第一部旅編
第五章 地球
43 奇跡の手がかり
宇宙船に乗って故郷を出てから早4年。
自分は運がいいな、そう感じることは幾度もあった。
でも逆にいいことないなと思うこともたくさんあった。
まあそんなもんだよねと今まで旅してきたわけだけど、今度ばかりは私は神に感謝した。
当初の予定であれば20年かかるだろうとされていた地球への移住。
宇宙船が新しくなって大幅に短縮されたが、さらに短くなる出来事が起こったからだ。
「この服ちょっと大きいよ」
「コレ! これかっこいい!」
「機能で選ぶからかっこよさは関係ない」
私たちは着ている服が小さくなったのに耐えきれず、新しい服を買うことにした。
ついでに要らない物を売って、必要になりそうなものを買う。
生理用品とか。まだ始まってないけどいつ始まるかわからないので用意して置かないと怖い。
母から『気をつけておきなさい』と言われていたが、言われた年齢に達しても一向に始まる気配がない。
病気かなとも思うこともあったけど、右手を治してくれた病院での健康診断では普通だったし。
あーあ。もっとよく聞いておけばよかった。
ビルタさんが使い捨てのナプキンをくれたんだけど、心もとないので最近人がいる星に積極的に下りて探し回っている。
そんな中下りた星はかなり都会的で、住んでいる人たちには触角が生えていた。
みんな金髪で白目がない、浅黒い肌をしている人種だった。
すこし変わっている種族のようだが関係ない。
体型が普通の人型だったので、安心して服が買える。
しかしここの人たちは他人にまったく興味がないようで、私たちを見てもなんの反応も示さない。
それもなんか寂しいなとは思ったけど、気にせず買い物していたら目的のブツはあった。
布っぽかった。
洗いさえすれば繰り返し使えるが……本音としては嫌……。
使い捨てのナプキンの数を考えたら、万一のためにも持っておいたほうが安心か。
いや、自分で縫ったほうが安上りか?
その他に下着も新調した。
今までノーブラで構わなかったが若干育ってきたかもしれないという希望を持って買う事にする。
スポーツブラタイプを数枚とパンツも買う。
弟妹の下着も買って、動きやすそうな服も手に入れた。
よーし、残ったお金で食料買うぞーと店から出るとその人たちはいた。
店に入る前はいなかったのに。
頭が大きく、つぶらな瞳できょろきょろしてこそこそと話し合っている。
とてつもなく怪しい。
だって団体さんだよ? 20人くらいで道の脇にいるんだよ?
すごく目立つのに金髪黒肌のこの星の人たちは総スルー。なんでだ。
「なんか変わった人たちいる」
「アレで目立ってないって思ってんのかな」
指こそささないが、私たちは同じことを思っていたようだ。
三人でその人たちを見ていたら、いきなり半分消えた。
「はっ!?」
ちょっとまて、消えるだと!? 消える前に頭に手をやってたのを見てたぞ!
その手の形、見たことある!!
ももももももしかして!
「ちょっと声かけてくる!」
「えっ!」
「やめとけって!」
駆けだそうとしたまさにその時にトーガに上着を掴まれてしまった。
「私の予想が間違ってなかったら、逃したら絶対後悔する! だから確かめてくる!」
「はあ?」
「すごい技を教えてくれる人たちかもしれないの! ちょっと声をかけてくるだけだから!」
「ワザ? ……あっ!」
上着を脱いで走った。
記憶違いだったら謝ればいい。
漫画には出てこなかったし、アニメのは覚えてない……だけど!
ここで声をかけなかったら! これを逃したら! もう二度と会うことはない気がする!
「あの!」
近づいて水色の頭をしている人に話しかける。
……遠くから見るよりかなり頭がでかい。
控えめに声をかけたけど、相手はこちらを見なかった。
「あの、すみません! ……? すみません! あの!! もしもし!?」
何回か声をかけても無視。
――はあ? 聞こえてないわけないよね?
イラついた私は、腰らへんを叩いた。
「ちょっと!!」
「ひいっ!?」
え。
叩いて、その感触が残るまま目の前が真っ白に変わった。
景色が変わってしまったのだ。
巨大頭たちは驚いた表情で私を見つめ、そのうちの一人がぼそっと呟いた。
「子ども?」
手がまだ叩いた腰の部分においてある状態で私はあたりをゆっくり見回した。
全然、知らない景色だ。
――双子は?
……置いてきた?
私、ひとり?
