギンさんの家の隣――近くの木には以前だれかが住んでいたのか、扉や窓が転々とついていた。
 畑っぽいものも近くにあり、下からは川のせせらぎが聞こえてくる。

 ギンさんは釣竿を持って「こっちだ」とさくさく歩いていく。
 ついていくとそこまで大きくない川にたどり着いた。
 どうやらこれから釣るらしい。
 渡された釣竿はちょっと古そう。
 トーガは今まで狩人のような取り方しか知らなかったため、釣竿自体を不思議そうに眺めていた。

「この星は開拓星でな。近くに母星がある。そこはわしらみたいな虫人が住んでいて、わしのほかはみんな帰っていってしまったな」

 そういって魚を釣り上げるギンさんの声音は少し低い。
 チルはヒッと悲鳴をあげて「行かないよね!?」と私にすがり付き、トーガは魚を釣り上げて「おおおおお!」と雄たけびを上げている。
 反応は違うが、うるさいことには変わりはない。

「すいません。うるさくて」
「子どもらしくていい。何歳だ」

 ギンさんは双子の年を聞くと、自分の孫も同じくらいだと言う。

「あー! ……すぐ糸切れちゃう。いつもの獲り方のがいいかなー」

 トーガが釣れたのは最初だけで口をへの字に曲げた。
「そりゃ力の入れすぎだ」とギンさんが教えると、考えて釣るようになり――。

「ツリ! おもしろい!!」
「……チルもやる……!」

 五匹くらい連続で釣れるようになったトーガを見て、チルも釣竿を垂らす。
 私は……うん。お察しの成果だ。

 大漁といえる魚を畑の野菜と共に持ち帰り、料理することになった。
 手伝おうと台所に立つと、壁に直接蛇口がついているのが気になった。
 三つくらいある。……多くね?
 水道かと思ったけど、水道の蛇口にはパイプがついており床まで続いている。

 不思議に思いながら野菜を切っていると、ギンさんが大きい鍋を持って来た。
 ずいぶん大きい鍋だったが、驚いたのは材質と形だ。
 どう見ても土鍋。

 ギンさんはテーブルの真ん中のふたを開け、くぼんだ個所に火をつけると水を張った土鍋を置いた。
 着々と行われていく準備は、考えるまでもない。

 鍋だ!

 前世で言う水炊き!
 でも見たところタレなどは見当たらない。そのまま食べるんだろうか。
 塩か……。
 雰囲気でないなーなんて思いつつ、私は魚を削ぎ切りにしていった。

 + + + + + + + + + + + 

 テーブルの真ん中にドドンと鎮座しているのは湯気が立った鍋。
 野菜と魚がくつくつと揺れている。
 それとは別に川魚の塩焼きがテーブルに山積みされていた。

 双子は豪快に魚に噛り付き、ギンさんは鍋の中身を小鉢に盛り付けている。
 私は目の前にあるタレを凝視していた。

「それはソタの樹液だ。つけて食べてみろ、うまいぞ」

 凝視していた小鉢に具が入った。ギンさんが入れたようだ。

 ――樹液。
 これは樹液なのか。
 しかし色合いがどう見ても……。

 期待と不安が入り混じった感情になりながら、私は思い切ってそれを口に入れた。

「うぐ!」

 思わず呻いた。

「まずいのサーヤ!」
「水! 水!」
「口に合わんかったか? あちゃあ」

 三人三様の取り乱し方をしていた。
 しかし、私はそれ所じゃなかった。
 ――泣いてた。

 ディウ星で刺身が食べられなくて、自分で捌いて塩つけて食べたときも「なんか違う」とがっかりし。
 温泉で卵食べたときも「なんか違う」と気を落とし。
 鰹節の風味がするスパイスをご飯にかけ、塩を混ぜて食べても「なんか違う」と落胆した。

 全部わかっててやったんだけど、食べるほどに恋しくなる味。
 私は確かに日本食に飢えていた。

 そんな中での出会い。

「ううっ……」

 間違いありません。
 これは、しょうゆです……。

「……泣くほどまずいの?」

 チルの言葉に私は首を横に勢いよくふって否定した。
 私はいま、感動しているのだ!

