44.ヤードラット

第一部旅編

第五章 地球

44 ヤードラット

 ヤードラット。
 この星は特別な星だ。
 ドラゴンボールの主人公である孫悟空が訪れ、瞬間移動を習得した星。
 原作では名前しか出てこないけれど、その重要性は漫画を読んだことがある人ならば理解できるだろう。

 長いこと旅をしてきて初めて、主人公と関わりのあった星に降り立つというのは感慨深いものがあるし、旅の終わりも感じられた。
 そう、私は手放しで喜んだ。
 ――最初は。

 この星は独特な細長い建物が連なっている家が多く、一見すると屋根から落ちたツララのような風体をしている。
 そこの村長?さんに挨拶しに行くと、二つ返事で滞在を許してくれた。
 悟空さんが技を教えてもらうくらいだから、気のいい人たちなんだろうとは思っていたけれども。
 一応手土産として食べ物を持って行ったのがよかったようだ。

 でもね。
 私が双子と離されて泣いていたという話が既に皆に伝わっており、会う人皆が「大丈夫?」って声をかけてくるのには参った。

 とりあえずやらなければならないことのほうが先だと思考を切り替え、声をかけてくれる人たちにこれ幸いと片っ端から聞いてまわる。

「孫悟空って人がこの星に来ませんでしたか? 黒い髪のサイヤ人なんですけど」

 さぞ不思議に思われたことだろう。
 しかし確認せずにはいられなかったのだ。
 フリーザ様についても聞きまわった。
 確かギニュー特戦隊が来る予定? だったんだよね? 来たのか?
 よくわからなかったためそちらも合わせて聞きまくった。

 結果。

「知らないなあー。フリーザの部下みたいなのは来たけど……遠くの星に飛ばしちゃったし……」

 大体の人が似た様な事をおっしゃった。

 おおーいえー。まじかよ。

 孫悟空というサイヤ人は来ていませんでした。
 フリーザの下っ端は来たけどギニュー?なにそれ?状態でした。

 想定外だ。
 求めていたのは「孫悟空? 知ってる! 地球でしょ? 連れて行けるよ!」という答えだったんだけど、かすりもしなかった。
 困った。
 もしかして、私が知っている地球と違ってる……?

 ちょっとここで考えてみた。

 確かドラゴンボールには3つ歴史があるはず。
 1つはベジータさんの息子であるトランクスさんだけしかいない地獄のような世界。
 2つめは皆生きてて孫悟空さんには孫までできてる平和な世界。
 3つめはトランクスさんがセルに殺されてどうにもならない世界。

 悟空さんがヤードラットに来ていないとすれば、2つ目はなし。
 これは精神的にちょっと辛い。
 双子には地球に来ればドラゴンボールで両親生き返らせれるよ!って言ってしまっている。
 できないとなれば、悲しむだろうか……。
 いや、あきらめきれないからナメック星を探す方向で検討しよう。

 残りは1つ目と3つ目になる。
 1つ目ならいずれ平和になるからそのままでいい。
 双子に闘い方を教えて貰えるように頼みつつ平和に暮らすさ。
 3つ目だと悲惨だ。いや、セルが過去に飛んだ後なら希望はある。
 脅威は無いわけだから、地球で暮らせるわけだ。サイヤ人誰もいないんだけど……。

 問題は今述べたもののどれにも当てはまらない場合だ。

 4つ目、万が一にもトランクスさんが死んでしまっていて、人造人間がいる世界。
 これは……なくはないと考える。
 未来世界のことなんて詳しく知らないが、私という存在は絶対間違いなく漫画の世界には存在していない。
 私みたいなちっぽけな存在が未来どうこうってあんまり思えないけど、前世持ちだし。0.00000000001%でも可能性があるなら、全く関係が無いとは言い切れない。
 地球に行こうとしている時点で漫画とは違う展開になっている可能性が高いような気がするのは自意識過剰なんだろうか。