サアッと血の気が引いた。
周りは知らない大きい頭がいっぱい。
一気に心細くなった私は、叫んだ。
「か、帰して――――!!!!」
双子と一緒にいる。
それが私の強さというか、強がりの元だ。
よく考えれば二人のために星を出たようなもんだし、二人のために旅をしてきたと思っている。
両親を生き返らせたいのだって自分のせいで死んだからっていうのもあるが、半分は二人に会わせたいからだ。
地球に行くのだってそこでなら二人が幸せに暮らせるだろうと思ってたからで、ドラゴンボールのキャラに会いに行くという野望はすでに小さな願い事くらいに格下げされていた。
つまり、二人と離れることを私は微塵も考えたことがなかったのだ。
「ぅえっ! 帰してっ! さっきのとこにぃ!!」
「えっ!? さっき?」
私は泣いた。
双子と離れ離れになって初めて泣いた。
決して自分の何倍もの大きさの頭が私を覗き込んでくる姿が怖かったからではない。
二人がいないから泣いたのだ!
なのに!
「あっサーヤ! よかった!」
双子は泣いてるところにけろっと現れた。
宇宙船と共に。
あろうことか二人は仲よさそうに巨大頭さんたちと話しながら私の元にきた。
なぜ??
なんでそんな和気あいあいとしてんの?
「サーヤのばーか! やめとけっていっただろ! ったく」
「大丈夫だった? 痛い? どこ? よしよし」
トーガに背中を叩かれチルに頭を撫でられたが、私は呆然とされるがままだ。
「意味わかんない」
頭が疑問符でいっぱいで思わず口をついて出た言葉は、後ろにいたらしい巨大な頭の人に聞かれた
「ごめん。驚いて飛んじゃったんだよねー」
あっけらかんと言う緑色の巨大頭は、ものすごく軽い言葉で返事してきた。
「この人たち、たまに誘拐されちゃうんだって」
「大変だよな。サーヤも謝れよ? おどかしたんだから」
解せない。
なんか流れ的に私が全面的に悪いような感じじゃないか。
私は何回も話しかけたぞ! ラチがあかなかったから軽く叩いたのに!
いや、一人で突っ走った私が悪いんだけど!
お前ら家族だろ!? もっと私の味方をしろよ! 特にトーガ!!
「気づかなかったボクも悪いからさ。……本当にごめんね。ボクが変な声だしちゃったから……驚いて仲間が飛んじゃったんだ」
謝ってくれたのは私が背中らへんを叩いた水色の頭の人だった。
「私も、いきなり叩いてしまってすみませんでした……」
解せないけど、謝られてしまったら非のある私だってそうしないではいられない。
というかこの人、私が泣いているときはいなくなっていたような気がする。
双子と話しているところをみると、この人が宇宙船ごと連れてきてくれたのだろうか。
いやでも問題なのはそこじゃない。
「……なんで君らそんな仲よさそうなの……?」
心の底から不思議だったのだが、それに対する答えは水色の頭の人が頬をかきながら教えてくれた。
「ウチの姉をどこにやったコラって脅されて、謝って自分たちの技ですぐに会えるよって言ったらじゃあ教えろって言う風に更に脅されちゃったんだよね。ハハ……」
乾いた笑いには若干、疲れが見えたのは気のせいだろうか。
視線を双子に移すとチルは照れくさそうに笑い、トーガはなんか得意げだった。
「ふふん。サーヤが言ったんだろー? このヒトたちすごい技知ってるって」
「教えて貰うことになったから、一緒に覚えようね」
「は……」
唖然としてしまった。
まさか私が一人で泣いている間に双子はそれを逆手にとって交渉していたなんて。
うちのこ逞しく育って……!
成長は素直に喜んだ。
でもさ、もっとないのか? おねえちゃん置いていかないでーとか、ないの?
こっちはお前らと離れて精神的に大荒れだったのに、ないの?
感動の再会とかさ。短い別れだったけどないの?
頭なでるだけか?
私の独りよがりみたいになったじゃないか。
なんとなく隙間風にふかれるような寂しさを感じながら、私は眼鏡についた水滴をぬぐった。
「はいはい! オレ目からビーム出したい!」
「ビームは出せるかもしれないけど、使えるかはわかんないなあ、ははは」
トーガと水色の頭の人は楽しそうに会話しているが内容には同意できない。
いやだよ。目からビーム出してる弟なんて。
特撮だったら悪役だよ。
丹念にぬぐい終わった眼鏡をかけると、私の前に手が差し出された。
大きい手だった。
見上げると大きい頭の人はにっこり微笑んで言った。
「ヤードラットへようこそ。約束だからどんな技でも教えてあげるよ」
私はまた叫んだ。今度は奇声に近かったと思う。