 夢にまで見たしょうゆ。
 これだよ、コレ。しょうゆよ、求めてたのは。

 気がついたら私はご飯を炊き出し、卵を乗っけて卵かけご飯にして食べてた。

「う……っまぁ……」

 あまりのうまさに滂沱した。
 卵かけご飯にしては赤いけど、味はそのもの。前世ぶりのTKGは身体に染みわたる。

「なんでこれしか炊かねーんだよ! 足りねえよお!」
「サーヤ、もっと食べたい」

 少量しかご飯を炊かなかったら双子に怒られた。
 君たち鍋も魚もたらふく食べていたじゃないか。
 私は鍋と卵かけご飯でお腹いっぱいだぞ。

「泣くほどうまかったのか?」

 ギンさんはすでに食べ終わり皿を持ちながら問いかけた。
 私は立ち上がり、地に頭を付けんばかりに深く頭を下げて答えた。

「もちろん! この樹液ください! いくらですか!?」
「いや、木がいっぱいあるからな。好きなだけもって行けば」
「本当ですか!?」
「あ、ああ」

 その言葉に思わずギンさんの服を掴み、コオロギの顔を見た。
 コオロギの表情はよくわからなかったが目がまん丸でよく見ればかわいい。目だけ。

「じゃあ片付け終わったら早速! どこでもいいんですかね!」
「……そこの蛇口をひねればでてくるぞ」

 おお! すばらしい!
 気になっていた蛇口はしょうゆ用だったのか!
 ひねれば出てくるなんてなんてすばらしい星なんだ!

「三つもあるんですね!!」
「つ、使いづらくて新しくつけたりしたからな。保存食作るには下から出るほうが使いやすいんだ」

 なるほど! だから一つは腰あたりに、もう二つはほぼ蛇口と同じ高さで位置がずれてるんだね!
 刺せば出てくるからつけたいところに刺して今の状態なんだそうだ。最高。
 ナウネの水筒に入れよう。予備として二つしょうゆビンにしよう。

「すげえな豆。樹液うまいじゃん」
「豆は塩でもつければおいしくなるんじゃないかな」
「あっそうかも。あとで食ってみよ」

 そうだね、お腹が膨れるならこれ以上すばらしいものないね。君たちにとっても、私の右手にとっても!
 うきうきと食べ終えた皿を片付け、意気揚々と洗い始めた私は、ギンさんを見てなかった。

 だから驚いた。いきなりギリギリギリと何かをかみ締めるような音が鳴ったときは。

「な、なに!?」
「えっ」
「どこから……あっ」

 コオロギが目から大粒の涙を流していた。
 ギリギリ音はよくよく聞くと、ギンさんから聞こえてくる。

「ど、どうしましたかギンさん」
「お前が嫌がったのが今効いたんじゃん? ごめんねって抱きつけばとまるかも」
「無理。むりむりむり」

 ブルブルブルと頭を振る仕草はもはや早すぎて見えない。チルよ、失礼だぞ。
 私はハンカチを差し出し、落ち着くのを待った。

「すまんかったな。うまいと言われたのがうれしくて」

「年取ると涙もろくなっていかんな」とギンさんはハンカチを断り、首にかけてあるタオルで顔をぬぐった。

「おいしかったですよ。この樹液は売らないんですか?」
「そーだよ、売ればいいじゃん。豆は売れなくてもコレなら売れるんじゃね?」
「おいしいもんね。卵かけごはん」

 コオロギは首を振った。

「母星ではクセが好まれなくてな。豆くさいだろう?」
「えー」

 虫のくせに豆の匂いがだめとは! あの匂いがたまらんのじゃないか! わかってないな虫は!

