第一部旅編
第五章 地球
48 生き残り
考えてみれば簡単だ。
地球に行ってダメだったらヤードラットに戻り、そこを拠点にしてナメック星探す。
お菓子献上しまくってヤードラットの人にも手伝って貰う。
トーガの問題は、今のところ渡り合える竜もいるし、ハンマさんの言ったとおり数多の星にはサイヤ人並に強い人もいるはず。
私は決めたのだ。
――最悪の状況を受け止める覚悟を。
宇宙船の起動盤を睨んで、深く息を吐く。
画面に表示されていたのは、〈地球〉という文字。
正面を向けば窓から望んでいたモノが見える。
「あれが地球? ……なんか普通の星だな」
「でもきれいなほうだよ。青いし」
双子は背を伸ばして正面の窓からその星を眺めている。
青い星だ。――どこかで見たことのある写真がそのまま目の前に映し出されているみたいだった。
白い雲の流れが、星は写真なんかではなく、本物だと主張している。
地球。――まさか、この目で実物を宇宙から見ることになろうとは。
私はその青い星から目が離せないでいた。
行けば、ひょっこり日本があるかもしれない。
なんて考えが頭を占領するくらい、頭の中に浮かぶのは前世のことばかり。その記憶にまぎれるようにドラゴンボールのことも思い出す。
懐かしさなのか、好奇心なのか。
なんとも表現できない気持ちに胸はぎゅうぎゅうと締め付けられた。
もうすこし、もうすこしで着く。
近付くに連れて心臓は鼓動を早めて、痛いくらいに高鳴る。
「サーヤ? 大丈夫かよ」
「いたいの? 心臓?」
心配そうに声をかける双子に、微笑を返す。
抑えなければ堪えられないほどに脈打つ心臓は、どくどくと容赦なく期待の大きさを実感させる。
万が一のために、着陸場所は海のど真ん中を狙う。
陸地は人造人間がいたらまずい。かち合って闘うなんてごめんだ。
大きな音を立てながら着水し、すぐさま宇宙船の扉を開ける。
浮かんでいる宇宙船の上で意識を集中してみると、大きい気がひとつあることに気がつく。
ここから近い。
人造人間か? それともトランクスさん? ……わからないな。
確かめてこようか。
私は閉じていた目を開けた。
「サーヤ。これからどうするんだ?」
「私、ちょっと行ってくる。二人は宇宙船でシロと待ってて。……もしなにかに攻撃されたら戦おうとせずに逃げること」
扉から顔を出す双子にそういうと、二人の顔が驚きに変わる。
「は!? 攻撃!?」
「皆で行こうよ!」
「……危なかったら瞬間移動で帰って来るからすぐに飛べるようにしといて」
「ど、どういうことだよ!」
「サーヤ! 待って!」
「すぐに帰って来るから!」と空に向かう。
前方は見る限り続く水平線と青い空。
知っている青さに懐かしくなりながら私は飛んだ。
飛び続けていると島が転々と見えてくる。
大きなものも中にはあり、山に木々が生えているが建物などは無い。
自然そのままに残っていた。
日本みたいな島国は無いのかな?
そんな風に思いながら飛び続けると左側に大きな山が見えてくる。断崖絶壁になっている向こう側は陸地のようだ。
大きな気配はそちらには無い。海側にぽつんといるようなのだ。
「あ!」
気配に近づくと、そこには小さな島に小さな家がぽつんと立っていた。少し古びたその家を、くるりと回って見てみると【KAME HOUSE】と書かれている。
「か、亀、ハウスって……」
見間違いかと目を擦っても、文字は変わらずそこにある。気配も間違いなくこの家の中にいるのを感じる。
本人? ――確かめてみよう。
家の前に下り、玄関の前に立つ。
あれ? 呼び出しのチャイムとかないの?
それらしいボタンとか探してみるが見当たらない。
……待てよ? なんといって入ればいいんだ?
通りがかって……怪しすぎるか。
……宇宙人です? まさかな。
まずい。地球に行きたいということしか考えてなくて、出会ったらどうするかを考えてこなかった。
扉の前で腕を組んで悩んでいたら、後ろのほうから水がはねた音がした。
……特に気にすることもなく考えに没頭していると、唐突に異質な音が耳に入る。
「あの、なにか御用でしょうか?」
「ひえっ!?」
驚いて飛び上がりそうになるのをこらえて振り向くと、茶色い亀がくりっとした眼を瞬かせて笑った。
「か、亀? ……え?」
「あ、女の子でらっしゃいますか? なんとまあ、珍しいこともあるものです。亀仙人様ー! 女の子ですー! 女の子がいらっしゃいましたよー!」
亀はこんなにも大きい声を出せたのだろうか?というくらい扉に向かって大きな声を張り上げた。
って、ええ!? 女の子女の子言い過ぎじゃない? ちょっと待ってよ! 心の準備がまだ!