 そのため万が一にでもすでに未来が変わってしまっていて、地球にはサイヤ人おらず人造人間やセルが人類駆逐してるような世界だったら、即Uターンするしかない。
 勝てないもの。

 最悪のパターンだ。
 もしそうだったらやっぱりナメック星探そう。

 そう結論づけて私は技を教えて貰うことにした。

「ええっと、目からビーム覚えたいんだっけ?」

 目の前で頬をかいている人は、私が叩いたことによって誤って瞬間移動して誘拐した本人、名前をハンマさんといった。この人が私たちに技を教えてくれるらしい。

「そう!」
「いえ、瞬間移動でお願いします」

「えええー!」と非難の叫びを上げるトーガのことは無視して私はハンマさんに詰め寄った。
 ヤードラットだよ? ヤードラットといったらむしろそれしかないだろう。

 瞬間移動。

 これさえあれば、一瞬で移動が可能になる。
 確か知ってる人のところにしかいけないんだよね?
 それでいい。
 皆で覚えれば、なにかあったときにすぐに逃げられるじゃないか。
 なんとしてでも覚えなければならない。

「瞬間移動か。……うーん、ちょっと難しいかもよ?」

 怯んだように数歩後ろに下がった後、ハンマさんは私たちをゆっくり見回した。

「難しくても覚えたいんです。できなきゃならないんです」
「えー、オレも覚えるの?」
「わたしも?」
「もちろん。皆でできたほうがいいからね」

「わ、わかったよ。ちょっとよけて」と言ってハンマさんは咳払いし、地面に木の枝を使って絵を書き始めた。
 私たちがいるのは開けた広場みたいなところだ。

「瞬間移動はね。相手のエネルギー、つまりですけど。これを感知することから始まります。相手の気を感じたらそれに集中しながら自分の気を高め、体全体を覆うようなイメージで……」

 ガリガリと棒人間を書きながら説明してくれるのは嬉しいんだけど、いまいち内容がつかめない。

「なんていえばいいかな。収縮させるような感じ? 体の鳩尾くらい? そこに体の気を覆いながら集めるような……」

 感じとかくらいとかようなとか多すぎるよ。
 もっとはっきりして欲しい。
 じゃないと……。

「……わかんねーよ。オレ、気配も近くのしかわかんないし、気もろくに出せないんだけど」

 しゃがみ込んだトーガは半目で既にやる気が皆無のようだ。
 チルは首を傾げて地面の絵を見るが、ピンと来ていないらしい。
 私もだ。
 ハンマさんは小さめの目をきょとんとさせて、淡々と言った。

「気のコントロールができてないと無理だよ。……そこからなの?」
「コントロールできないと目からビームだせないの?」
「そりゃあそうだよ。技は自分の力を変化させてできるものだ。出せないとなると……そりゃ大変だ」

 ちょっと待ってくれ。私も出せない。

「わたしは出せるよ?」

 チルがもじもじと上目使いでぽそっとつぶやくが、私とトーガは顔を見合わせた。

「あの、出せないのが二人なんですけど」

 正直に言うと、ハンマさんは腕を組んでこっくりと頷いた。

「じゃあ基礎からだね」

 2人ともできないとなると、最初からがんばるしかないというので、まず気のコントロールというものを学ぶことになった。

「なんでお前もやってんの。お前はできるだろ」
「み、みんな一緒がいいから……」
「集中しないとできるものもできないよ?」

 4人で座りながら気を高めて外に出す練習をし始めたのだが、チルは即できてしまった。
 私とトーガは出せず、うんうん唸りながらやっていたら「静か」にと窘められる始末。
 結局その日一日ではなにも変わらず、私たちは宇宙船の寝床で天井を見ることになった。

「……覚えられる気がしねーなー。無理じゃねーかなー」

 独り言にしてはずいぶん大きな声でトーガが喋っていたが、私は無視するように寝たフリをした。


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