「あと卵は普通、生では食わんぞ。大丈夫なのか?」と、ギンさんに心配されてしまった。
 コオロギは卵生で食わんのか。……我らもしかして野蛮人って思われてる?
 持参の卵は安全だといえば、ギンさんの触角が下がった。

「そもそもソタ豆はまずいもんだと思われてるし、樹液をわざわざ買うやつはおらん」
「信じられない……こんなおいしいものをまずいだなんて。人生損してる」
「そこまでではないよなあ」
「うん。おいしいけど」
「お前さんたちくらいなもんだ。そこまでいうのは」

「好きなだけ持ってくがいいさ」とギンさんはもう一度顔をぬぐった。

 片付け終わった後、早速しょうゆを水筒につめることにした。

 蛇口に水筒をつけながらひねると……。
 おおー入る入る。面白いぐらいだばーって出てくる。

「この丸く太っているのは成熟しているから、食べると腹が膨れるぞ」
「せいじゅく?」
「一番うまいってことだ」

 台所の向こう、テーブルにソタ豆を広げてギンさんが双子に教えている。
 私も作業しながら聞き耳を立てる。聞き逃さないように。

「この小さいのは乾かしてすりつぶせばいい。粉にすれば料理に使いやすいからな。腹はまあ、それなりにしか膨らまんが」
「料理につかえんの?」
「こねて汁物に入れれば食いやすいな」
「へえー!」

 樹液がしょうゆだから粉はきなこかなと思ったんだけど、きなこって小麦粉みたいに使えたっけ?
 きなこ餅しか思いつかない貧弱な記憶力をちょっと恨む。

「それからもし怪我をしたときソタを食べなさい。傷が治るだろうから。たぶんお前さんたちには効くだろう」

 ――んっ!? なんだって??
 驚いて振り向いたらしょうゆがこぼれた。も、もったいない!

「えー本当かよ」
「この星に来る商人はそれが目当てらしくてな。ほかの星に売りにいくと言って太った豆しか持って行かん」
「じゃあ儲かるんじゃないの? 怪我治るんだろ?」
「知られたくないんだろう。その商人しか今のところ来ない」
「じゃあその商人ぼろもうけじゃん。悪いやつじゃないのか?」
「ははっ! そうかもしれんが、いちいちわしを尋ねてくるからなあ。いい商人のほうだと思うぞ」

 その会話、混ざりたい!
 そわそわする。しすぎて手が揺れる。水筒ももれなく揺れる。

 二つ黒い水筒ができた後、どれくらいの傷が治るのか聞いてみた。
 そしたら「わしには効かんからわからない」といわれた。
 なーんてこったい。

「どうも虫人には効かんらしくてな。ソタにそんな効果があるとは知らなかったんだ。知ったのは最近で、その商人が教えてくれたんだよ」
「ふーん、教えてくれるってことはいいやつなんだな」
「そうだな、毎回ちゃんと頼んでいるものを持ってきてくれるし、助かっとるんだ。……しかしお前さんたち採ったな。こんなにあったら何十年と持つんじゃないか?」
「まっさかー」
「すいません、いくらなんでも採りすぎですよね」

 4人で仕分けるが量が多くて終わらない。たわいない話をしながら豆を籠に分け終えると、外はすっかり夕方になっていた。

 その次の日、あまりに嬉しかったからか単に疲労からなのか、私は熱を出した。
 いつものことなので特に気にしなかったが、ギンさんは心配してくれていろいろ差し入れしてくれた。
 暇を持て余した双子の世話もしてくれたのでマジでいい人だった。

 その流れでなんやかんやと1週間ほど滞在し、幸運にも商人が尋ねてきたときは元気になったのも相まって柄にも無く「よっしゃー!」と口から出てしまった。
 豆の効能、ちょっと詳しく教えてもらおうじゃないの!

 ――そう、意気込んだのが悪かったのか、出会った瞬間相手は逃げた。

「あ、あーっ!? おまっ、ああーっ!!」
「え、なに?」
「逃げっ、逃げろー!!」

 先頭の小さいやつがこちらを指さして走っていったものだから、ギンさんが「知り合いか?」と聞いてきた。
 こんなところに知り合いはいない。
 よって全力で追いかける! 双子が!