できていない、と思ったところでバタバタ、バン!と大きな音を立てて扉が開いた。
現れたその人は白いひげを蓄え、サングラスをしている。見た目そのまま漫画からでてきたような姿だった。
「か、亀仙人……? さん? ……あれ?」
しかし、知っている人と決定に違うところがあった。
それにばかり目がいって、私の口からは歯切れの悪い言葉ばかり出て行く。
「あ、あの」
「お知り合いでございますか? いやはや女の子が訪ねてくるなんて何年ぶりでございましょう! 亀仙人様も嬉しいでしょ! ねっねっ!」
嬉しそうにはしゃぐ亀さんとは対照的に亀仙人はゆっくりを首を縦に下ろすと、のたまった。
「――知らんし……子供じゃん」
……は?
私の眉はよってると思う。
「いやでも女の子ですよ! 生きてる女の子! 生身の女の子!」
「やかましいわい! ワシが見たいのはぷりぷりのギャルなの! ペッタンコな子供に興味はない!」
亀仙人は杖をつきながら亀さんのところに行くとびしっと杖の先で私を指した。
ぺっ……たんこ、だと?
普通、初対面でそんなこと言う!?
「今はペッタンコでも将来は大きくなりますでしょ! いやー嬉しい限りですな! 最近はトンと人も来ませんで」
「……ふん、どうせすぐに死ぬわい」
亀仙人は小さく呟くように言う。
すぐに死ぬ。
確定的な言い方だった。
詳しく聞きたかったが、亀と亀仙人のやり取りに口を挟めず見続けることになってしまった。
「どうせ連れてくるならむちむちのギャルにせい! なんで子供連れてくるんじゃ! 全く!」
「私は連れてきてませんよ? お家の前にいたんです」
亀仙人はきょろきょろと辺りを見回して亀を杖で突いた。
「……船無いじゃないか。嘘をつくでない。お前が連れてこんかったらどうやってここまで来るというんだ」
「いつの間にかいらっしゃいましたよ」
「ふん?」
亀さんと亀仙人は私を見つめた。
もしかして、飛べば話を聞いてくれる?
「と、飛んできました。あの、お話しを聞いていただけないでしょうか。孫悟空さん……いえ、トランクスさんについてお聞きしたいんですが」
私はふわりと浮かんで見つめ返す。すると亀仙人は私の浮かんだ足と顔で視線を彷徨わせ、あんぐりと口を開けた。
「舞空術だと……!? お、お前さん……何者じゃ?」
詳しく話せば長くなる。
自己紹介も兼ねて宇宙の果てからやってきたこと、悟空さんの夢を見ること。
ドラゴンボールで両親を生き返らせたいこと。
それこそ父に話したことと同じようなことを、それに未来も付け足して話した。
「悟空、坊ちゃま……いえ、悟空さんのことを話せる日が来るなんて」
亀さんは話すたびにはらはらと涙をこぼした。
当初こそ困惑的だった亀仙人は話が進むに連れて徐々に眉に皺を寄せていく。
信じて貰うのは難しいと思う。
しかし、嘘をついても誤魔化そうとしても意味がない。
亀仙人の姿を見たら、そう思った。
左足が無かったのだ。
太ももから下にあるべきものがない。
それが平和ではないという証明かつ証拠だった。
私はそのなくなった足を見つつ、核心に触れた。
「まだ人造人間がいるんですよね? 平和じゃ、ないんですよね?」
亀仙人は口を噤んだまま黙り込んでしまった。
亀さんを見ればくったりと頭を垂れている。
――やっぱり。
「ブルマさんは? ブルマさんの息子さん、トランクスさんは生きていますか? それが知りたいんですけれど」
眉間の皺が一番深く刻まれたのは、そう質問をしたときだった。
「か、亀仙人様……」
そこまで問い詰めても亀仙人は黙ったままだ。その渋そうな顔を亀さんが、悲しそうでいてあきらめも混ざったような顔で見上げる。
「去れ」
亀仙人は一言だけつぶやくと片足で飛び跳ねながら歩き出した。