「なんで逃げんの?」
「ヒイィッ!!」
「なにもしないよー」
「キャー!!」

 まったく、双子の言うとおりだ。
 人に向かってお化けかモンスターみたいに悲鳴上げちゃってさ。
 ちょっと教えてほしいことがあるだけなのに。

 しかし捕まえたはいいがどうにも逃げる気満々で話も聞いてくれそうにない。
 しょうがないので縄で締め上げることになってしまった。

 そしたらびっくり。
 よくよく見たら、そいつはナウネで人を指差しサイヤ人だと叫んだ茶色ぶち模様のウサギだった。

「顔、覚えてる」

 そう言って指差したら耳がピーンと立って毛が逆立った。

「ヘタ商会の方ですよね? その節はお世話になりました。――この豆について知りたいんですけど……」

 教えてくれません?
 真摯にお願いしたら、ウサギはブルブル震えてコクコクと頷いた。

 ソタ豆の効能。
 それはほぼ仙豆と言っていいシロモノだった。
 食べれば怪我が治り、腹が膨れる魔法の豆。
 ウサギはそう謳って売り歩いているようだ。

「なんで独り占めしてんの?」
「か、開拓されてるところだし、知られると商人が押し寄せてきちゃうから――」

 ぼそぼそとしゃべるのでトーガが「はっきり言え!」とちょっとばかり怒ると、また耳がピーンと立って震えた。怖かったようだ。

 大丈夫ですよー。怖くないですよー。
 撫でようとしたら毛に到達する前にウサギが気絶した。
 なぜだ。私はまだ、なにもしてないぞ。
 食料品とかあれば買いたかったんだけどな……。

 ほかの従業員に話を聞いたがウサギが一番偉かったらしく、「起きるのを待ってくれ。勝手に取引したらクビにされる」と言われてしまった。
 そんなブラックな上司なのこのウサギ。

 悲鳴を上げながら起きたウサギは取引には応じてくれたけど、終えるなり「二度と会いたくない!」と捨て台詞を残し足早に去っていった。

「そんなに必要か? 豆」
「ええ! 必須です!」

 ギンさんにあきれ返ったような反応をされたが全く気にしなかった。
 仙豆に取りすぎという文字はない。
 下ろしたての〈かばん〉を仙豆専用にするくらい私はソタ豆を取りに取った。

 考えたのだ。
 地球に行くならこれ以上の手土産にはないんじゃないかって。

 サイヤ人なら使うだろう。確かいつも足りるか足りないくらいのぎりぎりだったはず。
 これを持っていけば、地球のどこかには住まわせてくれるかもしれない。
 ベジータさんに売りつければ、ブルマさんがお金を出してくれるかもしれない。
 なーんて下世話な考えを思いついたり。
 下心全開で、献上品としてせっせと〈かばん〉に詰めた。

 パンパンになったころにはすっかりギンさんと仲良くなり、旅立つことを「また寂しくなるなあ」と悲しまれた。
 私たちもしんみりしながら挨拶をする。
 釣りの仕方や、罠のかけ方、ソタ豆料理などいろんなことを教えてくれたギンさんは、私たちがお礼をするのを嫌がった。子どもからもらえないと。

「しょうゆがなくなったらまたおいで」

 ソタの樹液はありがたくもしょうゆと命名された。
 私がしょうゆと無意識に連呼していたかららしい。はずかしい!
 その瓶詰めのしょうゆを大事に〈かばん〉へしまって、私たちは宇宙船へと乗り込んだ。

「ありがとう……ごはん、おいしかった」

 旅立つ時、チルはちゃんと顔を見てお礼を言っていた。言った瞬間隠れたが、怖くて隠れたのではなく、照れて隠れたのだと思う。たぶん。

 ギンさんはまぶしそうに頬を盛り上げた。
 今ではもう、その表情が笑顔だと理解できる。
 宇宙船が飛び立って見えなくなっても、とうぶん双子は手を振り続けていた。


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